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魔法学園編

第89話 兵士との遭遇

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「何処に行こうかな……あれ?」


当てもなく歩いていたマオは視界の端に見覚えがある建物が入り、そこは冒険者ギルドだった。バルルに連れられて何度か足を踏み入れた事があり、ここのギルドマスターとはもう顔見知りである。


(冒険者か……魔物退治の専門家だと思っていたけど、本当は色々な仕事をするとバルルさんが言ってたな)


冒険者は一般人の間では魔物を退治する事が仕事だと思われているが、実際の所は魔物退治以外の仕事の依頼が多い。商人や貴族の護衛、警備兵の代わりに街を巡回したり、他にも荷物の運搬などの雑用の仕事を頼まれる事も多いとバルルは言っていた。

それでも最も依頼量が多いのは魔物退治である事は間違いなく、基本的には魔物が現れた場合は国の兵士に頼むよりも冒険者に任せる事が多い。マオの暮らしていた地域では魔物は滅多に出現しないので冒険者はいなかったが、この王都には数え切れないほどの冒険者が働いている。


(僕も一応は魔物を倒せるぐらいの魔法は身に着けたし、冒険者になれないかな……?)


マオの師匠であるバルルも元々は魔法学園の生徒だったが、当時の教師の教育方針のせいで彼女は三年生以上の進級を許されず、それに怒りを覚えた彼女は学園を退学して冒険者になったとマオは聞いていた。

もしも自分が学園を辞める事になればバルルのように冒険者になるのも有りではないかと考えたが、前に冒険者になるための年齢制限がある事を思い出す。


(あ、でも無理か……今はもう18才にならないと試験も受けられないんだっけ)


現在の冒険者ギルドは制度が変更して18才以下の人間は冒険者になるための試験を受ける事ができず、この制度は数年前に施行されたため、バルルが冒険者になった時は15才以上の人間が冒険者になる事はできた。

今の時点ではマオは実力はあっても年齢の問題で冒険者になる事はできず、諦めて彼はギルドから立ち去ろうとした。そもそも冒険者という職業は魔物と戦う危険な職業のため、下手をしたら命を落としかねない。


(もう魔物と戦うのも懲り懲りだし……他に良い仕事はないのかな?)


最初は気分転換のために街に繰り出したマオだったが、いつの間にか自分が働けるような店を探す事に熱中していた。できれば田舎に暮らす両親のためにも仕送りしたいという気持ちもあり、マオは自分の年齢でも働ける方法はないかと考えて歩いていると、不意に声を掛けられた。


「ちょっと、そこの君……顔を見せてくれないかい」
「えっ?」


後ろから声を掛けられたマオは振り返ると、そこには見回り中と思われる兵士が立っていた。兵士に呼び止められたマオは驚き、自分が何か仕出かしたのかと思ったが、すぐに顔見知りである事を思い出す。


「ああ、やっぱりそうだ!!あの通り魔を捕まえた子か!!」
「あ、あの時のお兄さん!?」


兵士は前にマオが通り魔を捕まえた時に顔を合わせた人物であり、相手はマオに気付いて親し気に話しかける。この兵士とは何度か顔を見合わせているためマオも安心する。


「いや、久しぶりだね。最近は顔を見なかったから王都を離れたのかと思っていたよ」
「お久しぶりです。あの、例の通り魔は……」
「ああ、奴なら牢獄だよ。もう二度と外に出られる事はないから安心したまえ」
「そうですか……」


まだ魔法を覚えたての頃、マオは通り魔に襲われた。その時は不意を突いて通り魔から逃げる事はできたが、後日にマオの前に通り魔がまた現れた。

二度目の遭遇の時はマオは自分なりに魔法の練習を行い、奇策を用いて通り魔を逆に捕まえる事に成功した。捕まえた通り魔は兵士に引き渡し、城下町を騒がせていた通り魔を捕まえたという事でマオは兵士からの信頼を得る。


「君のような子供があの凶悪な殺人鬼を捕まえたなんて今でも信じられないな……そういえば君は魔法学園の生徒なのかい?」
「はい。あ、いや……あの殺人鬼を捕まえた時はまだ入学してませんでしたけど」
「なるほど、そうだったのか」


通り魔を捕まえた時のマオはまだ魔法学園には入学していなかったが、この事件が切っ掛けでマオの噂が広がり、その噂を聞きつけた学園長が彼の入学を許可した。この時に学園長から月の徽章を受け取る事ができたのも、通り魔を返り討ちにした件で彼女の興味を惹いたからだともいえる。


「お兄さんには色々とお世話になりました」
「いや……実は僕も君ぐらいの年齢の弟がいてね。それでちょっと放っておくなくてね」


マオの知り合った兵士は通り魔を捕まえた時も親身に彼の話を聞いてくれ、怖がらせずに落ち着かせて彼の話を一部始終聞き遂げてくれた。他の兵士はマオが通り魔を捕まえたと聞いても簡単には信じてくれなかったが、この兵士だけはマオを疑わずに信用してくれた。

兵士にはマオと同年代の弟がいるらしく、そのせいで彼と弟を重ねてしまい、子供である彼の言葉も真剣に聞いてくれたという。
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