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第七章 愛の歌
45. 情熱を分かち合って
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羽毛のような雪が舞い散る初冬、歌劇『百年の恋歌』の初稿が完成した。
俺は楽譜の束を抱きしめた。
この作品は、俺とアレス様の愛の結晶だ。アレス様のお力添えなくしては、成し遂げることができなかった。
一刻も早く、初稿ができたとアレス様に伝えたい。
でもアレス様は本日、砦の視察に行っているので帰りが遅い。
俺は今夜は寝ずに起きていて、アレス様の到着を待つことに決めた。
音楽室を見渡す。
壁際にしつらえられた棚には、俺が作曲に行き詰まった時、気分転換になるためのグッズが置かれている。組み木のパズルや、振るだけでいい音がするハンドベルなど、アレス様は街に出かけるたびに贈り物をくれた。
物心ともに愛されて、俺は本当に幸せ者だ。
◆◆◆
夜半に、アレス様が夫夫の寝室に姿を現した。
「フィーラン殿? こんな遅くまで起きていたのですか。先に休んでもらって構わなかったのに」
「どうしてもアレス様にお伝えしたいことがありまして」
俺は出来上がった初稿の束を見せた。
アレス様が目を見開く。
「もしや、それは……」
「ついに初稿が完成しました!」
「フィーラン殿……! おめでとうございます!」
俺たちは手と手を合わせて、喜びを分かち合った。
「難産でした。永遠に完成しないかと思いましたよ」
「私は信じていましたよ。あなたならば絶対に成し遂げるだろうと」
「アレス様。明日以降で、空いている時間はありますか? 通しで聴いてもらいたいのですが」
「明後日の午後ならば大丈夫です」
「では、お願いします」
アレス様は初稿の束ごと、俺の体を抱きしめた。
「あなたを誇りに思います」
「そんな。俺はただ、やるべきことをやっただけです」
「フィーラン殿。愛しております」
「俺だって、アレス様のことが大好きです」
高まる熱を抑えるすべを持たない俺たちは、ベッドになだれ込んだ。
◆◆◆
約束の時間がやって来た。
音楽室で、俺はアレス様に歌劇の曲を披露した。鍵盤楽器を用いて、弾き語りを行う。
運命に抗うヒロインの強さ。
ヒロインを守るヒーローの献身。
俺が「百年の恋歌」という作品から受け取った情熱を音楽で表現する。一音一音、おろそかにはできない。
演奏開始から随分と時間が経った。
俺はフィナーレを歌い上げた。
鍵盤楽器が鳴り止んだ瞬間、音楽室が静寂に包まれた。
アレス様はじっと椅子に座ったままである。動く気配がない。もしかして、とんでもない駄作を聴かせてしまったのだろうか?
感想を尋ねようと口を開きかけたところで、アレス様が拍手をした。
「……素晴らしい! どんな賞賛の言葉を捧げても足りません。フィーラン殿、私の小説に命を吹き込んでくださり、ありがとうございます」
「お礼を言うのは俺の方ですよ! ネイク──アレス様の作品と出会ったことによって、自分の新たな可能性に気づくことができました」
俺とアレス様は指先を絡め合った。
そして、唇を重ねた。
窓の外では雪がちらついている。しかし、アレス様の懐に抱きとめられた俺は寒さを感じることはなかった。
「改善すべき点はありますか?」
「そうですね、しいて言えば中盤、ヒロインとヒーローが離ればなれになるシーンの楽曲はもっと悲壮感があってもいいかもしれません」
「分かりました。直すようにします。他にも気になったところを挙げてください!」
俺が書き物机に座ると、アレス様が苦笑した。
「私の夫は仕事熱心ですね。そういうところが好きなのですが、今日くらい甘えてもいいのではないですか?」
「王妃様とジョナス王子をお待たせしたくないんです」
「分かりました。では、改稿に協力させていただきます」
もっと強調すべき箇所と省略してもいい部分を指摘された。
アレス様はさすが原作者だけあって、どうすれば『百年の恋歌』という物語の魅力を伝えられるのか、よく考えていた。
俺はアレス様からの助言をメモしていった。改稿ポイントを書き記したメモが次から次へと増えていく。
「フィーラン殿。少し休みませんか」
「いま、とても集中してるので。やりきりたいです」
「承知しました」
アレス様はすべての曲を監修してくれた。
俺がペンを置いた時、窓の外は真っ暗になっていた。
「アレス様。アドバイスありがとうございます」
「こちらこそ、情熱を分けてくださり、ありがとうございます。今夜は筆が進みそうです」
「新作を書いておられるんですよね」
「そうです。愚かなアルファが健気なオメガに救われる話です。オメガのモデルは言わずとも分かりますよね?」
「えっ。誰ですか?」
「ふふっ。本当に純真な方だ」
アレス様は俺のおでこにキスをすると、いたずらっぽく笑った。
俺は楽譜の束を抱きしめた。
この作品は、俺とアレス様の愛の結晶だ。アレス様のお力添えなくしては、成し遂げることができなかった。
一刻も早く、初稿ができたとアレス様に伝えたい。
でもアレス様は本日、砦の視察に行っているので帰りが遅い。
俺は今夜は寝ずに起きていて、アレス様の到着を待つことに決めた。
音楽室を見渡す。
壁際にしつらえられた棚には、俺が作曲に行き詰まった時、気分転換になるためのグッズが置かれている。組み木のパズルや、振るだけでいい音がするハンドベルなど、アレス様は街に出かけるたびに贈り物をくれた。
物心ともに愛されて、俺は本当に幸せ者だ。
◆◆◆
夜半に、アレス様が夫夫の寝室に姿を現した。
「フィーラン殿? こんな遅くまで起きていたのですか。先に休んでもらって構わなかったのに」
「どうしてもアレス様にお伝えしたいことがありまして」
俺は出来上がった初稿の束を見せた。
アレス様が目を見開く。
「もしや、それは……」
「ついに初稿が完成しました!」
「フィーラン殿……! おめでとうございます!」
俺たちは手と手を合わせて、喜びを分かち合った。
「難産でした。永遠に完成しないかと思いましたよ」
「私は信じていましたよ。あなたならば絶対に成し遂げるだろうと」
「アレス様。明日以降で、空いている時間はありますか? 通しで聴いてもらいたいのですが」
「明後日の午後ならば大丈夫です」
「では、お願いします」
アレス様は初稿の束ごと、俺の体を抱きしめた。
「あなたを誇りに思います」
「そんな。俺はただ、やるべきことをやっただけです」
「フィーラン殿。愛しております」
「俺だって、アレス様のことが大好きです」
高まる熱を抑えるすべを持たない俺たちは、ベッドになだれ込んだ。
◆◆◆
約束の時間がやって来た。
音楽室で、俺はアレス様に歌劇の曲を披露した。鍵盤楽器を用いて、弾き語りを行う。
運命に抗うヒロインの強さ。
ヒロインを守るヒーローの献身。
俺が「百年の恋歌」という作品から受け取った情熱を音楽で表現する。一音一音、おろそかにはできない。
演奏開始から随分と時間が経った。
俺はフィナーレを歌い上げた。
鍵盤楽器が鳴り止んだ瞬間、音楽室が静寂に包まれた。
アレス様はじっと椅子に座ったままである。動く気配がない。もしかして、とんでもない駄作を聴かせてしまったのだろうか?
感想を尋ねようと口を開きかけたところで、アレス様が拍手をした。
「……素晴らしい! どんな賞賛の言葉を捧げても足りません。フィーラン殿、私の小説に命を吹き込んでくださり、ありがとうございます」
「お礼を言うのは俺の方ですよ! ネイク──アレス様の作品と出会ったことによって、自分の新たな可能性に気づくことができました」
俺とアレス様は指先を絡め合った。
そして、唇を重ねた。
窓の外では雪がちらついている。しかし、アレス様の懐に抱きとめられた俺は寒さを感じることはなかった。
「改善すべき点はありますか?」
「そうですね、しいて言えば中盤、ヒロインとヒーローが離ればなれになるシーンの楽曲はもっと悲壮感があってもいいかもしれません」
「分かりました。直すようにします。他にも気になったところを挙げてください!」
俺が書き物机に座ると、アレス様が苦笑した。
「私の夫は仕事熱心ですね。そういうところが好きなのですが、今日くらい甘えてもいいのではないですか?」
「王妃様とジョナス王子をお待たせしたくないんです」
「分かりました。では、改稿に協力させていただきます」
もっと強調すべき箇所と省略してもいい部分を指摘された。
アレス様はさすが原作者だけあって、どうすれば『百年の恋歌』という物語の魅力を伝えられるのか、よく考えていた。
俺はアレス様からの助言をメモしていった。改稿ポイントを書き記したメモが次から次へと増えていく。
「フィーラン殿。少し休みませんか」
「いま、とても集中してるので。やりきりたいです」
「承知しました」
アレス様はすべての曲を監修してくれた。
俺がペンを置いた時、窓の外は真っ暗になっていた。
「アレス様。アドバイスありがとうございます」
「こちらこそ、情熱を分けてくださり、ありがとうございます。今夜は筆が進みそうです」
「新作を書いておられるんですよね」
「そうです。愚かなアルファが健気なオメガに救われる話です。オメガのモデルは言わずとも分かりますよね?」
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