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前線基地4

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ついに来たようだ。流石ダニエル様である。大好きな涼からのメッセージとなれば、他の業務なぞ捨ておいて返してきたに違いない。恋する乙男は格が違う。

ヨハンに手渡された質の良い手紙。それをそっと慣れた手つきで開き、内容を見据える。表情的にはまだ何も読めないが……どうなのだろうか。

「……分かった。では内容を伝える。よく聞くように。」

全員がヨハンの目の前に一列に姿勢を正し座る。どことなく涼が一番緊張しているように思えた。

「先ず第一に、涼が提案した戦闘、負傷兵への治癒魔法に関してはどちらもこなして構わない。との事であった。」
「……ほんと?」
「あぁ。だが、条件がある。指定した後方支援部隊が管轄している魔獣及び瘴気の浄化を成し遂げた後にのみ負傷兵を治癒する事。むやみやたらに治癒魔法を行えば二人の魔力量を持ってしても、本来の業務の方に支障をきたしてしまう可能性がある為……だと。」
「つまりは、さっさと魔獣と瘴気を何とかすればその後は好きにしていいってことだな。」
「そういう事だ、これでも大分ダニエル様としては良い案を出してくれたと思うんだが。……涼。」

全員が彼女を見つめる。
若干頭が下に向いているが、大丈夫だろうか。俺としてはダニエル様の話は悪くは無いと思うのだが。魔獣討伐をしている間は確かに、負傷兵の皆さんは耐えてもらうしかないけれど……治療魔法をしないという訳では無い。あのテントの中の人達は直ぐに亡くなってしまうという訳でも無いだろう。ヤバかったらここの医療魔法専属の方々に頼み込めば良いだけである。

「わ、私もダニエル様の提案に賛成です!!お兄ちゃん、さっさと倒しに行こう!!!」
「お、おぉ!!」
『それは僕もいっていいんだよな?』
「あぁ、頼んだぞ。」
『まかせろ。』

下を向いていたのは決意を固めていたからなのだろう。本心はどうなのかは分からないが、一応理解と納得はしてくれたようである。勢いが凄まじいのがちょっと残念ではあるが。



「ハハッ、そういう事かぁ。」
「うーん、前とそんなに変わってないってことはよく分かったよ。」
『これほどまでとは。』

俺達三人の目の前に広がるは、全てが瘴気に犯された大地。レッドウォールそのものは基本的に乾燥地帯であるので木々は少なく砂漠のようなものなのだったが、そうではなく。天災による火災被害でもあったのか……そう想像してしまうような焼け野原だった。それだけでは無い、所々にヤバめな色の沼地みたいなのも点在しており、そこからモヤのような瘴気が発生していた。
涼とアトラ曰く、あれは瘴気沼と呼ばれているらしくこの地帯がこの様になっている原因だとか。

「あの瘴気沼を見つけ次第片っ端から浄化させていけば、魔獣の発生も抑えられるってことか?」
「そうだね。もう既に発生している魔獣は私達が片付けなきゃ消えないけど、これ以上の被害は引くはずだよ。」
『ならば、僕がいまでている魔獣たちをいっそうしよう。奏多と涼は沼をやってくれ。』
「「分かった。」」

ヨハン達は余りにも俺達の帰還が、遅かった場合の王都への連絡係兼後方支援のサポート係をやってくれている。実に不満そうであったが、俺達に着いてきてしまうと……申し訳ないが、彼等まで護れるか怪しいのである。フェリシアさん以来の実践であるし、どうなるか読めないからだ。
その代わりと言ってはなんだが二人からは不要では?と思う程の魔力回復ポーション、傷に効く通常の回復ポーションを持たされた。これだけあれば一先ずは何とかなるだろう、と信じている。

「アトラは一人でも何とかなるだろう。俺達も行くか。……じゃなくて、まずは目の前のコイツらから片付けていくか。」
「そうだね。戦闘は私がやるから、お兄ちゃんは私のサポートお願いね。」
「これも役割分担、了解。」

ほぼ半壊している家屋の中にこれまで隠れていた俺達。
アトラは既にこの場所から発っており、涼は自身の両手に見覚えのある白く輝く大きな鎌を呼び出した。この武器が大いに役に立つのだろう。

「お兄ちゃんは怪我しないような場所にいてね。それじゃぁ、行ってきます。」
「気を付けてな。」
「……行ってらっしゃいは?」
「い、行ってらっしゃい……?」
「うん!!!!」

こだわりがあるのだろうか。
全力の満面の笑みを作っていたな。まぁでも、一言言うだけで彼女のモチベーションが上がるのならば、安いものか。

涼は二十体近くいる大小様々な魔獣達の前に躍り出た。気迫は変わらず、萎縮している様子も無い。俺よりも経験者なだけあると感心してしまう。

「……?」

今まで鎌を両手で持ち対峙していたのだが、どういう訳か白の鎌を霧散させ彼女の周囲に白い霧状に変化させた。
それを自身の腕に纏わせ、大きく腕を振るった。

「ライトウェイブ!!!!!!」
「!!!!」

ドドドドドドドド!!!!
ギャァギャァァァァァァ

それは白い波のようなものであった。
振るった先にいた魔獣達が波に飲まれると、そのまま無惨な細切れとなりそこにいた。
霧は霧なのだが……恐らくあれは。大きな鎌から派生したのだろう、一つ一つが刃の様なものなのだ。
魔法というのはこの世界においては想像力も結構重要らしい。彼女の戦闘スタイルは今の所、涼の発想力が鍵となっている。
あの大きな鎌も、この白いモヤも。
全て、彼女が想像した武器である。

「終わったよ、お兄ちゃん!!」
「……相変わらず凄いね、涼。」
「ふふっ、凄い妹で嬉しい?」
「そうだな、凄すぎて参っちゃうよ。」
「えへへ。」

彼女が俺の敵では無くてよかった。
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