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第27話 妹との再会
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「こちら、山間部行きになります。お乗りの方はお早めに集合してください」
駅員が声を張り上げる。
俺はたくさんの荷物を抱えて、魔法陣の上に立った。
ここは転移ステーション。
魔法陣を使って、遠くへ旅立つことができる便利スポットだ。旅費はそれなりに取られるが、馬車の旅とは違って一瞬で目的地に着ける。
「忘れ物はないか、ティノ」
リヒターは非番だが、腰に剣を下げていた。転移ステーションを狙って賊が出ることもあるからな。俺もいざという時に目潰し効果があるペッパーポーションをポケットの中に入れている。
「よろしいですか。それでは、出発します!」
かくして転移の魔法が発動し、俺とリヒターは山間部へと旅立った。
◇◇◇
久しぶりに見るリーザの横顔は、以前よりも大人びていた。この山間部の療養所で、いろいろな出来事があったのだろう。俺は泣きそうになるのを堪えて、リーザに声をかけた。
「リーザ!」
「お兄ちゃん!」
「随分と待たせちまったな。薬代を納めてきたぜ」
「えっ、本当? あの、……そちらの方は?」
「俺はリヒター。ティノの婚約者だ。初めまして、リーザさん」
「こっ、婚約者!? お兄ちゃんがお世話になっております」
ぺこりとリーザが頭を下げる。
「よしてくれ。世話になっているのは俺の方だよ」
「リヒターは騎士団の仕事の傍ら、絵を描いてるんだ。その絵が売れたから、俺にモデル料が入ってさ。それで、予定よりも早く薬を買うことができたんだ」
「お兄ちゃん、ゲルトシュタットって治安が悪いんでしょ。無事でよかった」
「おまえを残して死ぬわけにはいかねーよ。ほら、これは喉にいい飴玉。こっちは流行の小説。それと、ぬいぐるみもあるぞ」
「わぁ。こんなに貰っていいの?」
リーザがクマのぬいぐるみを抱き締めた。年相応のあどけない笑顔になったので、俺はホッとした。
「リーザさんのお兄さんですね」
「先生。お久しぶりです」
病室に白衣の男性が現れた。リーザの主治医である。
「これから新たな治療薬を投与します。順調にいけば、秋頃には療養所を出て、普通の暮らしを送ることができるでしょう」
「よかったな、リーザ」
「お兄ちゃんとリヒターさんのおかげだよ」
「気を遣わないでくれ。リーザさんは俺にとっても大事な妹だよ」
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはこの先もゲルトシュタットで暮らすの?」
「そうだな。リヒターと一緒にいたいから……」
正直な気持ちを伝える。
リーザは「うん、うん」とうなずいた。
「私のために故郷に帰るって言ったら、ぶっ飛ばそうかと思ってた」
「何だよ、それ。物騒だな」
「だってお兄ちゃん、私のためにいっぱい働いて、たくさん辛い思いをしてきたでしょう?」
「それほどでもねぇよ。リヒターがいてくれたから」
「ふふっ。アツアツだなぁ」
リーザは現在製作中の房飾りを見せてくれた。
「お兄ちゃん。花嫁衣装に、この房飾りを付けてね」
「いや、まだ式の日取りは決まってねぇから。結婚はおまえが故郷の村に戻って、落ち着いて暮らせるようになってからだな」
「私、頑張る。お兄ちゃんが買ってくれたお薬はすごく苦いらしいけど、我慢する」
「リーザ。おまえの苦しみを代わってやれたらいいのに……」
「平気だよ。だって私はお兄ちゃんの妹だもん! 強くならなきゃね」
気丈に振る舞うリーザを見て、リヒターが目頭を押さえる。
リヒターはリーザの細い手をぎゅっと握った。
「俺のことを兄のように思い、頼ってくれ」
「ありがとうございます。お兄ちゃんをよろしくお願いします」
「では、定刻になりましたので、面会時間は終了となります」
「分かりました」
主治医に従って、俺とリヒターは病室を出た。
◇◇◇
季節はめぐり、初秋となった。
リーザの予後は順調で、ついに山間部の療養所を出ることが決まった。
俺は転移ステーションを使って故郷の村に飛び、リーザの新生活の準備を手伝った。
リーザの新居は、小さな集合住宅である。
この先は体調を考慮しつつ、お針子仕事を請け負うらしい。
「無理すんなよ」
「うん。また療養所に逆戻りなんて嫌だから」
リーザは俺に、白いレース編みのヴェールを渡した。
「お兄ちゃんの花嫁姿、楽しみだな」
「おまえ、いつの間に……」
「幸せになってね! 私、応援してるから」
ふわりとヴェールを被せられた。
リーザの心がこもったヴェールはとても美しくて、俺には勿体無いと思った。
駅員が声を張り上げる。
俺はたくさんの荷物を抱えて、魔法陣の上に立った。
ここは転移ステーション。
魔法陣を使って、遠くへ旅立つことができる便利スポットだ。旅費はそれなりに取られるが、馬車の旅とは違って一瞬で目的地に着ける。
「忘れ物はないか、ティノ」
リヒターは非番だが、腰に剣を下げていた。転移ステーションを狙って賊が出ることもあるからな。俺もいざという時に目潰し効果があるペッパーポーションをポケットの中に入れている。
「よろしいですか。それでは、出発します!」
かくして転移の魔法が発動し、俺とリヒターは山間部へと旅立った。
◇◇◇
久しぶりに見るリーザの横顔は、以前よりも大人びていた。この山間部の療養所で、いろいろな出来事があったのだろう。俺は泣きそうになるのを堪えて、リーザに声をかけた。
「リーザ!」
「お兄ちゃん!」
「随分と待たせちまったな。薬代を納めてきたぜ」
「えっ、本当? あの、……そちらの方は?」
「俺はリヒター。ティノの婚約者だ。初めまして、リーザさん」
「こっ、婚約者!? お兄ちゃんがお世話になっております」
ぺこりとリーザが頭を下げる。
「よしてくれ。世話になっているのは俺の方だよ」
「リヒターは騎士団の仕事の傍ら、絵を描いてるんだ。その絵が売れたから、俺にモデル料が入ってさ。それで、予定よりも早く薬を買うことができたんだ」
「お兄ちゃん、ゲルトシュタットって治安が悪いんでしょ。無事でよかった」
「おまえを残して死ぬわけにはいかねーよ。ほら、これは喉にいい飴玉。こっちは流行の小説。それと、ぬいぐるみもあるぞ」
「わぁ。こんなに貰っていいの?」
リーザがクマのぬいぐるみを抱き締めた。年相応のあどけない笑顔になったので、俺はホッとした。
「リーザさんのお兄さんですね」
「先生。お久しぶりです」
病室に白衣の男性が現れた。リーザの主治医である。
「これから新たな治療薬を投与します。順調にいけば、秋頃には療養所を出て、普通の暮らしを送ることができるでしょう」
「よかったな、リーザ」
「お兄ちゃんとリヒターさんのおかげだよ」
「気を遣わないでくれ。リーザさんは俺にとっても大事な妹だよ」
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはこの先もゲルトシュタットで暮らすの?」
「そうだな。リヒターと一緒にいたいから……」
正直な気持ちを伝える。
リーザは「うん、うん」とうなずいた。
「私のために故郷に帰るって言ったら、ぶっ飛ばそうかと思ってた」
「何だよ、それ。物騒だな」
「だってお兄ちゃん、私のためにいっぱい働いて、たくさん辛い思いをしてきたでしょう?」
「それほどでもねぇよ。リヒターがいてくれたから」
「ふふっ。アツアツだなぁ」
リーザは現在製作中の房飾りを見せてくれた。
「お兄ちゃん。花嫁衣装に、この房飾りを付けてね」
「いや、まだ式の日取りは決まってねぇから。結婚はおまえが故郷の村に戻って、落ち着いて暮らせるようになってからだな」
「私、頑張る。お兄ちゃんが買ってくれたお薬はすごく苦いらしいけど、我慢する」
「リーザ。おまえの苦しみを代わってやれたらいいのに……」
「平気だよ。だって私はお兄ちゃんの妹だもん! 強くならなきゃね」
気丈に振る舞うリーザを見て、リヒターが目頭を押さえる。
リヒターはリーザの細い手をぎゅっと握った。
「俺のことを兄のように思い、頼ってくれ」
「ありがとうございます。お兄ちゃんをよろしくお願いします」
「では、定刻になりましたので、面会時間は終了となります」
「分かりました」
主治医に従って、俺とリヒターは病室を出た。
◇◇◇
季節はめぐり、初秋となった。
リーザの予後は順調で、ついに山間部の療養所を出ることが決まった。
俺は転移ステーションを使って故郷の村に飛び、リーザの新生活の準備を手伝った。
リーザの新居は、小さな集合住宅である。
この先は体調を考慮しつつ、お針子仕事を請け負うらしい。
「無理すんなよ」
「うん。また療養所に逆戻りなんて嫌だから」
リーザは俺に、白いレース編みのヴェールを渡した。
「お兄ちゃんの花嫁姿、楽しみだな」
「おまえ、いつの間に……」
「幸せになってね! 私、応援してるから」
ふわりとヴェールを被せられた。
リーザの心がこもったヴェールはとても美しくて、俺には勿体無いと思った。
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