【完結】新婚のオメガですが、旦那様が処女厨のため抱いてもらえません!

古井重箱

文字の大きさ
25 / 47
第四章 試練

25. 愛の力

しおりを挟む
 幻獣界は真夏のように明るかった。
 俺はユニコーンのおさの背に乗りながら、流れていく景色を眺めた。宝石でできた花が咲き乱れ、まばゆい光を放っている。木々の枝葉は金色だった。

「どうだ、この宝の山は。人間界に持ち帰れば、汝は一生遊んで暮らせるぞ」
「俺が欲しいのは水晶草すいしょうそうだけです」
「無欲だな」

 ユニコーンの長が蹄の音を高らかに鳴らした。
 乗馬は好きだけれども、このハイスピードについて行くのはなかなか大変である。
 金銀財宝に彩られたエリアを過ぎると、見晴らしのいい野原に出た。白亜の城が草地を見守るように建っている。
 ユニコーンの長が白亜の城に近づいていくと、どこからともなく薄布をまとった男女が現れた。見目麗しい男女はあろうことか、草の上で交わり始めた。

「人の子よ。混ざりたいか?」
「まさか!」

 美女の乳房にむしゃぶりついている骸骨を見つけて、俺はなんとも言えない気持ちになった。

「あの骸骨、元は人間なんでしょう?」
「そうだ。汝と同様に水晶草を求めに来たが、当初の目的を忘れて色に耽ってしまったのだ」
「……一生あのままなんですか」
「本人の欲望が満たされるまではな」

 ユニコーンの長が地面を蹴って、跳躍した。
 俺はその後も、さまざまな景色を見た。血の池に浸かりながら殺し合いを続ける人々。誰かを罵りながら炎の柱へと変化した人々。まるで人間のごうの博覧会のようだった。

「どうだ、幻獣界の眺めは」
「……身が引き締まりますね。あそこに堕ちてはいけない」
「なーに、いい子ぶってるんだ! テメェだって欲があってここに来たんだろう?」
「そうよ。私たちと何が違うというの」

 もはや人間の姿をとどめていない、手足の塊が近づいて来た。にゅっと腕が伸びてきて、俺をユニコーンの長の背中から引きずり落とそうとする。俺はさすがに恐怖を覚えた。
 落馬したら、この亡者たちと同じように幻獣界に囚われることになる。アレス様と会えなくなる? そんなのは嫌だ!
 俺は声を張り上げて、聖歌を歌った。
 亡者たちが一斉にうめき出す。
 いいぞ。効いている。俺はまるで舞台に立ったかのように、朗々と歌声を響かせた。

「人の子よ。その勇気の源は何なのだ?」
「愛です」
「……迷いなき答えだな。汝の志、しかと受け取った」

 ユニコーンの長は亡者を蹴散らすと、草原を駆け抜けた。
 前方に蛇行する川が見えてきた。
 俺は喜びを爆発させた。

「もうすぐ水晶草が手に入るんですね!」
「そうだな。汝が最後の試練に打ち勝つことができたならば……」

 水辺で、ユニコーンの長が立ち止まった。
 俺は彼の背中から降りた。幻獣界の地面はふわふわしていて、まるで雲の上にいるかのようだった。
 
「あの、水晶草はどこですか?」

 ユニコーンの長は俺の質問には答えなかった。光の粒が四方から集まってきて、ユニコーンの長の大きな体を包み込む。まぶしさのあまり、俺は目を閉じた。

「フィーラン殿……」

 呼びかけられて、俺は目を見開いた。
 アレス様がいる。どうして幻獣界に!? 俺の頭の中は疑問符でいっぱいになった。

「あなたに触れたい。あなたと溶け合いたい」

 甘いささやきが俺の耳元に注がれた。いつの間にかアレス様は距離を詰めていて、俺の腰を抱いている。
 いたずらな指先が俺の臀部を撫でた。
 
「さあ、服を脱いで。秘密のつぼみを見せてくれませんか? 私たちは夫夫ふうふなのだからいいでしょう?」

 アレス様が艶かしい微笑みを浮かべる。熱っぽい視線が俺の体に注がれる。
 俺は棒立ちになった。 
 アレス様が俺を求めている? まさか。あれほどまでにセックスを忌避していたのに? ありえない。
 これは幻想だ。
 俺の欲望がこしらえた、偽物のアレス様だ。だってアレス様はいま、ラット誘発剤の毒にあてられて、意識を失っている。

「ユニコーンの長よ。なかなかお芝居が上手ですね。でも俺は騙されませんよ。あなたは本物のアレス様じゃない。俺のアレス様はね、処女へのこだわりがとんでもなく強いんですよ! 軽々しく誘うような真似は、絶対にしない!」

 目の前で光の粒が弾けた。
 アレス様の幻影は消えて、代わりにユニコーンの長の大きな体が現れた。ユニコーンの長は金色の角を誇るように、顔を上げた。

「人の子よ、よくぞ欲望に耐えた」

 天頂から光が降り注いで、水辺を照らした。俺は目を凝らして、水晶草を探した。
 あった!
 濃い緑色の草に隠れるようにして、透明な葉っぱが生えている。

「採取してもよろしいですか?」
「ああ。汝が勝ち得たものだ」

 俺はその場にしゃがみ込んで、水晶草を摘んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ
BL
「晴にいさま、大好き」 アルファばかりのエリート一家の四人兄弟の末っ子に生まれた 亜季。 思春期の第二性検査を受けるまで、誰もがアルファだと信じて疑っていなかったが、結果は「オメガ」だった。確かに他の息子たちに比べて、身体も小さく、性格もおっとりしていた末っ子オメガ。親戚を含めてアルファばかりで、オメガがいないゆえに扱いがわからない。 だが、はじめは家族の誰一人として末っ子がオメガであることを疎むことなく可愛がっていた。 ある日、転機が訪れる── 末っ子オメガに発情期(ヒート)が訪れ、事故が起こってしまう。それを理由に亜季はひとり家族と離れて暮らすことになった。 そして末っ子は──男娼になって……長男 晴臣と再会する。 すれ違いオメガバース。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

処理中です...