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第四章 試練
24. あなたのためにできること
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イルギノ様の哄笑が礼拝堂に鳴り響いた。
「いい眺めだな、ゼガルドの小倅よ!」
片膝を突いて呼吸を荒くしているアレス様を、イルギノ様がうっとりとした表情で見下ろした。
「ち×ぽが硬くなって動揺しているのかな? ふははっ。いいザマだ。さあ、奥様。旦那様のアレをさすって差し上げなさい。そして、そそり立ったモノに跨ってあげるといい。もう濡れているんだろう?」
「……それ以上、私の伴侶を侮辱するな」
アレス様は聖句を唱えた。
「水の神よ、悪しき者に裁きを」
「ん? ん、がぁっ!」
氷でできた杭が現れて、イルギノ様の口を塞いだ。イルギノ様は涙目になりながら氷の杭を咥えている。
「命までは取らない。二度と私たちの前に現れるな」
「んンッ、ぎぃっ!!」
イルギノ様の体が発光した。転移石を使ったらしい。
かくして、闇の商人は消え去り、礼拝堂には俺とアレス様が取り残された。
「アレス様。いま、水を持ってきます!」
「……ダメです。フィーラン殿はこの場にいてはいけない」
アレス様が喉から掠れた声を絞り出した。
「私から逃げてください」
「でも……」
「いいから早く!」
苦しそうなアレス様を放ってはおけない。しかし、望まない形で体をつなげることは避けたい。
俺は浄化の歌を歌った。
激しく上下していたアレス様の肩の動きが、静かになっていく。
「フィーラン殿……。私が怖くはないのですか?」
「まさか。俺はどんなアレス様でも受け止めます」
「……あなたには敵いませんね」
アレス様は微笑むと、その場に倒れ込んだ。ものすごい量の汗をかいている。
「誰か! 誰か、来てくれ!」
俺は助けを呼ぶため、礼拝堂を飛び出した。
◆◆◆
従者たちが力を合わせて、アレス様を寝室へと運んだ。
アレス様は意識を失っていた。
ラット誘発剤を吸い込んでしまったアレス様に近づくことはできない。俺は廊下に立って、アレス様の回復を祈り続けた。
夜が更けていく。
寝室の中から、医師と薬師の話し声が聞こえてきた。
「解毒剤が効かない! 水晶草さえ手に入れば……」
「水晶草? 幻獣界の植物じゃないですか。誰が採って来られると言うんです?」
「先生方。俺が行って来ます!」
俺は寝室のドアをノックした。
ユニコーンを手懐けることができる俺ならば、幻獣界を探索できるのではないか?
ドアが開き、医師と薬師が廊下に出てきた。俺は医師の肩を掴んだ。
「水晶草が手に入れば、アレス様は助かるんですね?」
「理論上はそうなりますが、幻獣界を訪れるのは危険ですよ。若奥様、早まらないでください」
「大丈夫。ユニコーンが俺に味方をしてくれますよ」
「えっ」
俺は医師に、水晶草の特徴を訊ねた。
茎も葉っぱも透き通っている美しい草らしい。幻獣界の水辺に生えているとのことだった。
「では行って参ります」
「若奥様……! お待ちください!」
「俺が不在のあいだ、アレス様を頼みましたよ」
マントを身につけると、俺は屋敷の庭に出た。
夜空を白くくり抜いて、満月が輝いている。俺は冴えざえとした月光を全身に浴びた。心が浄化されていく。
幻獣界への遠征など怖くはない。
俺が一番恐れているのは、アレス様を失うことだ。
かさりと物音がした。
振り向けば、一頭のユニコーンが立っていた。俺は笑顔を浮かべて、ユニコーンに向かって手を差し出した。白くて長い顔がすり寄ってくる。
たてがみを撫でると、ユニコーンは心地よさそうに嘶いた。
「あのさ。俺を幻獣界に連れて行ってくれないか?」
ユニコーンのつぶらな瞳が俺をじっと見つめた。
「水晶草が欲しいんだ。大切な人を助けるために……」
俺が切実な思いを口にした瞬間、閃光が闇を切り裂いた。視界が白く塗り潰される。俺はまばたきを繰り返して、強い輝きが収まるのを待った。
「幻獣界に行きたいのか、人の子よ」
光の粒をまとったユニコーンが現れた。これまでに見た個体よりも遥かに大きい。金色の角は長く、先端が槍のように尖っている。
「あなたは……ユニコーンの長ですか?」
「まあそんなところだ」
「お願いします! 水晶草が生えている水辺まで案内してください! 人の命がかかっているんです!」
「汝を連れて行くのは別に構わない。しかし、人間は誘惑に弱い。金銀財宝が眠る幻獣界を訪れて、果たして平静を保っていられるかな?」
「俺の望みはただひとつ。水晶草を入手することです。他のお宝なんて興味ありません!」
夜風が吹いてきて、俺の頬を撫でた。ユニコーンの長の賢そうな目が俺を注視している。
「いろいろな処女と接してきたが、汝は随分と気持ちが強いようだ」
「俺、ふだんは地味ですけどね。やる時はやるタイプなんです」
「何がそんなに汝を駆り立てるのだ?」
「愛です」
しばし沈黙したのち、ユニコーンの長は「いいだろう」とつぶやいた。
そして、その場で身をかがめた。
「人の子よ。私の背に乗るがいい」
「ありがとうございます!」
俺はユニコーンの長の背中に跨った。視界が一気に高くなる。あと少し手を伸ばせば、満月に触れられそうだ。
「手加減はしないぞ。私の速さについて来い」
「承知しました!」
かくして俺はユニコーンの長とともに、幻獣界へと旅立った。
「いい眺めだな、ゼガルドの小倅よ!」
片膝を突いて呼吸を荒くしているアレス様を、イルギノ様がうっとりとした表情で見下ろした。
「ち×ぽが硬くなって動揺しているのかな? ふははっ。いいザマだ。さあ、奥様。旦那様のアレをさすって差し上げなさい。そして、そそり立ったモノに跨ってあげるといい。もう濡れているんだろう?」
「……それ以上、私の伴侶を侮辱するな」
アレス様は聖句を唱えた。
「水の神よ、悪しき者に裁きを」
「ん? ん、がぁっ!」
氷でできた杭が現れて、イルギノ様の口を塞いだ。イルギノ様は涙目になりながら氷の杭を咥えている。
「命までは取らない。二度と私たちの前に現れるな」
「んンッ、ぎぃっ!!」
イルギノ様の体が発光した。転移石を使ったらしい。
かくして、闇の商人は消え去り、礼拝堂には俺とアレス様が取り残された。
「アレス様。いま、水を持ってきます!」
「……ダメです。フィーラン殿はこの場にいてはいけない」
アレス様が喉から掠れた声を絞り出した。
「私から逃げてください」
「でも……」
「いいから早く!」
苦しそうなアレス様を放ってはおけない。しかし、望まない形で体をつなげることは避けたい。
俺は浄化の歌を歌った。
激しく上下していたアレス様の肩の動きが、静かになっていく。
「フィーラン殿……。私が怖くはないのですか?」
「まさか。俺はどんなアレス様でも受け止めます」
「……あなたには敵いませんね」
アレス様は微笑むと、その場に倒れ込んだ。ものすごい量の汗をかいている。
「誰か! 誰か、来てくれ!」
俺は助けを呼ぶため、礼拝堂を飛び出した。
◆◆◆
従者たちが力を合わせて、アレス様を寝室へと運んだ。
アレス様は意識を失っていた。
ラット誘発剤を吸い込んでしまったアレス様に近づくことはできない。俺は廊下に立って、アレス様の回復を祈り続けた。
夜が更けていく。
寝室の中から、医師と薬師の話し声が聞こえてきた。
「解毒剤が効かない! 水晶草さえ手に入れば……」
「水晶草? 幻獣界の植物じゃないですか。誰が採って来られると言うんです?」
「先生方。俺が行って来ます!」
俺は寝室のドアをノックした。
ユニコーンを手懐けることができる俺ならば、幻獣界を探索できるのではないか?
ドアが開き、医師と薬師が廊下に出てきた。俺は医師の肩を掴んだ。
「水晶草が手に入れば、アレス様は助かるんですね?」
「理論上はそうなりますが、幻獣界を訪れるのは危険ですよ。若奥様、早まらないでください」
「大丈夫。ユニコーンが俺に味方をしてくれますよ」
「えっ」
俺は医師に、水晶草の特徴を訊ねた。
茎も葉っぱも透き通っている美しい草らしい。幻獣界の水辺に生えているとのことだった。
「では行って参ります」
「若奥様……! お待ちください!」
「俺が不在のあいだ、アレス様を頼みましたよ」
マントを身につけると、俺は屋敷の庭に出た。
夜空を白くくり抜いて、満月が輝いている。俺は冴えざえとした月光を全身に浴びた。心が浄化されていく。
幻獣界への遠征など怖くはない。
俺が一番恐れているのは、アレス様を失うことだ。
かさりと物音がした。
振り向けば、一頭のユニコーンが立っていた。俺は笑顔を浮かべて、ユニコーンに向かって手を差し出した。白くて長い顔がすり寄ってくる。
たてがみを撫でると、ユニコーンは心地よさそうに嘶いた。
「あのさ。俺を幻獣界に連れて行ってくれないか?」
ユニコーンのつぶらな瞳が俺をじっと見つめた。
「水晶草が欲しいんだ。大切な人を助けるために……」
俺が切実な思いを口にした瞬間、閃光が闇を切り裂いた。視界が白く塗り潰される。俺はまばたきを繰り返して、強い輝きが収まるのを待った。
「幻獣界に行きたいのか、人の子よ」
光の粒をまとったユニコーンが現れた。これまでに見た個体よりも遥かに大きい。金色の角は長く、先端が槍のように尖っている。
「あなたは……ユニコーンの長ですか?」
「まあそんなところだ」
「お願いします! 水晶草が生えている水辺まで案内してください! 人の命がかかっているんです!」
「汝を連れて行くのは別に構わない。しかし、人間は誘惑に弱い。金銀財宝が眠る幻獣界を訪れて、果たして平静を保っていられるかな?」
「俺の望みはただひとつ。水晶草を入手することです。他のお宝なんて興味ありません!」
夜風が吹いてきて、俺の頬を撫でた。ユニコーンの長の賢そうな目が俺を注視している。
「いろいろな処女と接してきたが、汝は随分と気持ちが強いようだ」
「俺、ふだんは地味ですけどね。やる時はやるタイプなんです」
「何がそんなに汝を駆り立てるのだ?」
「愛です」
しばし沈黙したのち、ユニコーンの長は「いいだろう」とつぶやいた。
そして、その場で身をかがめた。
「人の子よ。私の背に乗るがいい」
「ありがとうございます!」
俺はユニコーンの長の背中に跨った。視界が一気に高くなる。あと少し手を伸ばせば、満月に触れられそうだ。
「手加減はしないぞ。私の速さについて来い」
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かくして俺はユニコーンの長とともに、幻獣界へと旅立った。
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