囚人の見る夢

皆中透

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別れ、そして

希望の声2

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「たっ……タカト!? うそ、なんで、どうやって繋がってるんだ?」

 綾人はこの状況でタカトの声が聞けたことで、気が緩んでしまった。ボロボロと涙が零れ落ちて止まらない。鼻を啜りながら「タカト……タカト……夢じゃなかった……全部夢じゃなかったんだ! 良かった……」と呟き続けていた。

『綾人、貴人様には会えたのか?』

 綾人が一瞬躊躇しつつ、返事をしようとした時だった。ドアの向こうから、ゴーン! ゴーン!! と鐘の音のような激しい轟音が轟き始めた。どうやらあの男は、この金属製の重たいドアを、破壊して開けようとしているらしい。

「貴人様に似たクソ野郎に追われてて、処刑されそうになってる。お前が今までいた世界は、薬の副作用で見ていた夢だって言われてたんだ……良かった、本物のタカトがいて。良かった、夢じゃなくて……」

 そう言って嗚咽を漏らし始めた綾人に向かって、珍しくタカトが大声を上げた。

『泣くな! 今、とにかくマズイって状況なのは、わかるんだろう? だから、ちゃんと思い出してくれよ。貴人様は、最後に綾人になんて言ってた? それをしっかり思い出して、今やるべきことを見つけて!」

 ドアの向こうでは、ゴーン! ゴーン!! と鉄扉を破壊しようとする大きな力が迫っていた。

「そっ、そんなの考える時間も、余裕もねえよ!」

『でも考えろ! ちゃんと思い出して、こっちに戻ってくるんだ。そのままそこで処刑されたら、何のために頑張ったかわかんないだろ! 俺のところに戻ってきて!』

 タカトは、悲痛に叫んだ。意識を繋いでいられるとはいえ、手を貸すことは何もできない。今、二人の間には大きな違いがあって、それが埋まらない限り、触れることも出来ない。

 ただ、綾人の精神力と記憶力に頼ることしかできず、不甲斐なさに苦しんでいた。

 綾人は口元に手を当てて恐怖に叫ぶのを堪えながら、貴人様から最後に言われた言葉を必死に思い出す。「忘れるなよな」と、ふっと笑っていた貴人様の顔と、言葉……。そこまでは思い出せた。

「『何があっても、俺を信じろ。最後は必ず一緒になるっ』て言ってた。確かにここに貴人様と見た目が同じやつはいるよ。でも、だからなんなんだよ。俺は、貴人様に殺されるために生きてたのか?」

 恐怖のせいで穿ったものの見方しかできなくなりつつある綾人は、貴人様のことを信じられなくなりつつあった。

 今もまだ、目の前で鉄扉は歪み続けている。もうこれも、じきに壊されてしまうだろう。あの牢名主に襲い掛かられ担ぎ上げられ、処刑台へと連行されるまでに、それほど猶予は無い。

 そんな状況で、冷静にものを考えることなど出来るわけがなく、安全な場所で指示を出すタカトにすら、軽い嫌悪感が生まれつつあった。

『そう言われたんなら、信じろよ! こうやって、話ができるって教えてくれたのは、貴人様なんだから。貴人様がさくら様に話していてくれたから、それを水町さんが知ることができた。そして水町さんが俺に教えてくれたんだよ。口先だけじゃなくて、心底信じないといけないぞ! そして、なんで貴人様が今助けに来ないのかも、もっと考えろよ!』

「わっかんねえよ、そんなの! こんな、今にも殺されそうな、命が危ない状況に追い込まれて、そんな冷静になれるか!」

 その時、ふと綾人の頭の中にとあるシーンが思い出された。命の危機に瀕した時にどうするかを、いつかどこかで学んだことがあった。

『修行とは、その場に死ににいく覚悟をして行うものです。ですから滝着は白なんですよ。死と隣り合わせでも、精神の奥はしっかり冷静でいられなくてはなりません』

 滝行を申し込んでさせてもらった時、確かそんなことを言われた事があった。そして、滝壺に入った時、確かに思った。

「無理! 死ぬ! 早く出して!!」

 でも、一度入ると出してもらえないんだよな。あの状況でも覚悟を決めて、水に体を合わせてしまえるようになるまで。無になってしまえるまで。

「タカト、ちょっとだけ待ってて」

 綾人は、今のこの状況を、これまで学んできた宗教観と武道で培った精神力を総動員して捉え直すことにした。

 ドアの向こうに命の危機が迫っている。
 ——慌てるな。落ち着け、心拍数落とせ、呼吸を支配しろ。

 まず、あれは本当に危機なのか? そもそも、あれは本当の出来事なのか? 当たり前に見えているものが当たり前ではないかもしれない状況下だ。全てのものを根幹から捉え直さなければならない。

——怖がるな、考えるべきことを考えろ。

 色々綻びがある。時代からして無いはずなのに、ステンレスのサムターン錠があることがその確たる証拠だろう。それは気づけた。ではここは何なのだろうか。

——俺が今いる世界は、俺がいた元々いた世界と違うのか?
 
 だとしたら、貴人様は能力が及ばずに助けに来られないだけかも知れ無い。来ないんじゃなくて、来たくても来れないだけだとしたら……綾人は騙されたわけでは無いことになる。

『俺はお前には嘘はつかない。最後は、必ず一緒になる』

 綾人の頭に、一つの可能性が浮かんだ。この言葉は、貴人様の最後の言葉であり、常に言い聞かせられていた言葉だった。それは言葉遊びのようではあるけれど、この状況でも貴人様を信じ抜けるかどうかで結果は全く変わることになる。

「つまり、貴人様が一緒にいない今は、貴人様が言うところの『俺の最後』ではないって事? 俺、騙されたわけじゃないって事?」

『俺たちちゃんと存在するよ! 綾人の人生は、綾人がちゃんと生きてたよ! 俺たち、ちゃんと愛し合ってただろ!?』

 そう言われて、綾人はタカトと過ごした日々へと思いを馳せた。

 高校時代の出会い、大学での接近、そして自分の罪の清算に巻き込んだこと、その流れで好きになったこと。二人で行った場所、やったこと、過ごした時間、あの全てが夢である訳は無く、夢では無いのであれば貴人様も何も悪く無い。きっと、ここに来られない理由がある。

——宇宙を司る方が、自由に行き来できない理由……

 ガリッと鉄扉が変形して枠を擦る音がした。急がないと、殺されてしまう。焦りで身体中から汗が吹き出ていた。

「怖い、怖い、急がないと……でも、ブラックホールすら消せる方が自由になれない場所ってなんだ?」

 ガガガ! と、変形した鉄扉が枠を飛び出そうとしている。

「ああ、もう! 早く! はや……宇宙、の、その外側には何があるんだっけ? それって陽太に聞いた方がいい話? それとも仏教的な教えの中に何か……あっ!」

——それだ。

 その時、綾人は一つの可能性に気がついた。

 そもそも、実態がないものをわかりやすく人に準えたものだと言われている神々や仏の中で、ある意味で最も大きな存在である方がいらっしゃる。その方だけが自由に扱うことが出来る場があったはずだ。

「宇宙のその先ってなると、時空を越えるとかそういう話だったかな……」

 それは、確かずっと小さい頃に母親から聞いた話だ。専門家の話ではないけれど、とてもよく覚えている。その時言われた話と、SFの話が共通してるようで、とても興味があったのを覚えている。

「ここは、俺がいた世界とは違う、パラレルワールド……?」
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