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魔法学園編
第85話 魔法を撃つ
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『マオ、あんたの氷弾は使いようによっては接近戦でも役立つかもね』
『えっ……?』
バルルが課した試練を終えた後、マオは魔法学園に戻って氷弾の訓練を行った際にバルルに声を掛けられた。接近戦という単語にマオは呆気に取られるが、彼女はマオに魔術師の弱点をここで初めて教えてくれた。
『魔術師の弱点は相手と距離を詰められたとき、魔法で反撃する術が限られているんだよ。敵が近くにいる状態で火力の高い魔法なんか使ったら自分も巻き込まれるかもしれないだろう?』
『なるほど……』
『そういう意味では魔拳士の方が接近戦に向いている。むしろ相手が近付いてくれる方がこっちも助かる』
説明の際中に魔拳士であるミイナは口を挟み、魔術師と違って魔拳士の場合は接近戦を得意としており、逆に言えば距離を取られて戦う事を苦手とする。
『まあ、魔拳士はともかく、あんたはどう考えても魔術師向きだからね。もしも相手が近付いてきた時、自分の身を守る方法も身に着けておきな』
『自分の身を守る方法と言われても……』
『別に難しく考える必要はないよ。あんたはもう既に対抗策を持っているんだ。それならそいつを生かす方法を考えればいいだけさ』
マオは先ほどの彼女の言葉を思い出し、自分が接近してきた相手に対して対処する方法と言われて真っ先に思いついたのが「氷弾」だった。氷刃よりも氷弾の方が接近戦に適していると考えたのは二つの魔法の発動するまでの手順である。
どちらも氷塊を作り出して形状を変化させるという点は共有しているが、重要なのは攻撃速度だった。氷刃よりも規模が小さく回転力が高い氷弾の方が圧倒的に攻撃速度が速く、しかも氷刃よりも魔力消費量も少ない。攻撃範囲と軌道を変更できるという点では氷刃の方が優れているが、咄嗟に魔法を使用する場面では氷弾の方が圧倒的に使いやすい。
『あんたの氷弾は杖先から作り出して撃ち込むんだろ?なら、相手が近付いてきた時にその杖を構えて撃てばどうなると思う?』
『どうなるって……』
『答えは自分で試してみな』
バルルはマオに接近戦を仕掛けようとした敵の対処法を教えると、そこから先はマオは氷弾を使用した新しい攻撃法を編み出す――
(――ここで使うしかない!!)
マオはこの数日の間にさらに磨き上げた「氷弾」の魔法を利用し、目の前で棒立ちになっているコボルトに迫る。コボルトもまさか獲物《マオ》の方から自分に接近してくるとは思わず、反応が遅れてしまう。
闘技台の周囲に立っている教師たちもマオの行動に驚き、彼が何を考えているのか理解できなかった。本来であれば魔術師が敵に接近戦を持ち込むなど普通ならばあり得ず、自ら敵に近付いて戦うのは「魔拳士」の戦い方である。
しかし、マオはこれまでの訓練を思い返しながら小杖を構え、コボルトの肉体に狙いを定めて腕を伸ばす。そしてコボルトの胸元に杖が構えられた瞬間、マオは魔法を発動させた。
「はああっ!!」
「ガハァッ――!?」
小杖から数センチほどの大きさの氷塊が形成され、高速回転した状態で放たれる。至近距離から撃ち込まれた氷弾にコボルトは反応する事すら出来ず、胸元に氷の弾丸が貫く。弾丸はコボルトの肉体を貫通し、そのまま結界に衝突して砕けてしまう。
闘技台の外の教師たちの目には何が起きたのか分からず、立ち尽くしたまま動かないコボルトと、その前に冷や汗を流しながら小杖を構えるマオが立っていた。やがてコボルトは口元から血を流すと、白目を剥いて前のめりに倒れ込む。
「アガァッ……!?」
「はあっ、はあっ……」
コボルトが倒れたのを確認すると、マオは全身から汗を流しながら見送る。使用した魔法は氷弾だけだが、戦闘中にずっと感じていた緊張感が途切れた事で一気に疲労が襲い掛かり、立っている事もできずにその場に座り込む。
「え、あっ……」
「な、何が……起きたんだ?」
「これはいったい……」
「馬鹿な……これはどういう事だ!?」
結界越しに試合を観戦していた教師陣は目の前で起きた出来事を理解できず、タンも何が起きたのか訳が分からなかった。しかし、ただ一つだけ間違いなく言える事はコボルトは死亡し、それを倒したのは紛れもなくマオだった。
「い、いったい何が……何をしたんだ!?」
「そんな事、どうでもいいだろう?」
「何だと!?」
「そんな事よりも何時まで結界を維持してるんだい?試合は終わったんだよ、さっさと解除しな!!」
「ぐっ……!?」
「……解除しなさい」
取り乱すタンに対してバルルは小馬鹿にするような態度を取ると、彼は学園長であるマリアに顔を向ける。マリアは闘技台を見て何か考え込んでいたが、すぐに教師たちに結界を解除するように指示を出す。
闘技台の結界が解除されると、闘技台の上に教師たちが押し寄せてマオの元へ向かう。マオは近づいてくる教師たちに驚くが、彼等からすればマオがどんな魔法でコボルトを倒したのか気になって仕方がなかった。
『えっ……?』
バルルが課した試練を終えた後、マオは魔法学園に戻って氷弾の訓練を行った際にバルルに声を掛けられた。接近戦という単語にマオは呆気に取られるが、彼女はマオに魔術師の弱点をここで初めて教えてくれた。
『魔術師の弱点は相手と距離を詰められたとき、魔法で反撃する術が限られているんだよ。敵が近くにいる状態で火力の高い魔法なんか使ったら自分も巻き込まれるかもしれないだろう?』
『なるほど……』
『そういう意味では魔拳士の方が接近戦に向いている。むしろ相手が近付いてくれる方がこっちも助かる』
説明の際中に魔拳士であるミイナは口を挟み、魔術師と違って魔拳士の場合は接近戦を得意としており、逆に言えば距離を取られて戦う事を苦手とする。
『まあ、魔拳士はともかく、あんたはどう考えても魔術師向きだからね。もしも相手が近付いてきた時、自分の身を守る方法も身に着けておきな』
『自分の身を守る方法と言われても……』
『別に難しく考える必要はないよ。あんたはもう既に対抗策を持っているんだ。それならそいつを生かす方法を考えればいいだけさ』
マオは先ほどの彼女の言葉を思い出し、自分が接近してきた相手に対して対処する方法と言われて真っ先に思いついたのが「氷弾」だった。氷刃よりも氷弾の方が接近戦に適していると考えたのは二つの魔法の発動するまでの手順である。
どちらも氷塊を作り出して形状を変化させるという点は共有しているが、重要なのは攻撃速度だった。氷刃よりも規模が小さく回転力が高い氷弾の方が圧倒的に攻撃速度が速く、しかも氷刃よりも魔力消費量も少ない。攻撃範囲と軌道を変更できるという点では氷刃の方が優れているが、咄嗟に魔法を使用する場面では氷弾の方が圧倒的に使いやすい。
『あんたの氷弾は杖先から作り出して撃ち込むんだろ?なら、相手が近付いてきた時にその杖を構えて撃てばどうなると思う?』
『どうなるって……』
『答えは自分で試してみな』
バルルはマオに接近戦を仕掛けようとした敵の対処法を教えると、そこから先はマオは氷弾を使用した新しい攻撃法を編み出す――
(――ここで使うしかない!!)
マオはこの数日の間にさらに磨き上げた「氷弾」の魔法を利用し、目の前で棒立ちになっているコボルトに迫る。コボルトもまさか獲物《マオ》の方から自分に接近してくるとは思わず、反応が遅れてしまう。
闘技台の周囲に立っている教師たちもマオの行動に驚き、彼が何を考えているのか理解できなかった。本来であれば魔術師が敵に接近戦を持ち込むなど普通ならばあり得ず、自ら敵に近付いて戦うのは「魔拳士」の戦い方である。
しかし、マオはこれまでの訓練を思い返しながら小杖を構え、コボルトの肉体に狙いを定めて腕を伸ばす。そしてコボルトの胸元に杖が構えられた瞬間、マオは魔法を発動させた。
「はああっ!!」
「ガハァッ――!?」
小杖から数センチほどの大きさの氷塊が形成され、高速回転した状態で放たれる。至近距離から撃ち込まれた氷弾にコボルトは反応する事すら出来ず、胸元に氷の弾丸が貫く。弾丸はコボルトの肉体を貫通し、そのまま結界に衝突して砕けてしまう。
闘技台の外の教師たちの目には何が起きたのか分からず、立ち尽くしたまま動かないコボルトと、その前に冷や汗を流しながら小杖を構えるマオが立っていた。やがてコボルトは口元から血を流すと、白目を剥いて前のめりに倒れ込む。
「アガァッ……!?」
「はあっ、はあっ……」
コボルトが倒れたのを確認すると、マオは全身から汗を流しながら見送る。使用した魔法は氷弾だけだが、戦闘中にずっと感じていた緊張感が途切れた事で一気に疲労が襲い掛かり、立っている事もできずにその場に座り込む。
「え、あっ……」
「な、何が……起きたんだ?」
「これはいったい……」
「馬鹿な……これはどういう事だ!?」
結界越しに試合を観戦していた教師陣は目の前で起きた出来事を理解できず、タンも何が起きたのか訳が分からなかった。しかし、ただ一つだけ間違いなく言える事はコボルトは死亡し、それを倒したのは紛れもなくマオだった。
「い、いったい何が……何をしたんだ!?」
「そんな事、どうでもいいだろう?」
「何だと!?」
「そんな事よりも何時まで結界を維持してるんだい?試合は終わったんだよ、さっさと解除しな!!」
「ぐっ……!?」
「……解除しなさい」
取り乱すタンに対してバルルは小馬鹿にするような態度を取ると、彼は学園長であるマリアに顔を向ける。マリアは闘技台を見て何か考え込んでいたが、すぐに教師たちに結界を解除するように指示を出す。
闘技台の結界が解除されると、闘技台の上に教師たちが押し寄せてマオの元へ向かう。マオは近づいてくる教師たちに驚くが、彼等からすればマオがどんな魔法でコボルトを倒したのか気になって仕方がなかった。
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