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番外編 町でイノシシと戦った公爵令嬢のお話
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「おーほっほほほ」
私とエルは何となく黙ってしまい、しばし沈黙が生まれた。この静寂を空気も読まずにぶち破ったのは、聞き覚えのある女性の高笑い。
うーん、この笑い声。誰かわかるような、わかりたくないような。
……このまま素知らぬ振りして去っちゃおうかな。
「ミュリア様、お覚悟を!」
よし、逃げようと決めた途端、名前を高らかに呼ばれ、退路を断たれてしまった。しぶしぶ振り返り、少し離れた場所にいた女性の姿をチラッと見る。
やっぱりラリア様よね。うん、知ってた。
ラリア・ミド伯爵令嬢。
殿下の婚約者の私に嫌がらせを仕掛けてくること大小合わせて数百回。
……暇なのかな?
この嫌がらせというものが非常に面倒くさい。どれくらい面倒くさいかというと、このドーナツに掛かっているチョコスプレーの粒を数えるくらい面倒くさい。
「婚約解消すれば、この最終武器は出しませんわ。さぁ、婚約解消すると約束しなさい」
いい迷惑である。
「最終武器……ですか? それは困りましたねぇ」
最後に残っていた一口分のドーナツをはむっと口に含み、もぐもぐ味わう。ラリア様は、まぁ!と驚きの声を上げ、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「立ち食いなんて、お行儀が悪いですわよ!!」
「…………ごめんなさい」
まさか行儀の悪さを指摘されるとは思わず、えっ!?そっち? と驚きながらも咄嗟に謝ってしまった私。エルが隣りで、そうだ!そうだ!と拍手喝采し、ラリア様の肩を持ち始めた。
エルの裏切り者め! たしかにお行儀は悪かった。それは認める……認めるけれど、町中で高笑いして喧嘩ふっかけてくる人に言われたくないんだけどなぁ。
ラリア様ってなんかズレてるのよね。
「本当に最終武器を放ちますわよ!」
イライラした様子で声を張り上げるラリア様。
「何度も言ってますけど、婚約解消の件は殿下におっしゃってくださいな。私じゃどうにもならないのです。……そりゃあ、私だって解消して欲しいと思ってるし…………」
王家に関わる内容である以上、人に聞かれてはまずいのはわかっていても、つい口の中でもそもそと文句が出てしまう。
「後悔しても遅いですわ!」
人の話はちゃんと聞けぇ!
勝手に話し、勝手に解釈し、勝手に怒る。毎度のことながら勘弁して欲しい。
私の反応がイマイチで腹立たしいのかハンカチの端を噛み締めながらラリア様は地団駄を踏み、近くに控えていた護衛騎士に「やっておしまい!」と命令を下した。絵に描いたような悔しがりっぷりに思わず感心してしまう。
ただ、いったい何をやるつもりなのか皆目見当がつかない。どうしたもんか……と思考を巡らせているとラリア様の護衛騎士が頑丈そうな大きい鉄箱を運んできた。
なにあれ? …………檻?
護衛騎士が私に向かって、すみません……と申し訳なさそうに小さく頭を下げ、檻の扉を開ける。その檻から顔を出したのは茶色い…………
イノシシ!?
私とエルは何となく黙ってしまい、しばし沈黙が生まれた。この静寂を空気も読まずにぶち破ったのは、聞き覚えのある女性の高笑い。
うーん、この笑い声。誰かわかるような、わかりたくないような。
……このまま素知らぬ振りして去っちゃおうかな。
「ミュリア様、お覚悟を!」
よし、逃げようと決めた途端、名前を高らかに呼ばれ、退路を断たれてしまった。しぶしぶ振り返り、少し離れた場所にいた女性の姿をチラッと見る。
やっぱりラリア様よね。うん、知ってた。
ラリア・ミド伯爵令嬢。
殿下の婚約者の私に嫌がらせを仕掛けてくること大小合わせて数百回。
……暇なのかな?
この嫌がらせというものが非常に面倒くさい。どれくらい面倒くさいかというと、このドーナツに掛かっているチョコスプレーの粒を数えるくらい面倒くさい。
「婚約解消すれば、この最終武器は出しませんわ。さぁ、婚約解消すると約束しなさい」
いい迷惑である。
「最終武器……ですか? それは困りましたねぇ」
最後に残っていた一口分のドーナツをはむっと口に含み、もぐもぐ味わう。ラリア様は、まぁ!と驚きの声を上げ、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「立ち食いなんて、お行儀が悪いですわよ!!」
「…………ごめんなさい」
まさか行儀の悪さを指摘されるとは思わず、えっ!?そっち? と驚きながらも咄嗟に謝ってしまった私。エルが隣りで、そうだ!そうだ!と拍手喝采し、ラリア様の肩を持ち始めた。
エルの裏切り者め! たしかにお行儀は悪かった。それは認める……認めるけれど、町中で高笑いして喧嘩ふっかけてくる人に言われたくないんだけどなぁ。
ラリア様ってなんかズレてるのよね。
「本当に最終武器を放ちますわよ!」
イライラした様子で声を張り上げるラリア様。
「何度も言ってますけど、婚約解消の件は殿下におっしゃってくださいな。私じゃどうにもならないのです。……そりゃあ、私だって解消して欲しいと思ってるし…………」
王家に関わる内容である以上、人に聞かれてはまずいのはわかっていても、つい口の中でもそもそと文句が出てしまう。
「後悔しても遅いですわ!」
人の話はちゃんと聞けぇ!
勝手に話し、勝手に解釈し、勝手に怒る。毎度のことながら勘弁して欲しい。
私の反応がイマイチで腹立たしいのかハンカチの端を噛み締めながらラリア様は地団駄を踏み、近くに控えていた護衛騎士に「やっておしまい!」と命令を下した。絵に描いたような悔しがりっぷりに思わず感心してしまう。
ただ、いったい何をやるつもりなのか皆目見当がつかない。どうしたもんか……と思考を巡らせているとラリア様の護衛騎士が頑丈そうな大きい鉄箱を運んできた。
なにあれ? …………檻?
護衛騎士が私に向かって、すみません……と申し訳なさそうに小さく頭を下げ、檻の扉を開ける。その檻から顔を出したのは茶色い…………
イノシシ!?
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