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「川辺で君を見た瞬間『あの子は僕の番だ』と悟ったんだ。それから、すぐに連れて帰りたいとも思った……初代と同じように」
淡々と話しながら、握った手に力がこもっていく。ひく、と震えたのが伝わったのか、ユージーンははっとして手を緩めた。
「もちろん、これはただのお願いだよ。断られたらすぐに身を引く」
――僕、告白されてる?
信じられない気持ちで彼を見つめ返しながら、そっと伺った。
「僕とあなたが、番になるんですか? 辺境伯様と、奴隷だった僕が」
「君に惚れているんだ。急な話で混乱するだろうが、僕は確信してる――僕たちは、運命の番だと」
「で、でも。聞いたことがあるんです。運命なら、お互いに分かるって。だけど、僕は……」
その後が言い辛くて押し黙ると、ユージーンは察したのか苦笑いを浮かべた。
「きっと、二人で過ごしていればいつかカナンにも分かるよ。君は幼いから、今はまだ実感が湧かないかもしれないけれど」
ユージーンと一緒にいて、嫌な感じがしたことはない。彼の言うように、僕の感覚がまだ鈍いだけで、時間をかければ僕も『この人が自分の運命だ』と理解するのかもしれない。
「……そんな日が来ますか?」
「来るよ。僕はそう信じているけど、答えは急がない。君の気持ちが追いつくのを待つ」
でもそれは、ユージーンにとっては長すぎる時間じゃないのかな。
そう考えたら、申し訳ない気がする。
「……分かりました。お屋敷に置いてもらっている間に、ちゃんと考えます」
「うん。じっくり考えてみて。後悔のないように」
「そのあいだ、辛かったらあなたは他のオメガと番って――」
言い終わる前に唇で唇を塞がれていた。
触れるだけの口付けをして、ユージーンは静かに離れていく。
「ばかを言わないでね。僕は、君だけを愛しているんだから」
「ぁ……こ、こんなところで……んっ♡」
言葉の代わりに甘ったるいキスを注がれて、思考がとろとろふやけていく。
ちゅっ♡ ちゅっ♡ と唇を優しく吸われて、そこから頬へ、目元へと唇が当てられる。
「ゃ、ひ、人が見てますからっ……!」
「僕はカナンだけのものだって見せつけてるんだよ。恥ずかしい?」
こくこく頷いて必死に肯定すると、薄い唇が弧を描いた。
「じゃあ、もっとしてあげる」
「な、なんでっ!? ひゃうっ♡♡」
ちゅ♡ と耳たぶを吸われて、首筋までぞくぞくっと電流が走った。耳を甘噛みしながら、じかに低い声を吹き込まれる。
「ちょっとした八つ当たり、かな。好きな子に『他のオメガと番っていい』なんて言われたら傷付いちゃうから……。そんな考えをカナンに刷り込んだ奴らにもムカつくね」
ちゅる、と舌が耳の中に入ってきて、ぴちゃぴちゃ水音を立てる。テーブルの周りにはお給仕の人たちが控えてるのに。その音が部屋中に聞こえるんじゃないかってくらい響いた。
「あ、ぁ……っ♡ くすぐったい、ユージーンさん、んっ♡♡」
「かわいい声」
ちゅぷ、と音を立てて離れていくと、僕を抱き締めながら呟いた。
「君と僕は対等なんだよ。カナンが振り向いてくれないからって他で満たそうとは思わないし、そんな欲も湧かない。僕は、君だけを想っている」
自分がこんな風に言ってもらえるなんて現実味がなくて、戸惑うしかなかった。
アルファの欲求を満たすため、道具として買われるならまだ理解できる。
買われて、項を噛まれ、主を唯一の存在にされて……毎日抱かれたくて我慢できないくらい、夢中にさせられる。強制的に。
そして、アルファの征服欲はそうやって自分を求めてくるオメガを見ることで満足する……。
アルファは他にも番を持てるから、欲求不満になるとそんな“買い物”を繰り返す。いらなくなったら捨ててしまえばいいんだから、簡単なことだ。
生まれ育った国ではそれが当たり前だった。
「カナン……これは僕個人の頼みなんだ。アルファでもなく、辺境伯でもなく、ただのユージーン・リベラの願いだと思って決めてほしい。結局僕が君にとっての運命ではなくて、カナンがこの頼みを断っても、国境の管理者としてきちんと君の支援は続けるから、正直な気持ちを話してくれたら嬉しい」
首輪を強引に切って噛んでしまえば勝手に番にしてしまえるのに、ユージーンはそこに触れもしなかった。
僕が今まで見てきたアルファたちとは違う。
愛する人を無理やり番にした、彼の先祖とも。
「好きだよ、カナン」
彼はそう言って微笑んだ。
今すぐ『僕も好きです』と答えて、この人の気持ちに応えてあげられればいいのに、と思った。
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