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颯田瑞貴の場合
1、三つの前世
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颯田瑞貴は、子供の頃から不思議な夢を幾度となく見ていた。
ある時は竜に跨った男に付き従う夢。
その夢で俺は彼に苦しいほどの忠誠心を抱いていた。
あまり、幸せな生い立ちでない彼に同情していた。異母兄の執拗な執着に笑わなくなり、表情を失っていく彼をただ傍らで見ているしかなかった。
それでも、周りの人間に対する優しさも思いやりも仕える主君に対する忠誠も揺るがない彼を尊敬していた。
勝てる訳のない無謀な戦いの中、主は沢山の矢をその身に受けて血を吐きながら亡くなった。
光を失っていく翡翠色の瞳を正気を失うほど彼の名を叫びながら見つめていた。
ある時は黒い見事な軍装を身に纏った男の隣に並ぶ夢。
類稀な才能を持つその男に忠誠心と共に兄のような気持を抱いていた。
その男を庇い、俺は致命傷を受けた。
遠のく意識の中、涙を零す彼の姿に無上の喜びを感じた。
彼を助けられたこと、そして自分の死を悲しんでいることに。
涙に濡れた翡翠色の瞳が美しいと思った。
ある時はとても美しい人が妻となる夢。
その人も宝石のような翡翠色の瞳の持ち主だった。
愛おしそうに此方を見つめる瞳にとても幸せな気持ちになった。
年を重ねるごとに寝室での夢も見るようになった。
まだ幼い面差しを残す少女は白い身体を馬乗りにしてこちらを誘ってきた。
清雅な顔が恥ずかしそうにしながらも拙い仕草で誘う姿は抑え込んできた欲望の箍を外させた。
白い体を仰け反らせて、嬌声を上げる彼女に欲望を叩きつけた。
体の弱い彼女にすることではないと思いながらも、止められなかった。
子を身籠ったと告げられた時は天にも昇る気持ちだった。
少しずつ彼女を死病が蝕んでいく恐怖には蓋をした。
時々彼女はどこか遠くを見る目をする。
酷く寂しそうな、遣る瀬無さをその瞳に宿していた。
誰に対してなのか自分は知っていた。だが、それに触れることはなかった。
ようやく手に出来たあの人を失いたくなかった。
自分の子供を産み落とし、亡くなった彼女に縋り、泣き喚いた。
ようやく手に入れたのに、そうだずっとあの人の傍にいた。
あの人が男だった時は気づくことなく、いや閉じ込めていた思い。
翡翠色の瞳の美しい人にずっと恋していた。
「瑞貴、決まった人はいないのか?」
朝食の席で聞いてきたのは父親の颯田正一郎だった。
曽祖父の代から産婦人科医院をこの地で開業してきた。
父親の代からは不妊治療にも力を入れてきた。母も産科医で、姉の一人は助産師、もう一人は管理栄養士としてここで働いている。
「うん、まあ」
口を濁す。この間フラれたばかりだ。
女は鋭い。
それなりに大切にして付き合っていたつもりだが、自分に愛情が向いていないのをすぐにわかるようだ。
デートの時も食事をする時も、そしてセックスをする時もついあの人と比べてしまう。
「医者なんてモテそうなのに誰もいないの? 遊び過ぎなんじゃないの」
デザートのチーズケーキを美味しそうに食べながら姉の麻美が聞いてきた。
去年、結婚して今は産休に入って実家にいる。
ムッとして、流石に妊婦にとは心の片隅で思いながらも、するりと口から嫌味が零れた。
「姉さん、食べ過ぎじゃないの?」
「お腹に二人も入っているのよ? それに体重管理はばっちりなんだから」
「……今朝、体重計乗ったのか?」
「はあ? あんた喧嘩売ってんの?」
「止めなさい! ちょっと麻美は食べたいのは分かるけどもう少し控えなさい。瑞貴も麻美は妊婦さんなんだから、不安にさせないの!」
間に入ったのは長女の柚香だった。
「そう言えば、未婚の多胎児の妊婦さんがいたけど、父さんどうしたの?」
「ああ、まだ大学生だとか。瑞貴、お前の所の林田先生に紹介状を書いたよ。大学病院で見てもらう方が安心だろう」
「割と良い所のお嬢さんぽかったけど、三つ子でしょう? 親も相手も来てなかったみたいだし心配よね」
「ああ、あの外国人のすごい美人の子でしょう? あんな綺麗な子なのに悪い男にだまされているのかしらね」
「ふうん」
美人と聞いてあの人を思い浮かべた。
そんな訳ないと思いながら、あの人も意外とその手の悪意に無頓着な人だったなと思いだした。
邪な思いをあの人に向けようとした人間は瞬く間に消えていたから無事に生きていけたところがあった。
常にあの人の傍らにいて影に日向にあの人を守っていた男の事を思い出した。
あの人もあの男を信頼し、理想的な主従の関係と傍からは見えた。
時々、狂おしいほどの熱情を込めてあの人を見ている以外は。
「瑞貴?」
ぼうっと黙り込んでいる弟を柚香は心配そうにのぞき込んだ。
「なんでもない。父さん、見合いならする気はないから」
そう言うと立ち上がってリビングを後にした。
食券機の前で真剣に悩んでいる谷野に好い加減イライラし始めた。
「おい、谷野。さっさと決めてくれないか」
「……お前、人生損しているな」
「はあ?」
「食べられれば、何でもいいと思っているだろう。一食一食に命を頂くという気持ちを持つのが大事だと思わないのか?」
「どうでもいいから、早く決めてくれ」
「俺は今、かけそばに卵をつけようか、コロッケをつけようかで真剣に悩んでいるんだ!」
えらく小さい悩み事だなと白い目で見ていると、横から手が伸びてきた。
一万円札を入れると卵とコロッケのボタンを押す。
「両方食べればいいだろう?」
苦笑いしながら、二枚の食券を谷野に渡したのは東吾だった。
自分はカレーライスのボタンを押して、さっさと立ち去った。
「東吾さん、ありがとうございます!」
ホクホクとしながら、かけそばを大盛りにしていた。現金な谷野を呆れた様に見ていた。
瑞貴は親子丼にして席に座る。
窓際の席に座った東吾は既に食べ終えて、スマホを見ていた。
難しい顔で真剣にタップしている。
「高見沢先生、新しい彼女ができたみたいですね」
隣に座った看護師が顰めた声で言う。
「今度は何ヶ月持つかしらね」
「前の彼女は割と続いていたんですけど」
「前に事務の子が付き合っていた時はアッチが全然なくて辛かったって言ってたわよ」
「ええ? 高見沢先生って」
悪意に満ちたクスクス笑いに不愉快になる。どうせ相手にされなかったんだろうに。
目の前に座る谷野は真っ赤な顔になってきょときょとと視線を動かしている。
ちらりと東吾の方を見る。
今の言葉はさすがに聞えなかっただろうが、さっきより更に難しい顔になり、眉間に皺が寄っている。
若干焦っているようでもあった。
ふとした仕草があの男に似ているなと思う。
顔はまるで似ていないのだが、時折見せる笑みは傲慢さと自信が混ざり凄味を感じさせる。
あの男は良くそう言う笑い方をしていた。
あの人の前ではあれ以来借りてきた猫のようにしおらしく振舞おうとはしていた。
あまり成功していなかったが。
ぴこんと東吾のスマホが鳴って慌てて画面に目をやるとがっくりと首を落としている。
そこに伊手がラーメンを持って東吾の向かいに座る。
「どうした、高見沢。彼女にフラれたか」
わははと豪快に笑いながら、瑞貴たちの指導医の伊手了祐が東吾に聞いている。
「違います!」
ムキになって言い返す東吾に伊手は驚いたように目を丸くする。
「すまん、冗談だ」
「……俺もすみません」
「なんだ、彼女を怒らせたのか?」
「ええ、まあ」
「俺たちの仕事だとあまり構ってやれないから、寂しい思いをさせるだろうな」
「いえ、今は一緒に暮らしているんで、それはないはずです。それに…そんなことに怒る人ではありませんから」
「お、おお?! 同棲しているのか?」
東吾の言葉に周囲は固唾を飲んで聞き耳を立てている。
隣に座った看護師たちも全身を耳にして聞いている。
「同棲というか、俺が押し掛けている状態ですけど」
溜息をついて頭を抱える東吾に伊手は目を白黒させていた。
瑞貴も驚いていた。
東吾は女性に淡泊な人間だと思っていた。
矢鱈モテるが、今まで付き合っている女性に対して執着している様子は一度もなかった。
「なんで、彼女は怒っているんだ」
「……大学の授業に遅刻させてしまったので」
「お、おう。……そうか」
それ以上は突っ込まずにラーメンを啜り始めた。
「ちょ…伊手さん。そこは詳しく突っ込んで!」
小声で呟く谷野に周りの看護師たちも無意識なのか頷いている。
また東吾のスマホが鳴りだす。今度は電話のようだった。
画面を確認するとがたっと椅子を鳴らして立ち上がると、食堂から風のように出て行ってしまった。
ポカーンと東吾を見送った後、伊手はラーメンを食べ終えて、東吾の皿も一緒に片づけた。
「東吾さんでもあんな風になるんだなあ」
谷野が呟いた。
東吾の後姿に瑞貴はデジャブを覚えた。
あの人が執務室にあの男を名指しで呼んだ時の姿に似ていた。
同僚たちは、最初は苦笑いしつつ、そのうち少しの羨望と憐れみと危ういバランスで成り立つこの関係がいずれ終わるのではないかという不安を持ちつつ、慌ててあの人の所に向かう男を見送っていた。
東吾が向かった先にあの人がいるようで、思わず瑞貴も立ち上がった。
「颯田、谷野。いつまで食べているんだ。行くぞ」
「あ、はい」
慌てて残りの掛けそばを啜りこむ。
瑞貴も後ろ髪を引かれる思いで親子丼をかき込んで、伊手の後を追いかけて行く。
ある時は竜に跨った男に付き従う夢。
その夢で俺は彼に苦しいほどの忠誠心を抱いていた。
あまり、幸せな生い立ちでない彼に同情していた。異母兄の執拗な執着に笑わなくなり、表情を失っていく彼をただ傍らで見ているしかなかった。
それでも、周りの人間に対する優しさも思いやりも仕える主君に対する忠誠も揺るがない彼を尊敬していた。
勝てる訳のない無謀な戦いの中、主は沢山の矢をその身に受けて血を吐きながら亡くなった。
光を失っていく翡翠色の瞳を正気を失うほど彼の名を叫びながら見つめていた。
ある時は黒い見事な軍装を身に纏った男の隣に並ぶ夢。
類稀な才能を持つその男に忠誠心と共に兄のような気持を抱いていた。
その男を庇い、俺は致命傷を受けた。
遠のく意識の中、涙を零す彼の姿に無上の喜びを感じた。
彼を助けられたこと、そして自分の死を悲しんでいることに。
涙に濡れた翡翠色の瞳が美しいと思った。
ある時はとても美しい人が妻となる夢。
その人も宝石のような翡翠色の瞳の持ち主だった。
愛おしそうに此方を見つめる瞳にとても幸せな気持ちになった。
年を重ねるごとに寝室での夢も見るようになった。
まだ幼い面差しを残す少女は白い身体を馬乗りにしてこちらを誘ってきた。
清雅な顔が恥ずかしそうにしながらも拙い仕草で誘う姿は抑え込んできた欲望の箍を外させた。
白い体を仰け反らせて、嬌声を上げる彼女に欲望を叩きつけた。
体の弱い彼女にすることではないと思いながらも、止められなかった。
子を身籠ったと告げられた時は天にも昇る気持ちだった。
少しずつ彼女を死病が蝕んでいく恐怖には蓋をした。
時々彼女はどこか遠くを見る目をする。
酷く寂しそうな、遣る瀬無さをその瞳に宿していた。
誰に対してなのか自分は知っていた。だが、それに触れることはなかった。
ようやく手に出来たあの人を失いたくなかった。
自分の子供を産み落とし、亡くなった彼女に縋り、泣き喚いた。
ようやく手に入れたのに、そうだずっとあの人の傍にいた。
あの人が男だった時は気づくことなく、いや閉じ込めていた思い。
翡翠色の瞳の美しい人にずっと恋していた。
「瑞貴、決まった人はいないのか?」
朝食の席で聞いてきたのは父親の颯田正一郎だった。
曽祖父の代から産婦人科医院をこの地で開業してきた。
父親の代からは不妊治療にも力を入れてきた。母も産科医で、姉の一人は助産師、もう一人は管理栄養士としてここで働いている。
「うん、まあ」
口を濁す。この間フラれたばかりだ。
女は鋭い。
それなりに大切にして付き合っていたつもりだが、自分に愛情が向いていないのをすぐにわかるようだ。
デートの時も食事をする時も、そしてセックスをする時もついあの人と比べてしまう。
「医者なんてモテそうなのに誰もいないの? 遊び過ぎなんじゃないの」
デザートのチーズケーキを美味しそうに食べながら姉の麻美が聞いてきた。
去年、結婚して今は産休に入って実家にいる。
ムッとして、流石に妊婦にとは心の片隅で思いながらも、するりと口から嫌味が零れた。
「姉さん、食べ過ぎじゃないの?」
「お腹に二人も入っているのよ? それに体重管理はばっちりなんだから」
「……今朝、体重計乗ったのか?」
「はあ? あんた喧嘩売ってんの?」
「止めなさい! ちょっと麻美は食べたいのは分かるけどもう少し控えなさい。瑞貴も麻美は妊婦さんなんだから、不安にさせないの!」
間に入ったのは長女の柚香だった。
「そう言えば、未婚の多胎児の妊婦さんがいたけど、父さんどうしたの?」
「ああ、まだ大学生だとか。瑞貴、お前の所の林田先生に紹介状を書いたよ。大学病院で見てもらう方が安心だろう」
「割と良い所のお嬢さんぽかったけど、三つ子でしょう? 親も相手も来てなかったみたいだし心配よね」
「ああ、あの外国人のすごい美人の子でしょう? あんな綺麗な子なのに悪い男にだまされているのかしらね」
「ふうん」
美人と聞いてあの人を思い浮かべた。
そんな訳ないと思いながら、あの人も意外とその手の悪意に無頓着な人だったなと思いだした。
邪な思いをあの人に向けようとした人間は瞬く間に消えていたから無事に生きていけたところがあった。
常にあの人の傍らにいて影に日向にあの人を守っていた男の事を思い出した。
あの人もあの男を信頼し、理想的な主従の関係と傍からは見えた。
時々、狂おしいほどの熱情を込めてあの人を見ている以外は。
「瑞貴?」
ぼうっと黙り込んでいる弟を柚香は心配そうにのぞき込んだ。
「なんでもない。父さん、見合いならする気はないから」
そう言うと立ち上がってリビングを後にした。
食券機の前で真剣に悩んでいる谷野に好い加減イライラし始めた。
「おい、谷野。さっさと決めてくれないか」
「……お前、人生損しているな」
「はあ?」
「食べられれば、何でもいいと思っているだろう。一食一食に命を頂くという気持ちを持つのが大事だと思わないのか?」
「どうでもいいから、早く決めてくれ」
「俺は今、かけそばに卵をつけようか、コロッケをつけようかで真剣に悩んでいるんだ!」
えらく小さい悩み事だなと白い目で見ていると、横から手が伸びてきた。
一万円札を入れると卵とコロッケのボタンを押す。
「両方食べればいいだろう?」
苦笑いしながら、二枚の食券を谷野に渡したのは東吾だった。
自分はカレーライスのボタンを押して、さっさと立ち去った。
「東吾さん、ありがとうございます!」
ホクホクとしながら、かけそばを大盛りにしていた。現金な谷野を呆れた様に見ていた。
瑞貴は親子丼にして席に座る。
窓際の席に座った東吾は既に食べ終えて、スマホを見ていた。
難しい顔で真剣にタップしている。
「高見沢先生、新しい彼女ができたみたいですね」
隣に座った看護師が顰めた声で言う。
「今度は何ヶ月持つかしらね」
「前の彼女は割と続いていたんですけど」
「前に事務の子が付き合っていた時はアッチが全然なくて辛かったって言ってたわよ」
「ええ? 高見沢先生って」
悪意に満ちたクスクス笑いに不愉快になる。どうせ相手にされなかったんだろうに。
目の前に座る谷野は真っ赤な顔になってきょときょとと視線を動かしている。
ちらりと東吾の方を見る。
今の言葉はさすがに聞えなかっただろうが、さっきより更に難しい顔になり、眉間に皺が寄っている。
若干焦っているようでもあった。
ふとした仕草があの男に似ているなと思う。
顔はまるで似ていないのだが、時折見せる笑みは傲慢さと自信が混ざり凄味を感じさせる。
あの男は良くそう言う笑い方をしていた。
あの人の前ではあれ以来借りてきた猫のようにしおらしく振舞おうとはしていた。
あまり成功していなかったが。
ぴこんと東吾のスマホが鳴って慌てて画面に目をやるとがっくりと首を落としている。
そこに伊手がラーメンを持って東吾の向かいに座る。
「どうした、高見沢。彼女にフラれたか」
わははと豪快に笑いながら、瑞貴たちの指導医の伊手了祐が東吾に聞いている。
「違います!」
ムキになって言い返す東吾に伊手は驚いたように目を丸くする。
「すまん、冗談だ」
「……俺もすみません」
「なんだ、彼女を怒らせたのか?」
「ええ、まあ」
「俺たちの仕事だとあまり構ってやれないから、寂しい思いをさせるだろうな」
「いえ、今は一緒に暮らしているんで、それはないはずです。それに…そんなことに怒る人ではありませんから」
「お、おお?! 同棲しているのか?」
東吾の言葉に周囲は固唾を飲んで聞き耳を立てている。
隣に座った看護師たちも全身を耳にして聞いている。
「同棲というか、俺が押し掛けている状態ですけど」
溜息をついて頭を抱える東吾に伊手は目を白黒させていた。
瑞貴も驚いていた。
東吾は女性に淡泊な人間だと思っていた。
矢鱈モテるが、今まで付き合っている女性に対して執着している様子は一度もなかった。
「なんで、彼女は怒っているんだ」
「……大学の授業に遅刻させてしまったので」
「お、おう。……そうか」
それ以上は突っ込まずにラーメンを啜り始めた。
「ちょ…伊手さん。そこは詳しく突っ込んで!」
小声で呟く谷野に周りの看護師たちも無意識なのか頷いている。
また東吾のスマホが鳴りだす。今度は電話のようだった。
画面を確認するとがたっと椅子を鳴らして立ち上がると、食堂から風のように出て行ってしまった。
ポカーンと東吾を見送った後、伊手はラーメンを食べ終えて、東吾の皿も一緒に片づけた。
「東吾さんでもあんな風になるんだなあ」
谷野が呟いた。
東吾の後姿に瑞貴はデジャブを覚えた。
あの人が執務室にあの男を名指しで呼んだ時の姿に似ていた。
同僚たちは、最初は苦笑いしつつ、そのうち少しの羨望と憐れみと危ういバランスで成り立つこの関係がいずれ終わるのではないかという不安を持ちつつ、慌ててあの人の所に向かう男を見送っていた。
東吾が向かった先にあの人がいるようで、思わず瑞貴も立ち上がった。
「颯田、谷野。いつまで食べているんだ。行くぞ」
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