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第一章:アルテイルの扉

【15】謎の少女

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「ふう、危なかったな」

周囲一体を覆っていた爆煙が風で飛ばされた後、俺は防御の【テラー】で出現させた壁を解除した。
デビルデーモン達の自爆の威力があまりにも強力すぎて、俺達の周囲は完全な更地になってしまった。

ミレイユが落としたサーベルも姿が見当たらない。
もしかすると爆発で跡形もなく消滅した可能性すら考えられる。

「大丈夫か? ミレイユ」

俺は抱きしめていたミレイユの様子を確認した。
爆発で怪我をしてはいないと思うが、その前のデビルデーモンとの戦いで傷を負っている可能性は十分にある。

「う、うん……。大丈夫」

俺の胸から顔を離したミレイユだったが、顔が真っ赤だ。

自分の実力で手に負えない敵にいきなり取り囲まれたのだから無理もないか。
よほど怖かったに違いない。

「怪我はないか?」

「うん……。今度は本当に大丈夫だよ」

俺と目が合うと、ミレイユは視線を左右に泳がせた。
案外恥ずかしがり屋なのかもしれない。

「よし。目的は達したし、素材を回収してさっさと帰ろう」

俺はミレイユから体を離そうとした。
だがまだ恐いのか、彼女は俺の服を掴んでいる。

「仕方ないな……。ほら、手つないでやるから」

「え……。ええぇっ! 手?! ここで?! 二人っきりで?!」

ミレイユは慌てだした。
まあそうだろう、俺だって子供扱いされるのは嫌だ。

でもこの状況じゃ仕方がない。
俺はミレイユと強引に手をつなぐと、さっき殺したデビルデーモンの死体に向けて歩き出した。

ミレイユは最初こそ俺に引っ張られていたが、すぐに俺の隣を歩くようになった。

「だ、誰かに見られちゃったら大変だね、手つないでるとこ……」

「確かに。隙になるからな」

「す、好きになる?! ホントに?!」

「ああ」

やっぱりミレイユの様子がおかしい。
きっとこの危険地帯に身を置いているのが不安でならないんだろう。

(仕方ない。骨は諦めるか)

俺はデビルデーモンの角だけを回収すると、街へ帰還することにした。

「よし、このまま街に帰るぞ」

「こ、このまま帰るの?! 手つないだまま?! どどどど、どうしよう! ジェイドと手ついでるの、みんなに見られちゃう!」

「心配するな。塔を出たらすぐに離すから」

「え……」

この後、俺達は街に戻ったわけだが……。
ミレイユは塔を出た辺りから妙に機嫌が悪くなった。

◇ ◆

時間は、ジェイドが自爆攻撃を受けた直後に遡る。

大型のデビルデーモンを一方的に殺し、さらに二匹の自爆攻撃まで防いでみせたジェイド。
彼がミレイユと一緒に爆煙から姿を現した時、遠くから二人に熱い視線を注ぐ影があった。

「へえ、あれを生き残るんだ」

そこには驚きと喜びが込められている。
いかにも魔法使いですと言わんばかりの格好をした少女は、オレンジ色の髪を機嫌よく揺らした。

「下層はザコしかいないと思ってたけど、私のペットに勝てる奴もいるんだね。ちょっと気になるかも」

彼女の背後には、ジェイド達を襲ったのと同じデビルデーモンが、何匹も跪いていた。
唯我独尊の気性を持つ彼らが他者に跪くなど、自然界ではありえない光景だ。

そう、自然界では。

「至近距離で自爆攻撃を受けても無傷……。少し良い報告ができそうだね」

少女は意地の悪そうな笑みを浮かべると、デビルデーモン達を従えて森の奥へと消えていった。


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