7 / 18
第一章:アルテイルの扉
【7】魔法陣
しおりを挟む
一階でのミレイユの戦い振りを見た俺の感想は『予想よりは良いが上層に挑むには厳しそうだ』といったところだろうか。
だが俺はそれ以上に深刻なことに気がついた。
いや、思い出したと言った方がいいか……。
「はっ! ムーンスラッシュ!」
ミレイユの剣術スキルがオークの体を切り裂いた。
分厚い脂肪の下にある筋肉を切り裂かれて、オークは悲鳴を上げながら血飛沫を撒き散らした。
人間であればそろそろ死に至る水準の出血だが、こいつにとってはまだ行動可能な段階だ。
オークの変異種の中には、血液の代わりにスライムを体内に巡回させるような奴もいたはずだから、これは別に不思議なことじゃない。
魔物にとって、血液は生きるために必須の要素とは限らない。
「まだまだっ! ムーンクレイドル!」
「オォォォォォォォ!」
ミレイユが素早い剣さばきで追撃に入った。
頭部への剣が致命傷となり、オークはついに倒れて動かなくなった。
「ふう……」
「おつかれ。俺の助けは必要なかったな」
「うん。どう? ちゃんと一人でも倒せたよ?」
「ああ、大したもんだ」
ミレイユとハイタッチしながら、俺は内心で彼女に厳しい評価を下していた。
確かにこの階層は問題なさそうだ。
50階ぐらいまで行っても、援護があれば通用するかもしれない。
……だがそこまでだ。
重要なのはあくまでも一千階付近で通用するかどうかだ。
もっと言えば、この天上の塔を制覇できる水準にあるかどうかということになる。
その観点から見れば、正直言って難しい。
(俺も昔の力を全部取り戻したわけじゃないし、一緒に鍛えるしかなさそうだな)
「ジェイドー。一階は楽勝みたいだしさ、一気に十階刻みとかで進んでもいいんじゃない? なんなら最前線の50階以上でもいいよ?」
「こら、調子に乗るな。どんな実力者だって、舐めて掛かったら実力は発揮できないんだぞ? 実力を出せない実力者なんて、その辺の雑魚と同じだ」
功を焦って突き進んだ結果が無残な死では目も当てられない。
「せめて『亡者の嫌がらせ』を手に入れてからだな。無理をするのは」
「ああ、死にそうになったときに生かしてくれる呪いのアイテムだね」
「そう。代わりに痛みが凄いけどな。とにかく、まずは低層で稼いで装備と物資を十分に揃えておきたい。俺もお前も、長期の遠征に向いた装備はあまり持ってないだろ?」
「確かに。日帰りとか数日ぐらいならいいけど、それ以上はちょっとね」
だが金を稼ごうと思ったら危険度の高い上階の方が早いというのも事実だ。
「とりあえず、ここで少しぐらいは稼いでから上に行こう。先にこの階のルートの確認もしないといけないしな」
「そうだね。私はさっさと進みたいけど。そっちの方が早く稼げるし」
そういえばこいつは金に困ってたんだっけか?
「とりあえず、今日は一階だけだ。上に行くのは次以降にしよう」
「あーい」
俺達は敵を倒して素材を剥ぎ取りながら、一階を確認して回った。
ミレイユの実力はわかったので、俺も古代魔法を使って感触を確かめた。
今の俺の魔力で問題なく使えるのは……。
炎の【フレアサークル】、土の【ヴァニッシュ】、風の【フィアフル】、水の【インブレイズ】、
身体強化の【ヴォルテック】、治癒の【リザレクション】、移動の【フラッシュ】、防御の【テラー】。
以上の8つだけだ。
古代魔法は他にも色々とあるが、現状はこんなところだろう。
味方の被害を気にしないのなら、呪いの【カイラース】なんかも使えるが、間違いなくミレイユが死ぬのでやめておいた方がいいだろう。
結果から言ってしまうと、一階の探索は楽勝だった。
そう、探索は。
「これは……だめだな」
100階付近まで行ける魔法陣へ行けるはずの隠し通路。
俺はそこが無数の大木で塞がれているのを見て肩を落とした。
なるほど、これなら現代で魔法陣が発見されていないわけだ。
わざわざこの木々を排除して先を見てみようなんて思うやつはいないだろう。
「どうするジェイド? ジェイドの魔法なら燃やせるんだよね?」
「ああ、もちろんだ」
現代魔法には手に負えない木々も、俺の古代魔法ならいける。
俺は本日二度目のフレアサークルを放った。
衝撃と熱波、そして炎で燃えていく大木達。
インブレイズの水流で消化ついでに邪魔な木を押し流してやると、その先には俺の期待通りの道が現れた。
「よし、いこう」
「うん、そうだね」
俺達はしばらく進んで、小さな神殿のような場所へと辿り着いた。
建物は全部が石で出来ているが、不自然に真新しい。
保全の魔法が掛かっているせいだ。
俺は躊躇うこと無く中へと入った。
来訪者を感知して、石の扉が自動的に開いていく。
「わわっ、すごい!」
ミレイユはこういうのを見るのが初めてだったらしい。
無理もない。
いわゆるロストテクノロジーってやつだ。
「あった。あったぞ」
俺は思わず呟いた。
薄暗い神殿の中で、一箇所だけ地面が青く光っている。
「ジェイド、これが100階に行けるっていう魔法陣なの?」
「ああ、そうだ。間違いない、まだ生きてる」
俺はそう言いながら魔法陣に触れた。
その瞬間、俺の全身に電流のような何かが走った。
「ジェイド!」
一度だけ跳ねるように体を仰け反らせた俺の脳裏に、アルテイルの扉が映し出された。
この天上の塔の頂上にあるその扉が少しだけ開き、奥の暗闇から男の言葉が響いた。
『いいかジェイド? これからは全てを奪える時代だ。技も力も、知識や経験も、これからは全部がスキルとして手に入るんだ。そう……堕落の時代が始まるのさ』
だが俺はそれ以上に深刻なことに気がついた。
いや、思い出したと言った方がいいか……。
「はっ! ムーンスラッシュ!」
ミレイユの剣術スキルがオークの体を切り裂いた。
分厚い脂肪の下にある筋肉を切り裂かれて、オークは悲鳴を上げながら血飛沫を撒き散らした。
人間であればそろそろ死に至る水準の出血だが、こいつにとってはまだ行動可能な段階だ。
オークの変異種の中には、血液の代わりにスライムを体内に巡回させるような奴もいたはずだから、これは別に不思議なことじゃない。
魔物にとって、血液は生きるために必須の要素とは限らない。
「まだまだっ! ムーンクレイドル!」
「オォォォォォォォ!」
ミレイユが素早い剣さばきで追撃に入った。
頭部への剣が致命傷となり、オークはついに倒れて動かなくなった。
「ふう……」
「おつかれ。俺の助けは必要なかったな」
「うん。どう? ちゃんと一人でも倒せたよ?」
「ああ、大したもんだ」
ミレイユとハイタッチしながら、俺は内心で彼女に厳しい評価を下していた。
確かにこの階層は問題なさそうだ。
50階ぐらいまで行っても、援護があれば通用するかもしれない。
……だがそこまでだ。
重要なのはあくまでも一千階付近で通用するかどうかだ。
もっと言えば、この天上の塔を制覇できる水準にあるかどうかということになる。
その観点から見れば、正直言って難しい。
(俺も昔の力を全部取り戻したわけじゃないし、一緒に鍛えるしかなさそうだな)
「ジェイドー。一階は楽勝みたいだしさ、一気に十階刻みとかで進んでもいいんじゃない? なんなら最前線の50階以上でもいいよ?」
「こら、調子に乗るな。どんな実力者だって、舐めて掛かったら実力は発揮できないんだぞ? 実力を出せない実力者なんて、その辺の雑魚と同じだ」
功を焦って突き進んだ結果が無残な死では目も当てられない。
「せめて『亡者の嫌がらせ』を手に入れてからだな。無理をするのは」
「ああ、死にそうになったときに生かしてくれる呪いのアイテムだね」
「そう。代わりに痛みが凄いけどな。とにかく、まずは低層で稼いで装備と物資を十分に揃えておきたい。俺もお前も、長期の遠征に向いた装備はあまり持ってないだろ?」
「確かに。日帰りとか数日ぐらいならいいけど、それ以上はちょっとね」
だが金を稼ごうと思ったら危険度の高い上階の方が早いというのも事実だ。
「とりあえず、ここで少しぐらいは稼いでから上に行こう。先にこの階のルートの確認もしないといけないしな」
「そうだね。私はさっさと進みたいけど。そっちの方が早く稼げるし」
そういえばこいつは金に困ってたんだっけか?
「とりあえず、今日は一階だけだ。上に行くのは次以降にしよう」
「あーい」
俺達は敵を倒して素材を剥ぎ取りながら、一階を確認して回った。
ミレイユの実力はわかったので、俺も古代魔法を使って感触を確かめた。
今の俺の魔力で問題なく使えるのは……。
炎の【フレアサークル】、土の【ヴァニッシュ】、風の【フィアフル】、水の【インブレイズ】、
身体強化の【ヴォルテック】、治癒の【リザレクション】、移動の【フラッシュ】、防御の【テラー】。
以上の8つだけだ。
古代魔法は他にも色々とあるが、現状はこんなところだろう。
味方の被害を気にしないのなら、呪いの【カイラース】なんかも使えるが、間違いなくミレイユが死ぬのでやめておいた方がいいだろう。
結果から言ってしまうと、一階の探索は楽勝だった。
そう、探索は。
「これは……だめだな」
100階付近まで行ける魔法陣へ行けるはずの隠し通路。
俺はそこが無数の大木で塞がれているのを見て肩を落とした。
なるほど、これなら現代で魔法陣が発見されていないわけだ。
わざわざこの木々を排除して先を見てみようなんて思うやつはいないだろう。
「どうするジェイド? ジェイドの魔法なら燃やせるんだよね?」
「ああ、もちろんだ」
現代魔法には手に負えない木々も、俺の古代魔法ならいける。
俺は本日二度目のフレアサークルを放った。
衝撃と熱波、そして炎で燃えていく大木達。
インブレイズの水流で消化ついでに邪魔な木を押し流してやると、その先には俺の期待通りの道が現れた。
「よし、いこう」
「うん、そうだね」
俺達はしばらく進んで、小さな神殿のような場所へと辿り着いた。
建物は全部が石で出来ているが、不自然に真新しい。
保全の魔法が掛かっているせいだ。
俺は躊躇うこと無く中へと入った。
来訪者を感知して、石の扉が自動的に開いていく。
「わわっ、すごい!」
ミレイユはこういうのを見るのが初めてだったらしい。
無理もない。
いわゆるロストテクノロジーってやつだ。
「あった。あったぞ」
俺は思わず呟いた。
薄暗い神殿の中で、一箇所だけ地面が青く光っている。
「ジェイド、これが100階に行けるっていう魔法陣なの?」
「ああ、そうだ。間違いない、まだ生きてる」
俺はそう言いながら魔法陣に触れた。
その瞬間、俺の全身に電流のような何かが走った。
「ジェイド!」
一度だけ跳ねるように体を仰け反らせた俺の脳裏に、アルテイルの扉が映し出された。
この天上の塔の頂上にあるその扉が少しだけ開き、奥の暗闇から男の言葉が響いた。
『いいかジェイド? これからは全てを奪える時代だ。技も力も、知識や経験も、これからは全部がスキルとして手に入るんだ。そう……堕落の時代が始まるのさ』
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる