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記念ショートストーリー
SS2−2 文庫1巻記念SS「女神からの贈り物~または、アレックスの勘違い(?)道中」
しおりを挟む少女を追いかけていた巨大イノシシについて取り分を聞くと、俺の取り分にして良いとの事なのでとりあえず簡単に解体して持っていく事に。
イノシシを魔法袋に入れる際、うっかり左手を動かしてしまい、酷い痛みに襲われた。
「痛っ」
俺の左手はとある理由で呪われている。
その呪いは、俺の利き腕を動かそうとする為に俺を戒めるように痛みを伝えるのだ。
「大丈夫ですか」
少女は俺に不安そうに聞く。安心させるように昔の事だと言って、その場は誤魔化すが──。
この不思議な黒髪の少女の、真価が発揮されるのは、この後であったのだ。
結果的に、俺の腕は彼女の手によって治った。
いや、本来は俺に掛かった呪いというものはそんな簡単なものでは無かったのだが、少女がその身に抱える膨大な、そして清き魔力を湿布薬だという薬草に祈りと共に含ませたら、呪いが取り除かれたのである。
それは狩人が森で活動する時に利用している小屋での事だ。
少女特製の森の幸を使った昼飯を食べ終わると、多少はハーブの扱いが出来ると治療を申し出た少女は、契約獣である「ぽち」 と共に治療薬を作り、まるで気負いなく、簡単に呪いを解いてしまったのだ。
「ぽちはお手伝いお願いね」
「わん」
しかしまあ、ここまで高ランクのモンスターを、よくもこんな気軽に扱えるもんだ。
地上最強とされるシルバーウルフ。その幼体と言えど、人間にはまず懐かないとされている。
俺ら冒険者が普段見るのはCからBランク程度の郵便物の配達に扱われる鳥が殆どだから、まずこんな高ランクが懐いている様自体が異様に感じる。しかし、少女は全く気負いもなく契約獣を使役しているのだから、テイマーとの絆というものが存在するのは間違いないのだろう。
「上手く出来ますように」
ハーブを扱う少女の声と共に、清き魔力が小屋に満ちる。清涼な花の香りを纏ったその魔力は、俺には馴染みのあるものであった。
──それは、小屋の側にある創生女神の祠に満ちる、魔力に酷似したものだ。
「ちょっと痛むでしょうが、我慢して下さいね」
テーブルを施療台にして、少女は器用に治療して見せた。
その細い手で湿布薬を当てられると、それだけで呪いが薄らいでいくような心地がする……。
この頃になると、いよいよ俺はこの少女の存在自体をどう扱えば分からなくなってきた。
手荒れもなく、強いて言えば知識層の証とも言えるペンだこがある細い指先を見れば、貴族の子女の可能性は大だ。この十年というもの、魔力持ちの為に強制的に魔法学校に入れられた俺は、貴族絡みで酷い目ばかりに遭ってきたのだから。
呪いというものは、絶えず対象の持ち物に魔力を注ぎ対象を呪い続ける必要がある。今や魔力を持つ者が貴重となったこの時代に、それが出来るのは魔術師を何名も抱えられる貴族のみだ。
だからこそ、俺は貴族というものを疑って掛かる。
けれどこの、出会った当初から俺を心配し、かつ己の魔力を惜しみなく使って見ず知らずの男を治療しようとしたりする善人を、疑っていいものかとも思うのだ。
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