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就職先は適職のようです
⑪(ヒューゴ視点)
しおりを挟む第1部隊と第2部隊の合同演習中だった。
うちのリヨ隊長と第2部隊のダン隊長が模擬戦を始めたのは。
「おうおう、そっちからつっかかっておきながらなんだその動きはよぉッっ!!!」
「つっかかってきたのは貴様の方だろ!! うちが討伐した骨竜を勝手に持ち出しやがって!」
骨竜とは。
肉よりも骨の多い小型の竜だ。
骨竜の軟骨は美味い。コリコリとした食感と、コクのある香ばしい風味。噛めば噛むほど深みが増す。酒のつまみに持ってこいだ。
「どうしたよ、昔は俺と渡り合ってたオマエがよぉ! テメェの力はそんなもんかよ?!!」
「くっ、貴様、なんだその動きっ、いつもより数段速い気が、」
「なんか今日はやけに調子いんだよ! こんな時に俺様と殺りあえて光栄に思え、よッっ!!」
骨竜には軟骨が数カ所ある。
ひざの関節、羽と手の境目、そして胸の先端。乳首。
特に美味いのは胸の先端部。薄く脂身が軟骨に張り付いているのだ。
肉と骨をミンチにしないよう、しかっりと骨竜の身体のしくみを調べた上でさばかなければならない。
「き、貴様……なんだその強さは!」
「はっ! ダンが弱くなっただけなんじゃねえの?!」
「それにしたって雷魔法がまるで爆撃のような威力だったではないか! 魔力が増強している!?」
「俺様の魔力はいつだって騎士団最強よ!! ダーハッハッハーーー!」
僕の斧は骨竜の骨を解体するのにうってつけともいえる。
ただ魔物の乳首はナイフで切り取った方がいい。
「剣術はともかく魔力では俺の方が上だったはず! さては貴様、魔術師に頼んで寿命と引き換えに、魔力増強の呪いをかけさせたな!?」
「ギャっはっはっはー!! この俺が力欲しさに命を粗末にすると思うか?! 大体魔術師なんて詐欺師みたいなもんだろ。魔力増強で30年も寿命取られるんだぜ? いやだなにそれ! よく考えたらコワイ! ボクたんまだちにたくないヨォ~!!」
いや、骨竜の乳首ばかりにとらわれていてはいけない。あれはメインにはなれない、あくまでサイドメニューなのだから。
やはり魔物のメイン食材といえば、肉付きのいいモルソンだろう。
モルソンとは、草食系の、牛のような形をした魔物だ。耳が長く垂れ下がっていているのが特徴的。
モルソンは他の魔物と違って凶暴ではない。そのため他の魔物に襲われることもある。
だがその分モルソンは足が速い。危険を察知すれば時速100キロで走ることができるのだ。だから捕まえるのがなかなか難しい。
あのたるんだ肉を、甘辛いタレに漬け込んでから焼いて食べるのが美味い。
そしてあのたるんだ耳もだ。耳の軟骨がなんといっても絶品。おっと、また軟骨の話になってしまった。
「ダン様、」
「下がれスキュラ。これはダンピールとダンピールの殺し合いだ。」
「いいえ違います。私がダン様に手を貸そうだなんて微塵も思っちゃいません。」
「……だったらなんの用だ?」
「副団長のロックヒート様は監視小屋で眠っておいででした。」
「あいつ! 仕事をほっぽり出して何をやっているんだ!」
そうだ、せっかく骨竜の軟骨が手に入ったのだから、メインディッシュにモルソンでも狩りに行こう。
そうと決まれば漬け込み用のタレを作っておいた方がいいな。
果実酒にミレーヌさんから教わった醤油という調味料を合わせて少し煮込んでおいた方がいい。
そういえば『煮込む』で思い出した。
あのハルとかいう女が言っていた『煮物』という料理、かなり気になるな。
「ヒューゴォ~!! きーてよ~! ダンが骨竜の骨は資材として売るから1体しか食っちゃダメだって~! 千体も死骸があんのにさあ~!」
「1体か。まあ1体でもつまみとしては充分だろう。」
「それより見た? ねえ見た見た?! 俺の魔力! めっっちゃ凄くない?! かなりカッコよくなかった?! ねえねえ!」
「メインはモルソンの漬け込み肉にしようと思う。ひとっ走りで狩って来るから隊長、漬け込み用のタレ作っておいて下さい。」
「てかさぁ~。やぁっぱり俺の魔力おかしいよね? あのダンを一発でのしちまったんだぜ?? 絶対に増強してるよね~ん~マ"ッス"ル"ぅ」
「果実酒は蔵に入ってる年代物にして下さいね? あの酸味がコクを生むんですから。」
「オマエさあ。人にもの頼む時だけ敬語になるのなんなの? しかも俺隊長なんですけど?! 俺のが立場上なんですけどぉ!!」
そうと決まれば急いで準備をしなければ。まずモルソンをおびき寄せるには、餌で罠を仕掛けなければならない。
「モルソンの尻肉かあ。美味そうだなあ。あの柔らかい肉、最高だよなあ。あの子のケツみたいに柔らかくてさあ!」
ちなみにモルソンにも軟骨は数カ所ある。
耳もそうだが、モルソンの乳首の軟骨は骨竜よりも柔らかい。やっぱり乳首は絶品だ。噛んだ時のムニュッとした独特の食感。そして生クリームのようなほのかな甘さ。
モルソンの乳首はこっそり僕だけのつまみにしよう。
「……リヨ隊長。『あの子』って誰ですか?」
「おうグレコ~! なんだよ、今日はだあい好きなルナルナと一緒じゃないのお?」
「うちの隊長、今日は一日非番っす。多分今頃女の血でも吸ってんじゃあないですかねえ。」
「それを言うならあのおっぱい星人、『女の乳ばっか吸って』んじゃあないの?」
「ああ。そういやあルナ隊長、最近新しいお気に入りを見つけたんすよ。いい乳首の色した女でね、」
「乳首とかどうでもいいっしょ! 女はケツ一択! だよなヒューゴ?!」
そんなことない隊長。乳首の軟骨は最高だ。彼女の尻肉よりも乳首だろう。
「それよりリヨ隊長、さっきのダン隊長との殺し合い凄かったっすね。いつもの魔力の比じゃなかったですよ。」
「へえ褒めてくれんの? 珍しいじゃん。」
しかしながら第3部隊副隊長 グレコ・ルドルフの偏食癖は気に入らない。
僕の場合、見たことのない食材でも、出されたものは必ず口にするが、グレコの場合、散々あちこちから見た目を凝視した後、結局食べないことが多い。
しかも野菜の芯はすべて残すし、食べる前に手は洗わない。いただきますもしない。食べながら本を読む。
美食家である僕としては許せないマナー違反だ。
なんでも隊長であるルナ・シュワイツと、裏で人間のパーツや臓器を売る闇取引を斡旋しているなんて話も聞く。
マナー違反どころか違法行為にも関与しているなんて話にならない。
乳首の軟骨を売る時はまずは僕に相談しろ。
「俺の目は節穴じゃあない。昨日森であんたらが女連れてるの見たんですよ。」
「グレコ~、俺が女連れてんのってそんな珍しいこと? 俺、超モっテモテよ?」
「例えば、その女の体液舐めたとか。そういった覚えは?」
「体液……? や、ヤダこの子ったら卑猥!! でも俺舐めるのも舐められるのも超しゅき♡」
「ほら、昔話にあるでしょ。『歪血者』の血は治癒力が高く、体液は魔力が増強するって。」
そうだ。狩りに行く前に隊服を着替えなければ。モルソイとはかなりの乱闘戦になるだろう。
モルソイを足止めさせるには、土魔法でドロのぬかるみを作るのがうってつけだ。ただしとんでもなく汚れるのが欠点なのだ。
「『歪血者』だぁ? 脈絡もなくいきなりおとぎ話出されたってピンとこねえよ。」
土魔法を駆使する僕は、地面の土の振動を鼓膜に振動させて居場所を察知することができる。
例えば、崖の上で牢馬車ほっぽり出して逃げた御者の足音とか。
女の叫び声とか。
ワイバーンの羽音とか。
「いやいや。勘が鋭いリヨ隊長ならすでに気付いてるでしょ。」
グレコの厭らしく上がる口角が鼻につく。
あの日、あの時、僕とリヨ隊長は、王宮からやって来た牢馬車の馬の蹄の音を聞きつけ、崖の下まで様子を見に行った。
そして御者が駆けて来たところをとっ捕まえて、尋問した。
なぜ王宮は不要になった人間をこうも作り出すのか。なぜ何度も召喚の儀をするのか。
そうまでして『聖魔道士』を召喚しようとする理由は一体なんなのか。
『テメェら王宮の企みを聞こうか。』
リヨ隊長が御者の胸ぐらをつかむ。
御者は初め、悲壮感をまといながらも、なにも知らないと言い張っていた。
でも隊長が御者の爪一枚を刀で剥げば、御者は決死の形相で絞り出した。
『アギぃヒィイイッっ。う、馬小屋で聞いた噂ですけど、なんでもダンピールを絶滅させるためだとかなんとかッっ』
『あん? 魔物退治をさせといて俺等を全滅させる? ハハハハハ!! マジイミフなんですけど!!』
王宮は『聖魔道士』を、もう何年も昔に1人だけ召喚を成功させたという噂がある。
しかしその『聖魔道士』は行方知れずになったとかなっていないとか。代わりの『聖魔道士』を召喚しようとでもしているのか。
そもそも『聖魔道士』自体、神話めいている。
結局御者の血は僕がもらった。
保存用に抜けるだけ抜いて、ギリギリの状態で解放した。森に逃げて行ったから恐らく魔物に喰われたことだろう。
王宮の人間はどうなろうがどうでもいい。どうせ牢馬車に閉じ込められた人間を置き去りにするような奴だ。
『隊長、牢馬車に取り残された人間はダン隊長が助けたらしい。』
『ん~~~、ダンの他にも魔力の気配を感じるな。』
『どうする? 部下を偵察に出すか?』
『いんにゃ……てか不思議な魔力を感じるね。なんだろうな。ちょっと気になる。』
リヨ隊長は雷魔法を専門としているが、周りの魔力を感じ取る能力もある。
『氷魔法と水魔法の力は恐らくルナとグレコだろ? んじゃあ、なんだろ。このほんわかした魔力……』
僕は魔物の肉にしか興味がない。でもその時ばかりは、自分も、『ほんわか』としたなにかに惹かれてしまった。
そして崖の上から偵察していれば、ダン隊長が女の血の治癒で、削がれた腰の肉が綺麗に治った現場を目撃した、というわけだ。
つまり僕らは昨日、森でハルに出会った時点で、彼女が『歪血者』に似た存在だということを知っていた。
『ほぉ~~ん。『歪血者』の力は治癒だけじゃないはずだ。数百年前の文献によれば、体液により魔力増強も与えたと云われている。』
むしろ彼女が『歪血者』並の治癒力だと知っていたからこそあえて接触した、というわけだ。
彼女の魔力増強の力を確かめるために。
ハルの涙を舐めた時から、自分の魔力量が湧き上がるのを感じたと言っていた。
リヨ隊長の思惑は彼女の尻だけにとどまらない。
『ハルルンの力を使って、王宮の人間どもにダンピールの偉大さを知らしめることができるかも知れないな。』
『王族を乗っ取るつもりですか?』
『ああ。昔、俺の村に魔物をけしかけた王族どもに復讐してやるチャンスだ。』
『でも彼女も人間だ。ダンピールの手下になるだろうか?』
『そりゃなるだろう。王宮に国外追放されたんだぞ? それに俺様のイケメンっぷりで女の1人や2人、いくらでも絆してやんよ!』
隊長が舌を出してウィンクをした。すると隊長の頭にハエが止まった。
花街の女性にだって相手にされない男がなにを言っているのだろう。
だがすでに第3部隊は彼女に目をつけている様子。なにをどう使うかは知らないが。
ルナ隊長は今日は一日非番だと言っていた。
あの人なら花街に行っている可能性大だが、あの人の『魅了』の力ですでにハルが堕とされていないか心配だ。
「というわけで、俺は今から血生ぐさい尋問塔の掃除なんで。失礼します。」
相変わらず根暗そうなグレコが去っていく。グレコは、犯罪を冒した人間の尋問を行うのが得意らしい。
ダンピールは魔物退治がメインだが、もちろん辺境地の罪人を裁くのも仕事だ。
尋問塔からは度々人間の阿鼻叫喚が響いてくる。
今度グレコに、人間の軟骨を取っておいてもらうよう頼んでおこう。
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