25 / 44
番外編 町でイノシシと戦った公爵令嬢のお話
4
「おーほっほほほ」
私とエルは何となく黙ってしまい、しばし沈黙が生まれた。この静寂を空気も読まずにぶち破ったのは、聞き覚えのある女性の高笑い。
うーん、この笑い声。誰かわかるような、わかりたくないような。
……このまま素知らぬ振りして去っちゃおうかな。
「ミュリア様、お覚悟を!」
よし、逃げようと決めた途端、名前を高らかに呼ばれ、退路を断たれてしまった。しぶしぶ振り返り、少し離れた場所にいた女性の姿をチラッと見る。
やっぱりラリア様よね。うん、知ってた。
ラリア・ミド伯爵令嬢。
殿下の婚約者の私に嫌がらせを仕掛けてくること大小合わせて数百回。
……暇なのかな?
この嫌がらせというものが非常に面倒くさい。どれくらい面倒くさいかというと、このドーナツに掛かっているチョコスプレーの粒を数えるくらい面倒くさい。
「婚約解消すれば、この最終武器は出しませんわ。さぁ、婚約解消すると約束しなさい」
いい迷惑である。
「最終武器……ですか? それは困りましたねぇ」
最後に残っていた一口分のドーナツをはむっと口に含み、もぐもぐ味わう。ラリア様は、まぁ!と驚きの声を上げ、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「立ち食いなんて、お行儀が悪いですわよ!!」
「…………ごめんなさい」
まさか行儀の悪さを指摘されるとは思わず、えっ!?そっち? と驚きながらも咄嗟に謝ってしまった私。エルが隣りで、そうだ!そうだ!と拍手喝采し、ラリア様の肩を持ち始めた。
エルの裏切り者め! たしかにお行儀は悪かった。それは認める……認めるけれど、町中で高笑いして喧嘩ふっかけてくる人に言われたくないんだけどなぁ。
ラリア様ってなんかズレてるのよね。
「本当に最終武器を放ちますわよ!」
イライラした様子で声を張り上げるラリア様。
「何度も言ってますけど、婚約解消の件は殿下におっしゃってくださいな。私じゃどうにもならないのです。……そりゃあ、私だって解消して欲しいと思ってるし…………」
王家に関わる内容である以上、人に聞かれてはまずいのはわかっていても、つい口の中でもそもそと文句が出てしまう。
「後悔しても遅いですわ!」
人の話はちゃんと聞けぇ!
勝手に話し、勝手に解釈し、勝手に怒る。毎度のことながら勘弁して欲しい。
私の反応がイマイチで腹立たしいのかハンカチの端を噛み締めながらラリア様は地団駄を踏み、近くに控えていた護衛騎士に「やっておしまい!」と命令を下した。絵に描いたような悔しがりっぷりに思わず感心してしまう。
ただ、いったい何をやるつもりなのか皆目見当がつかない。どうしたもんか……と思考を巡らせているとラリア様の護衛騎士が頑丈そうな大きい鉄箱を運んできた。
なにあれ? …………檻?
護衛騎士が私に向かって、すみません……と申し訳なさそうに小さく頭を下げ、檻の扉を開ける。その檻から顔を出したのは茶色い…………
イノシシ!?
私とエルは何となく黙ってしまい、しばし沈黙が生まれた。この静寂を空気も読まずにぶち破ったのは、聞き覚えのある女性の高笑い。
うーん、この笑い声。誰かわかるような、わかりたくないような。
……このまま素知らぬ振りして去っちゃおうかな。
「ミュリア様、お覚悟を!」
よし、逃げようと決めた途端、名前を高らかに呼ばれ、退路を断たれてしまった。しぶしぶ振り返り、少し離れた場所にいた女性の姿をチラッと見る。
やっぱりラリア様よね。うん、知ってた。
ラリア・ミド伯爵令嬢。
殿下の婚約者の私に嫌がらせを仕掛けてくること大小合わせて数百回。
……暇なのかな?
この嫌がらせというものが非常に面倒くさい。どれくらい面倒くさいかというと、このドーナツに掛かっているチョコスプレーの粒を数えるくらい面倒くさい。
「婚約解消すれば、この最終武器は出しませんわ。さぁ、婚約解消すると約束しなさい」
いい迷惑である。
「最終武器……ですか? それは困りましたねぇ」
最後に残っていた一口分のドーナツをはむっと口に含み、もぐもぐ味わう。ラリア様は、まぁ!と驚きの声を上げ、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「立ち食いなんて、お行儀が悪いですわよ!!」
「…………ごめんなさい」
まさか行儀の悪さを指摘されるとは思わず、えっ!?そっち? と驚きながらも咄嗟に謝ってしまった私。エルが隣りで、そうだ!そうだ!と拍手喝采し、ラリア様の肩を持ち始めた。
エルの裏切り者め! たしかにお行儀は悪かった。それは認める……認めるけれど、町中で高笑いして喧嘩ふっかけてくる人に言われたくないんだけどなぁ。
ラリア様ってなんかズレてるのよね。
「本当に最終武器を放ちますわよ!」
イライラした様子で声を張り上げるラリア様。
「何度も言ってますけど、婚約解消の件は殿下におっしゃってくださいな。私じゃどうにもならないのです。……そりゃあ、私だって解消して欲しいと思ってるし…………」
王家に関わる内容である以上、人に聞かれてはまずいのはわかっていても、つい口の中でもそもそと文句が出てしまう。
「後悔しても遅いですわ!」
人の話はちゃんと聞けぇ!
勝手に話し、勝手に解釈し、勝手に怒る。毎度のことながら勘弁して欲しい。
私の反応がイマイチで腹立たしいのかハンカチの端を噛み締めながらラリア様は地団駄を踏み、近くに控えていた護衛騎士に「やっておしまい!」と命令を下した。絵に描いたような悔しがりっぷりに思わず感心してしまう。
ただ、いったい何をやるつもりなのか皆目見当がつかない。どうしたもんか……と思考を巡らせているとラリア様の護衛騎士が頑丈そうな大きい鉄箱を運んできた。
なにあれ? …………檻?
護衛騎士が私に向かって、すみません……と申し訳なさそうに小さく頭を下げ、檻の扉を開ける。その檻から顔を出したのは茶色い…………
イノシシ!?
あなたにおすすめの小説
「呪いの令嬢」と呼ばれて婚約破棄されたので、本当に呪わせて頂きます 〜呪い?いいえ、神の祝福です〜
霧原いと
ファンタジー
公爵令嬢エレナは「呪いの令嬢」と呼ばれ、王太子アルフォンスから婚約破棄される。
さらに偽聖女セイラや実の両親からも罵倒され、舞踏会の場で完全に断罪されてしまう。
しかしエレナには秘密があった。
それは神から与えられた“因果応報”の加護。
これまで必死に抑えていたその力を、ついに解放することにした。
「では、本当に呪わせて頂きますね」
その瞬間、王太子も偽聖女も公爵家も、罪の報いを受けることになる――。
※この作品は他サイトさんにも投稿させて頂きます
「虫に話しかけてるお前が気持ち悪い」と追放された令嬢——領地の蜂蜜が消え、薬も蝋燭も作れなくなった
歩人
ファンタジー
「虫に話しかけてる姿が気持ち悪い」——辺境伯令嬢ヒルデは、領地の養蜂を一手に管理する「蜂の女王」だった。婚約者はその姿を蔑み、公衆の面前で婚約を破棄した。ヒルデが領地を去って一週間後、蜂群が一斉に巣箱を捨てて飛び去った。蜂蜜は万能薬の基剤であり、蜜蝋は蝋燭と封蝋の原料。薬も作れず、夜は闇に包まれ、公文書の封印もできなくなった。冬が来る前に蜂蜜漬けの保存食が作れず、領民が飢え始めた。婚約者が別の養蜂家を雇ったが、蜂は全く懐かなかった——蜂は「女王を覚えている」。ヒルデ以外の人間には、針を向けた。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
私を欠陥品と呼ぶ執事長が鬱陶しいので、侯爵夫人として排除することにしました
菖蒲月(あやめづき)
ファンタジー
「欠陥品に払う敬意など無い」
結婚後もそう言って嫌がらせを続けるのは、侯爵家の執事長。
どうやら私は、幼少期の病が原因で、未だに“子を産めない欠陥品”扱いされているらしい。
……でも。
正式に侯爵夫人となった今、その態度は見過ごせませんわね。
証拠も揃ったことですし、そろそろ排除を始めましょうか。
静かに怒る有能侯爵夫人による、理性的ざまぁ短編。
________________________________
こちらの作品は「小説家になろう」にも投稿しています。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
選ばれなかったのは、どちら?
白瀬しおん
恋愛
「あなた、本当にうちの家にふさわしいと思っているの?」
その一言で、すべては終わるはずだった。
婚約者は沈黙し、公爵夫人は微笑む。
わたくしはただ、静かに席を立った。
――それで、終わりのはずだったのに。
届いた一通の封書。
王城からの照会。
そして、夜会に現れた“迎え”。
その日、選ばれたのは――どちらだったのか。
婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています