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魔法学園編

第87話 マオの弱点

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――無事に試験を終えてから数日が経過すると、マオとミイナは本格的にバルルの指導を受けるようになった。最近は屋上で訓練を行う事が多く、マオは小杖を構えるとミイナは「炎爪」を発動させて両手に炎を纏う。


「よし、やりな」
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「いいからやりな!!怖気づいているんじゃないよ!!」
「マオ、私なら大丈夫……だから遠慮はしないで」


マオは離れた位置からミイナに小杖を構え、彼女に狙いを定めて魔法の準備を行う。一方でミイナの方は炎の爪を維持した状態で待ち構えると、覚悟を決めたマオはミイナに目掛けて「氷弾」を放つ。


「やああっ!!」
「……にゃあっ!!」


掛け声と共にマオは氷弾を作り出してミイナに発射させると、普通の人間の目では捉えきれない程の速度で氷の弾丸は彼女に向かう。常人ならば反応すらできないだろうが、獣人族であるミイナは人間以上の動体視力と運動能力を誇り、彼女は迫りくる氷弾に目掛けて炎の爪を放つ。

彼女の纏う炎の爪が氷弾に触れた瞬間、溶けて消えてなくなってしまう。傍目から見ればマオが声を上げた途端にミイナが腕を振り払ったようにしか見えないが、彼女は正面から撃ち込まれた氷弾を自分の魔法で無効化した。


「ふうっ……ちょっと冷っとした」
「だ、大丈夫ですか!?」
「問題ない」
「……やれやれ、やっぱり獣人族が相手だと見切られるようだね」


氷弾を掻き消したミイナを見てバルルは頭を掻き、これまでマオの氷弾はどんな相手でも通用したが、先輩であるミイナに打ち破られてしまった。マオはミイナが無事だった事は嬉しいが、自分の魔法があっさりと無効化された事に衝撃を受ける。


「これで分かっただろう?あんたのの弱点が……」
「弱点……」
「確かにあんたの氷弾は攻撃速度は目が見張るものがあるよ。人間や動きのとろい魔物なら十分に通用する。だけど、獣人族のような身体能力が高い奴等には見切られてしまう」
「でも、私もぎりぎりだった」


マオの氷弾の長所は攻撃速度が速く、しかも指先程度の大きさの氷塊なので普通の人間なら撃ち込まれても反応はできないはずだった。だが、ミイナのような獣人族ならば持ち前の運動能力と動体視力で弾丸を見切って対処する事が可能だと判明した。

これまでにマオが氷弾を撃ち込んだ相手はオークとコボルトだけであり、前者のオークは魔獣の中では力は強いが動きは弱く、当てるのは容易い相手だった。コボルトの場合は動きも速くて人間以上の反応速度を誇るが、マオが至近距離から氷弾を撃ち込んだ事で当てる事に成功した。

これらを踏まえるとマオの氷弾は優れた動体視力と運動神経を誇る相手には避けられる危険性があり、しかも氷刃と違って氷弾は攻撃の軌道を途中で変更させる事はできない。つまり、獣人族や動きの速い魔物相手には通じない事を意味する。


「あんたの氷弾は規模が小さい分、魔力が少ないんだよ。だからミイナの炎の爪に簡単に掻き消されるんだ」
「うっ……」
「かといって規模を大きくすると攻撃速度が落ちるんだろ?それだと唯一の長所を潰す事になるね」
「ううっ……」


氷弾の長所は数センチほどの大きさの氷塊を作り出すだけでいいため、魔力の燃費は氷刃よりも低い。しかし、あまりに小さすぎるために氷塊を形成する魔力が少ない事を意味しており、ミイナのように他の魔法と衝突すると簡単に破壊されてしまう。

魔力を増加させて氷塊を作り出す場合、自然と氷塊が大きくなってしまう。そして大きさを増すと細かな操作は難しくなり、思うように動かす事ができない。マオの氷弾の強みはである事を考えると無暗に氷塊を大きくするわけにはいかない。


「あんたのこれからの課題は新しい魔法を作り出す事じゃなく、今まで覚えた魔法をより強化させる方法を見つける事だね」
「強化、ですか?」
「そうさ、とりあえずは相手に避けられずに魔法を当てる方法を考えな」
「助言はないの?」
「してやりたいけど、あたしが扱えるのは火属性の魔法だけだからね……」


バルルは火属性の魔法を得意としており、生憎とマオのような氷を扱う魔法は使えない。それでも彼女は考えた末にマオに一つだけ助言を与える。


「質と量……このどちらかを選ぶべきだと私は思うよ」
「えっ?」
「助言はここまでだ。後は自分で考えて工夫しな、あたしはしばらくの間はこいつの指導に付きっ切りになるからね」
「……面倒くさい」


マオに対してバルルは一言だけ助言を伝えると、彼女はミイナの首根っこを掴んで彼女の指導を行う。ここ最近はマオの面倒ばかりを見てきたが、彼女も正式にバルルの生徒となった以上は指導を行わなければならない。


「質と量……?」


一人残されたマオはバルルに言われた言葉を思い返し、自分が何をするべきか考え込む――
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