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反抗期だろうか。

「おいアレン。聞いているのか?」

父である僕がこうやって叱っても、アレンは目すら合わせず、ただ俯いていた。
しかし、その瞳はどこか尖っていて、心穏やかではないことがはっきりと分かる。

「アレン……何か僕に言いたいことでもあるのか?」

この前までこの子はビクビクして過ごしていた。
だが、今のアレンは焦る様子も震える様子もなく、ゆっくりと顔を上げた。

「お父さん。本当のお母さんの所に行きたい」

「……は?」

本当のお母さん……つまりセリーナということか?
確かにアレンにはティナが後妻であることは伝えていたし、お前を産んだのはセリーナという前妻だということも伝えていた。
だが、なにを今更あんな女に執着をするのか。
僕は怒りを滲ませながら口を開く。

「つまり、この家を出てあいつと……セリーナと一緒に暮らしたいということか?」

「うん。今のお母さんは僕のことを全然見てくれない。まあお父さんもだけど……でも、本当のお母さんならきっと……」

「ふざけるな!!!」

声を荒げると、やっとアレンの体がびくっと揺れた。

「お前は何にも分かっていない!もうあいつとの関係は断ったのだ!お前は私の跡取りとして生きていくんだ!会いに行くのは許さない!」

「そんな……」

アレンが悔しそうに歯ぎしりをする。

「何がそんなに不満なんだ?世の中には両親のいない子供だってたくさんいるんだぞ!僕達がいるじゃないか!」

言いようのない焦りがあった。
もしかしたらアレンが、僕達ではなくセリーナを選んでしまうかもしれない。
築き上げてきた栄光が崩れ去ってしまうかもしれない。
そんな予感がした。

「お父さんたちは僕のこと好きじゃないでしょ!いつも馬鹿にしてくるし、いじめてくるし……でも本当のお母さんは違う!毎月手紙をくれるし、僕のことを好きでいてくれるんだ!」

「なに?手紙?」

僕が焦るのを見たからか、アレンの震えが収まった。
小さく息を乱しながら、ポケットに手を入れ、折れた手紙を取り出す。

「……来週。ハワード公爵家っていうところでパーティーがある。そこでお母さんは待ってるって書いてあった。お父さんが何と言おうと僕はこれに行くから!」

アレンの目には強い意志のようなものが籠っていた。
大人の僕でも少しだけ怯んでしまうくらいの。

「くっ……分かった。なら僕らもいく。それなら行くのを許可する」

僕が堪らずそう言うと、アレンの目がパッと輝いた。

「本当に!?」

「ああ。ただし少し会ったら家に帰るからな。分かったな?」

「うん!」

先ほどの怒りはどこへやら。
アレンは嬉しそうに頷いた。
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