【完結】新婚のオメガですが、旦那様が処女厨のため抱いてもらえません!

古井重箱

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第七章 愛の歌

43. 甘い戯れ

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 諸々の準備が整った。
 俺はセレンディア教授とユイットが見守るなか、転移石を使ってゼガルド領へと旅立った。
 転移石から放たれたまばゆい光が俺を取り囲む。
 やがて、転移石の輝きが収まった。
 俺の目の前には、ガルヴァーン家のお屋敷がそびえ立っていた。質実剛健という言葉を具現化したような、頑丈そうで質素なつくりの建物だ。
 アレス様との思い出が詰まった場所を訪れたため、俺の胸は熱くなった。
 離縁を言い渡された時は、まさか再びゼガルド領に来るとは思わなかった。
 
「フィーラン殿! お待ちしておりました!」

 庭先にいた俺の元に、アレス様が駆け寄ってきた。
 アレス様は俺を抱き上げると、俺の頬にキスをした。

「フィーランさん、お久しぶりね」
「息災だったか?」

 アレス様のご両親──辺境伯夫妻も迎えに来てくれた。俺が頭を下げようとすると、辺境伯に制止された。

「謝罪をしなければいけないのは、私たちの方だ。あの時、アレスを強く説得していれば、離縁などという由々しき事態にはならなかった」
「そうですわ。フィーランさん、本当にごめんなさい」
「俺も至らないところだらけでしたから」
「いや。あの離縁宣言はアレスのつまらないプライドから出たものだ。きみはもっと怒ってもいい」

 辺境伯が腕組みをする。
 アレス様の眉尻が困ったように下がった。

「父上のおっしゃるとおりです。フィーラン殿、私の頬を張ってください」
「えっ? そんな真似、したくありませんよ。」
「フィーランさん。仲直りの儀式だと思って」
「……分かりました」

 俺はアレス様の頬を手のひらでぺちんと叩いた。

「これで離縁の件は解決ということでいいですね? アレス様」
「私を恨んではいないのですか?」
「確かに別れを告げられた時は傷ついたし、悲しかったけど、王立音楽学院で仕事と仲間に出会えましたからね。全部がマイナスだったというわけじゃありません」
「……あなたはお強いですね」

 アレス様が俺の手を握る。スキンシップを求められたことが嬉しくて、俺はアレス様の長い指にみずからの指を絡めた。
 辺境伯夫妻はいちゃつく俺たちを目を細めて見守っている。

「再婚の件は、フィーランさんのご実家にも伝えておきました」
「そうだ……! 家族への報告がまだでした」

 俺は荷物の中から、双子の兄レナートとつながっている交音器こうおんきを取り出した。しばし待つと、レナートから応答があった。

「フィーラン? アレス様と再婚するんだって?」
「うん。俺からの報告が遅れてごめん」
「気にするな。忙しかったんだろ? それにしてもよかったな。みんなホッとしてるよ」
「心配かけてごめん」
「おまえが幸せならそれでいい」
「ありがとう」

 レナートとの通話を終えた俺は、ガルヴァーンのお屋敷の中に案内された。
 俺はアレス様と共に、寝室に入った。
 荷物を置いて、室内を見渡す。最初の結婚当時と内装が変わっていない。棚の目立つところに、婚約時代に俺が贈った琥珀のペンダントが飾られていた。

「会えなくなったあいだ、このペンダントを眺めてあなたの姿を思い描いていました」
「俺も、アレス様から頂戴したゼガルド織のストールをアレス様だと思って抱きしめたりしていました」
「私たちは遠回りをしてしまった。でも、またやり直せますよね?」
「もちろんです」

 俺たちはキスを交わした。
 アレス様がベッドに俺を押し倒す。感じやすい首すじにキスをされて、俺は甘い声を上げた。

「まだ日が高いですよ……」
「そうですね。それに、歌劇の制作を控えているあなたを妊娠させるわけにはいきません」
「にっ、妊娠……。そうですよね。俺たち、アルファとオメガだから……」
「でも、挿入に至らない戯れならば、致してもいいでしょう?」
「あっ」

 耳たぶを甘噛みされる。
 俺はアレス様のいたずらな唇に人差し指を押し当てた。

「アレス様ったら。あんまり悪さをするとこうですよ?」
「ふふっ。叱られると嬉しくなって、もっと意地悪をしたくなる……」

 アレス様の整った顔が近づいてきた。濃厚なキスで吐息すら奪われる。

「んっ……、ふ、……っ」

 心地よさに溺れて、目がとろんとなった俺をアレス様が抱き上げた。

「名残惜しいですが、このぐらいでやめておきましょう。フィーラン殿は今日から歌劇の制作に着手されるんですよね?」
「はい。王妃様をお待たせしたくないので」
「音楽室にご案内します」
「あれっ? こちらのお屋敷にそんな部屋、ありましたっけ?」
「あなたのためにご用意しました」

 俺はアレス様に連れられて、お屋敷の廊下を歩き出した。

「こちらです」

 アレス様が一階の奥にある部屋の扉を開けた。

「わぁっ!」

 室内には鍵盤楽器が置かれていた。書き物机もある。

「俺のためにわざわざ準備してくださったのですか?」
「私にできるのはこれぐらいですから」
「ありがとうございます」

 歌劇制作の環境は整った。
 俺はアレス様と打ち合わせを始めた。

「歌劇のメインテーマですが、勇壮なメロディと繊細なメロディを取り入れたいと思っています。いかがですか?」
「いいですね。作品のイメージに合うと思います」

 よし、ノッてきた。
 俺はメモを取りながら、アレス様との会話を続けた。


◆◆◆


 ゼガルド領に戻って来てから、三週間が経った。
 俺はピンチに陥っていた。
 書き上げた曲がいずれも凡庸に感じられるのだ。心が全くときめかない。
 おまけに、歌劇だから場面ごとに違った雰囲気の曲を作らないといけないのだが、どれも似通っている気がする。
 俺ってもしかして、引き出しが少ないのかな?
 でも、いまさら依頼を拒むわけにはいかない。アレス様をはじめ、王妃様もジョナス王子も俺の歌劇を楽しみにしてくれている。
 鍵盤楽器の前に座ったまま動けずにいると、ドアがノックされた。

「どうぞ」
「フィーラン殿。進捗はいかがですか?」
「停滞してます……。書きたいものと仕上がったものの落差がひどくて。楽譜を眺めるのが苦痛です」
「よし。では、あなたをこの部屋からさらうとしましょう」
「えっ」
「気分転換に私と出かけましょう」
「アレス様……」

 俺の旦那様は優しいなぁ。
 書きかけの楽譜を書き物机の上にまとめると、俺はアレス様と共に部屋を出た。
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