上 下
3 / 64
内定 ―ナイテイ―

2

しおりを挟む
 僕は胸に手を当て、ざわめく気持ちを落ち着かせる。

「わかった。他には?」
「特に今のところ大きな動きはない様ですが」
「そう。ありがとう。何かあったら、すぐに報告して。下がっていいよ」
「では、失礼いたします」 

 ルークは礼儀正しく一礼して退室した。

 1人になった僕は冷めてしまった紅茶に口をつけ、乾いた喉を少し潤す。溜息を小さくつきながら、背もたれに寄りかかった。

 他家の今日の出来事を把握しているルークの情報網には頭が下がる。

 落馬したクラリスは大丈夫なのだろか? 無傷との話だったが……明日、様子を見に行ってみよう。

 両手を後頭部で組み、僕は思考を巡らせた。

 僕の想い人、クラリス・アルフォント公爵令嬢。

 ブラウンの長い髪に澄んだブルーの瞳のいたって普通の令嬢。華やかさも麗しさもなく、男達の噂話に美しい令嬢と名があがる事は、まず、ない。

 僕はそれでいいと思っている。
 彼女の可愛らしさや美しさは、僕だけがわかっていればいいのだから。

 しかし、クラリスは魔道士になり、この国の王子であるアルベルトの婚約者になってしまった。

 クラリスの魔法が発現したら、婚約者最有力候補にあがる事は予測していた。万が一の為、候補にあがった時の策は講じていたが、まさか候補をすっ飛ばして即内定するなんて。

 しかも発現した当日に。

 こんな強引なやり方、アルベルトあいつらしくない。

 ……が。

 僕はギリッと奥歯を噛み締めた。

 それほど本気だということなのだろう。
 アルベルトあいつが王族権限を行使したわけなのだから。

 そう、この婚約内定。王家に魔道士の濃い血を残す……は大義名分。本当はアルベルトがクラリスに惚れているから……という厄介極まりない理由なのだ。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王太子殿下は悪役令息のいいなり

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:1,175

電車の中でうるさい高校生男子にどう対応する?

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

尽くされ男と尽姉妹

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...