氷血辺境伯の溺愛オメガ

ちんすこう

文字の大きさ
24 / 65


「川辺で君を見た瞬間『あの子は僕の番だ』と悟ったんだ。それから、すぐに連れて帰りたいとも思った……初代と同じように」

 淡々と話しながら、握った手に力がこもっていく。ひく、と震えたのが伝わったのか、ユージーンははっとして手を緩めた。

「もちろん、これはただのお願いだよ。断られたらすぐに身を引く」

 ――僕、告白されてる?
 信じられない気持ちで彼を見つめ返しながら、そっと伺った。

「僕とあなたが、番になるんですか? 辺境伯様と、奴隷だった僕が」
「君に惚れているんだ。急な話で混乱するだろうが、僕は確信してる――僕たちは、運命の番だと」
「で、でも。聞いたことがあるんです。運命なら、お互いに分かるって。だけど、僕は……」

 その後が言い辛くて押し黙ると、ユージーンは察したのか苦笑いを浮かべた。

「きっと、二人で過ごしていればいつかカナンにも分かるよ。君は幼いから、今はまだ実感が湧かないかもしれないけれど」

 ユージーンと一緒にいて、嫌な感じがしたことはない。彼の言うように、僕の感覚がまだ鈍いだけで、時間をかければ僕も『この人が自分の運命だ』と理解するのかもしれない。

「……そんな日が来ますか?」
「来るよ。僕はそう信じているけど、答えは急がない。君の気持ちが追いつくのを待つ」

 でもそれは、ユージーンにとっては長すぎる時間じゃないのかな。
 そう考えたら、申し訳ない気がする。

「……分かりました。お屋敷に置いてもらっている間に、ちゃんと考えます」
「うん。じっくり考えてみて。後悔のないように」
「そのあいだ、辛かったらあなたは他のオメガと番って――」

 言い終わる前に唇で唇を塞がれていた。
 触れるだけの口付けをして、ユージーンは静かに離れていく。

「ばかを言わないでね。僕は、君だけを愛しているんだから」
「ぁ……こ、こんなところで……んっ♡」

 言葉の代わりに甘ったるいキスを注がれて、思考がとろとろふやけていく。
 ちゅっ♡ ちゅっ♡ と唇を優しく吸われて、そこから頬へ、目元へと唇が当てられる。

「ゃ、ひ、人が見てますからっ……!」
「僕はカナンだけのものだって見せつけてるんだよ。恥ずかしい?」

 こくこく頷いて必死に肯定すると、薄い唇が弧を描いた。

「じゃあ、もっとしてあげる」
「な、なんでっ!? ひゃうっ♡♡」

 ちゅ♡ と耳たぶを吸われて、首筋までぞくぞくっと電流が走った。耳を甘噛みしながら、じかに低い声を吹き込まれる。

「ちょっとした八つ当たり、かな。好きな子に『他のオメガと番っていい』なんて言われたら傷付いちゃうから……。そんな考えをカナンに刷り込んだ奴らにもムカつくね」

 ちゅる、と舌が耳の中に入ってきて、ぴちゃぴちゃ水音を立てる。テーブルの周りにはお給仕の人たちが控えてるのに。その音が部屋中に聞こえるんじゃないかってくらい響いた。

「あ、ぁ……っ♡ くすぐったい、ユージーンさん、んっ♡♡」
「かわいい声」

 ちゅぷ、と音を立てて離れていくと、僕を抱き締めながら呟いた。

「君と僕は対等なんだよ。カナンが振り向いてくれないからって他で満たそうとは思わないし、そんな欲も湧かない。僕は、君だけを想っている」

 自分がこんな風に言ってもらえるなんて現実味がなくて、戸惑うしかなかった。
 アルファの欲求を満たすため、道具として買われるならまだ理解できる。
 買われて、項を噛まれ、主を唯一の存在にされて……毎日抱かれたくて我慢できないくらい、夢中にさせられる。強制的に。
 そして、アルファの征服欲はそうやって自分を求めてくるオメガを見ることで満足する……。

 アルファは他にも番を持てるから、欲求不満になるとそんな“買い物”を繰り返す。いらなくなったら捨ててしまえばいいんだから、簡単なことだ。
 生まれ育った国ではそれが当たり前だった。

「カナン……これは僕個人の頼みなんだ。アルファでもなく、辺境伯でもなく、ただのユージーン・リベラの願いだと思って決めてほしい。結局僕が君にとっての運命ではなくて、カナンがこの頼みを断っても、国境の管理者としてきちんと君の支援は続けるから、正直な気持ちを話してくれたら嬉しい」

 首輪を強引に切って噛んでしまえば勝手に番にしてしまえるのに、ユージーンはそこに触れもしなかった。

 僕が今まで見てきたアルファたちとは違う。
 愛する人を無理やり番にした、彼の先祖とも。

「好きだよ、カナン」

 彼はそう言って微笑んだ。
 今すぐ『僕も好きです』と答えて、この人の気持ちに応えてあげられればいいのに、と思った。


感想 18

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース