380 / 1,646
人を捨てた代償に
しおりを挟む
全てはもう一度この男と刃を交える為。ツクヨは再度布都御魂剣を握り目を閉じる。そしてその瞼に活路を見出そうとする。しかし彼の目に映ったのは期待していたものではなく、まるで希望の光へ向かって登る階段が絶望の深淵に崩れ落ちるかのような真っ暗な光景だった。
明らかな異常。直ぐにツクヨは目を開き振り返ると、ロロネーの姿を確認する。だが既に男の姿はなく、周囲を見渡しても気配すら感じられない。
「オーバースペックって、知ってるか?」
何処からともなく聞こえてくる男の声。当然辺りに姿などなく、頭の中の妄想のように自分ではない別の者の声が聞こえてくるのだ。そしてその声に気を取られた一瞬、ツクヨの肩口に激痛と共に冷たい鋼の感触が伝わる。
「ぐッ・・・ぁぁぁあ“あ”あ“ッ!」
ゆっくりと霧の中から姿を現したロロネーは、手にした剣でツクヨの背後から剣を握る方の肩を串刺しにしていた。彼の手から力なくこぼれ落ちた木造の剣は、甲板に乾いた音を響かせた。
「その剣に一体どれだけの能力が備わっているのかは、俺にも計り知れねぇが・・・。恐らくお前は目を閉じることで、自身の固有の世界を創り出し見ていたんじゃぁねぇか?そしてそれは、瞼の向こう側・・・つまり現実の世界にまで影響を及ぼす程の力を持っていた」
ロロネーの推測は正しい。この男はツクヨと剣を交えただけで、彼の身に起きている奇怪な出来事や、未知の能力を探り出し、その効能を見事当てて見せた。まだWoFの世界に来て間もないツクヨと違い、こちらの世界で生きてきたロロネーは数多の敵と戦ってきたことだろう。
その決して埋まることのない経験の差が、二人の命運を分けた。ロロネーの言う通り、ツクヨにはまだこの力を扱えるだけのスペックがなかったのだ。
「謂わば俺の霧と同じさぁ。地形や戦場を覆い尽くす程の効果は、並大抵の者では維持することは出来ない。それこそ一人の人間には有り余る力だ」
ロロネーの発生させている濃霧は、海域の一部に自身にとって都合のいい効果を与える能力がある。それによりチン・シーの大船団は分断され、ハオランを見失い、怪異による奇襲や同士討ちを招くこととなった。
加えてゴーストシップや亡霊というモンスターの類を生み出す、まるで不滅の大軍勢を作り上げていた。このような大規模に至る能力は、ツクヨ達も以前に経験したことがある。
聖都ユスティーチにおいて、聖騎士達の王シュトラールが自身の式神で生み出した鎧の騎士団を聖都中に配置していた。彼はその力を使いつつ、シン達やアーテム達を一人で相手にしていたのだ。そのことからも、彼の尋常ならざる魔力の片鱗が窺える。
故に、グラン・ヴァーグの酒場で出会ったキングも、シュトラールの名を知る程の有名人物だった。そんな者の治める国が崩壊し、死亡が報じられれば世間を揺るがす重大事項となったのも肯けるというもの。
しかし、ツクヨはこの男の話を聞いて一つ疑問に思うことがあった。ロロネーは確かに強い。だが聖都で戦ったシュトラールはそれ以上の化け物だった。海域の範囲が何処までかは定かではないが、そのロロネーにこれ程長丁場に渡る濃霧を発生させ続けるだけの魔力があるのだろうか。
それとも以前のツクヨとは違い、新たな力を得たことで少しでもシュトラールのような者達の域に近づけたのだろうか。
「・・・アンタにはそれ程の力がある、と?」
ツクヨの言葉に、ロロネーはまるで期待していた反応で返って来たと言わんばかりの笑みを溢す。そしてチン・シーやハオランが気が付いていたロロネーのとある秘密について喋り出した。
「ハハハッ!そうさッ!俺ぁもう人間なんてちっぽけなモンじゃぁねぇッ!人の域を超越した、まさに化け物になったってわけだぁッ!体力も魔力も能力も!もう俺を縛り付けるものは何もない!」
ロロネーはチン・シーやハオランの感じていた通り、文字通り“人間“ではなくなっていた。いつ何処でそうなったのかは本人にしか分からないが、この男は既に“死んでいた“のだ。
人の域を超越したとは肉体や体力、魔力やクラスなど人間の枠を飛び越え、ロロネー自身の姿と能力は人型のモンスターと化し、魔力も体力もモンスターの規格へと変貌していた。
それ故、濃霧を発生し続ける中で無尽蔵に亡霊を生み出し、海賊船を作り出す程の膨大な魔力量を有していたのだった。
つまり、フランソワ・ロロネーという海賊は既に死んでおり、亡者を率いる人型のモンスターとしてこの世界に存在しているということになる。
「・・・何の話だ・・・?」
WoFの世界に疎いツクヨには、ロロネーの言葉の意味が深くは理解できなかった。彼でなくとも、人間と相違ないロロネーをモンスターであると見抜くことは難しいだろう。より深くこの世界のことを理解し、多くの知識やあり得ないような出来事に遭遇してこなければ不可能だ。
似たような現象としてシンとミアは一度、人間ではなくなった者達というものに遭遇したことがある。それは二人が出会って初めて直面する大きな障害となった、アンデッド化に苦しむ村での出来事。
そこでは人々がアンデッドに変えられ、その首謀者に仕立て上げられたメアという男もまた、アンデッドにされ望まぬ力を付与されていた。形は違えど、同じく人ではなくなった彼とロロネーに何か関係性はあるのだろうか。
明らかな異常。直ぐにツクヨは目を開き振り返ると、ロロネーの姿を確認する。だが既に男の姿はなく、周囲を見渡しても気配すら感じられない。
「オーバースペックって、知ってるか?」
何処からともなく聞こえてくる男の声。当然辺りに姿などなく、頭の中の妄想のように自分ではない別の者の声が聞こえてくるのだ。そしてその声に気を取られた一瞬、ツクヨの肩口に激痛と共に冷たい鋼の感触が伝わる。
「ぐッ・・・ぁぁぁあ“あ”あ“ッ!」
ゆっくりと霧の中から姿を現したロロネーは、手にした剣でツクヨの背後から剣を握る方の肩を串刺しにしていた。彼の手から力なくこぼれ落ちた木造の剣は、甲板に乾いた音を響かせた。
「その剣に一体どれだけの能力が備わっているのかは、俺にも計り知れねぇが・・・。恐らくお前は目を閉じることで、自身の固有の世界を創り出し見ていたんじゃぁねぇか?そしてそれは、瞼の向こう側・・・つまり現実の世界にまで影響を及ぼす程の力を持っていた」
ロロネーの推測は正しい。この男はツクヨと剣を交えただけで、彼の身に起きている奇怪な出来事や、未知の能力を探り出し、その効能を見事当てて見せた。まだWoFの世界に来て間もないツクヨと違い、こちらの世界で生きてきたロロネーは数多の敵と戦ってきたことだろう。
その決して埋まることのない経験の差が、二人の命運を分けた。ロロネーの言う通り、ツクヨにはまだこの力を扱えるだけのスペックがなかったのだ。
「謂わば俺の霧と同じさぁ。地形や戦場を覆い尽くす程の効果は、並大抵の者では維持することは出来ない。それこそ一人の人間には有り余る力だ」
ロロネーの発生させている濃霧は、海域の一部に自身にとって都合のいい効果を与える能力がある。それによりチン・シーの大船団は分断され、ハオランを見失い、怪異による奇襲や同士討ちを招くこととなった。
加えてゴーストシップや亡霊というモンスターの類を生み出す、まるで不滅の大軍勢を作り上げていた。このような大規模に至る能力は、ツクヨ達も以前に経験したことがある。
聖都ユスティーチにおいて、聖騎士達の王シュトラールが自身の式神で生み出した鎧の騎士団を聖都中に配置していた。彼はその力を使いつつ、シン達やアーテム達を一人で相手にしていたのだ。そのことからも、彼の尋常ならざる魔力の片鱗が窺える。
故に、グラン・ヴァーグの酒場で出会ったキングも、シュトラールの名を知る程の有名人物だった。そんな者の治める国が崩壊し、死亡が報じられれば世間を揺るがす重大事項となったのも肯けるというもの。
しかし、ツクヨはこの男の話を聞いて一つ疑問に思うことがあった。ロロネーは確かに強い。だが聖都で戦ったシュトラールはそれ以上の化け物だった。海域の範囲が何処までかは定かではないが、そのロロネーにこれ程長丁場に渡る濃霧を発生させ続けるだけの魔力があるのだろうか。
それとも以前のツクヨとは違い、新たな力を得たことで少しでもシュトラールのような者達の域に近づけたのだろうか。
「・・・アンタにはそれ程の力がある、と?」
ツクヨの言葉に、ロロネーはまるで期待していた反応で返って来たと言わんばかりの笑みを溢す。そしてチン・シーやハオランが気が付いていたロロネーのとある秘密について喋り出した。
「ハハハッ!そうさッ!俺ぁもう人間なんてちっぽけなモンじゃぁねぇッ!人の域を超越した、まさに化け物になったってわけだぁッ!体力も魔力も能力も!もう俺を縛り付けるものは何もない!」
ロロネーはチン・シーやハオランの感じていた通り、文字通り“人間“ではなくなっていた。いつ何処でそうなったのかは本人にしか分からないが、この男は既に“死んでいた“のだ。
人の域を超越したとは肉体や体力、魔力やクラスなど人間の枠を飛び越え、ロロネー自身の姿と能力は人型のモンスターと化し、魔力も体力もモンスターの規格へと変貌していた。
それ故、濃霧を発生し続ける中で無尽蔵に亡霊を生み出し、海賊船を作り出す程の膨大な魔力量を有していたのだった。
つまり、フランソワ・ロロネーという海賊は既に死んでおり、亡者を率いる人型のモンスターとしてこの世界に存在しているということになる。
「・・・何の話だ・・・?」
WoFの世界に疎いツクヨには、ロロネーの言葉の意味が深くは理解できなかった。彼でなくとも、人間と相違ないロロネーをモンスターであると見抜くことは難しいだろう。より深くこの世界のことを理解し、多くの知識やあり得ないような出来事に遭遇してこなければ不可能だ。
似たような現象としてシンとミアは一度、人間ではなくなった者達というものに遭遇したことがある。それは二人が出会って初めて直面する大きな障害となった、アンデッド化に苦しむ村での出来事。
そこでは人々がアンデッドに変えられ、その首謀者に仕立て上げられたメアという男もまた、アンデッドにされ望まぬ力を付与されていた。形は違えど、同じく人ではなくなった彼とロロネーに何か関係性はあるのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
290
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる