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約束、そして行動

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あれから大人しく部屋に引きこもっていた私の部屋に、怒りが収まった男がやってきた


「殿下との顔合わせだ。大人しくついてこい」


まるで物語に出てくるような悪者みたいなセリフね。と思いながらも素直に従った。


男と2人で馬車の中に乗り込み、王城に着くまでの間一言も話さなかった。

きっとこの空間は男が発するピリピリとした雰囲気で大変居心地が悪くなっていただろう。

私はなんとか窓の外を見てやり過ごす。

比較的すぐに王城に着いて心の底から安堵した。



「その娘がそうか?」

「ええ!わが愛娘のエレンと申します!
少し病弱なところがございますが、最高級の教育を施している為麗しい王子殿下にも釣り合うかと…」


陛下への謁見の際、男にそのように語られる。


(愛娘?どの口がそういってるのよ) 


と、この場で口に出してしまいそうだった。


陛下は男の”病弱”の部分に眉を顰めたが、私をじろじろと眺めた後口元を緩ませて頷いた。



「では若者同士の方が落ち着いて話も出来よう。…コンラッド」

「はい。陛下」



陛下の後ろに隠れていたのだろうか、すっと陛下の後ろから私と同じ年頃の男の子が姿を見せる。



「コンラッド・ヴェステリアと申します」



艶々とした金色の髪の毛に宝石のような赤色の瞳が印象的だった。

王子殿下は私に手を差し出して、ニコリと微笑む。

私は無意識に差し出されていた手を取っていた。



「じゃあ行こう!」

「え!?」



勢いよく駆け出す王子殿下に、私はもつれながらも必死に走った。

不思議なことに、いままで寝込むことが多かった筈の私は、一度も倒れることもなく、それどころか息も上がらずに走ることができた。

駆け抜ける時に感じる風が、とても気持ちよく感じた。



「君すごいね!」

「な、なにがです!?」

「こんなに僕についてこれる女の子初めてだよ!」



楽しい!と満面の笑みを向ける王子殿下に、私も自然に笑みがこぼれた。



「私も!楽しいわ!」



その気持ちは本心からだった。
だって、すぐ寝込む私はこうして思いっきり駆けたことなどなかったからだ。

楽しくてたまらない。

笑顔で手を伸ばす殿下がとてもキラキラと輝いてみえた。


そして、2人で疲れるまで追いかけっこをした後は、綺麗な花が咲く庭園でお茶をした。

お茶といっても、甘いココアに、バターの風味が濃厚なクッキーが出された。

様々な形のクッキーに王子殿下も私も話が盛り上がる。



「あ!」

「?どうしたの?もっと食べたい?」

「違うの、私コンラッドに伝えたいことがあるのよ」



遊んでいる途中で名前で呼ぶこと、話し方も崩すことをお願いされた。



「なに?僕にできる事なら叶えてあげられるよ」

「私達の婚約について」



そういうとゴホゴホと、ココアが気管に入ったのかむせる殿下の背中をさする。



「こ、婚約についてって……、エレンは僕が婚約者は嫌?」



悲しそうな顔で見上げられると、胸がちくちくと傷んだ。

嫌ではない。本当に。


コンラッドと出会う前までは、あの夢の所為で殿下のイメージが下の下の下で、悪すぎたから。

だからこそ婚約者になりたくなかったわけだけど、今はコンラッドの人となりがわかり、安堵している。

話が通じる人なのだと。



「いやじゃないわ。でも将来何があるのかわからないから、”好きな人が出来たら婚約解消をしましょう”ってことだけいいたいのよ」

「…エレンは僕のこと好きにならないってこと?」

「そうじゃないわ。あなたは優しくて素敵な人よ。
大人になっても魅力的な男性になると思うわ」

「ならそういう条件は必要じゃないんじゃないかな…?」



渋るコンラッドに私は首を振る。



「お願いよ、コンラッド。私は貴方よりも身分が下なの。
条件として盛り込んでもらった方が、貴方に好きな人ができた時私の方からも婚約解消を求めやすくなるわ」



だって貴方は卒業前に私に婚約”破棄”を突き付けて、断罪するのだから。



「そんな!僕は…!」

「コンラッド…お願い」

「…わかった。でもこれだけは知っててほしい。
今日初めてエレンに会って、君みたいな素敵な女の子が婚約者だと知って、本当に嬉しかった。
これから先も僕には君だけだと思うし、婚約解消だなんてエレンに絶対に思わせない」

「…ありがとう」



その言葉が現実となるのならどれだけいいか。

コンラッドに出会った今は、そう思えた。



コンラッドと別れ、王城からの帰り道男の機嫌が大層よかった。



「お前も結局は殿下の婚約者に満足しているではないか」だの

「これからも殿下の機嫌を損なうことのないようにしろ」だの



そういう言葉を並べられた。



「早く学園に通いたいわ…」



思わずそうつぶやいてしまった。



話を聞けと怒鳴られるのかと思いきや、「そんなに殿下と共にいたいか」と良い方向で勘違いしてくれたから、曖昧に濁しておいた。

本当はあなたがいる空間から逃げ出したいだけよ。といいたいが。



学園入学まで、あと数か月。





■■■





長いと思った数か月なんてあっという間に過ぎていった。


学園に通う為の準備と称して、こっそり町にくり出して偽名を使って冒険者登録をしておいたのだ。

未成年の内なら親の許可がいるが、平民を装えばその許可もいらない。

平民には複雑な事情があるからだ。

だから私は下準備の為、わざとあの男を怒らせて顔に痣を作り、アーシャに頼んでおいた古着を着て冒険者登録にくり出したのだ。

お陰で受付の女の人には複雑な事情があるのねと涙ぐんでもらいつつ、なにも聞かれないまま登録ができた。



複雑な事情があるのは本当の事だし。

とりあえず登録できて本当に良かった。



稼ぎのいい魔物の討伐には年齢的にも、また冒険者としてのランク的にも難しい為、町の中で募集しているお仕事にチャレンジする。

ちなみに、長い髪の毛を帽子の中に隠し、子供だから出るところも出ていない私の外見は少年のように見えている筈だ。

登録票には女性に印をつけたが、周りに少年と意識付けしてもらうだけでいい。

少女と思われると野蛮な人が絡んでくると聞くからだ。



ブラシを持って、えっほらと磨いていくけれどなかなか下水道の汚れは落ちない。

あー疲れると肩をポンポンと叩くと、ふと脳内に文字が浮かんだ。



「”クリーン”」



ぶわっと黒く薄汚れていた下水道が、クリーム色の本来の姿に変身していく。



「…魔法ってすごすぎ…」



子供だから魔法が使えない設定だったが、例外もいるだろうと思って、それでも時間がかかったんだよという設定も付けた方がいいと思った私は暫く町をぶらついた後、完了の報告をしに行った。

まぁそんな感じで魔法って便利!と気付いた私は、次の日から私の姿を模倣して、偽の私をベッドに忍ばせて町へと出掛ける。

お小遣い程度しか稼げないが、実際にこの家を出て平民になった時の為に、ランク上げに必死だった。

でもその頑張りのお陰でこの数カ月と短い期間でもランクが一つ上がることが出来た。



ちなみに自分で稼いだお金は微々たるものだったが、空間魔法も使えた私は亜空間にしまい込んだ。

本っっっっ当、魔法って便利。



そんな感じで入学までの数か月なんてあっという間に過ごした私は、指定の制服に身を包み、いざ学園へと馬車に乗り込む。

学園は子供の自主性育成の為、メイドも連れてこれないのだ。

アーシャとはお別れになってしまうが、平民となったら本格的に会うことはなくなるし、これが本当に最後になるかもしれないと思った私はぎゅうとアーシャを抱きしめてから手を振った。



学園に着くと殿下が待っていた。

最後に会った時から数か月しか経っていないから、大して変化はない。

もし変化をあげるとしたら、あの日無邪気にはしゃいだ姿は見えなくなったことだけだ。

まぁ場所が学園だし、一人はしゃいでいたら周りの目も気になるわよね。

もしかしたら殿下がはしゃいだら、周りの人たちも気を遣って一緒にはしゃいでくれるかもしれないが。



「エレン、久しぶりだね」

「ええ、5か月振りかしら?」

「君に会えない時間が凄く長く感じたよ…、またこうして会えて嬉しい」



私はあっという間でしたけど。という言葉は言わない。



「私も会えて嬉しいわ」



これも嘘ではなく本心だ。だからこそ、殿下も素直に受け止めてくれて、微笑んでくれる。

2人で並んで歩き学園の建物の中に入っていく。



「僕はSクラスだったけど、エレンもそう?」

「ええ、侯爵家までがSクラスとなっているので、私も同じクラスです」

「エレン、口調」

「ふふ。…私も同じクラスよ、コンラッド」



私の中でコンラッドは友達だけど、一時的な婚約者であり、王子殿下でもある。

だからたまに敬語になってしまうが、コンラッドは敬語を使われるのがいやらしい。



「じゃあ卒業まで同じクラスだね!」

「そうね、…じゃあ私が授業に出れない日があったらノートを見せてもらおうかなぁ~」

「あ!今からサボる計画!?だめだよ!」

「違うわよ、私これでも風邪をひきやすい子供だったの。
だからなにかあったら頼らせてもらうつもりでいったのよ」



勿論あの夢を見た日から体調を崩すことはなくなったが。

本当に何が原因だったのか。



「そういうことね。それなら僕に頼ってね!エレンの力になりたいからさ!」

「ありがとう、頼りにしてる」





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