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 ティアラとの離婚は思っていたよりも、滞りなく進んだ。
 初め両親は殴るような勢いで僕を怒鳴ってきて、非難したが、ララが健康体だと知ると途端に黙った。
 どうやら欲しいのは孫のようで、僕の妻が誰なのかはあまり気にならないらしい。

 ティアラは離婚した後、アレンと共に家を出て行った。
 これからどう暮らすのかは全く知らないが、どうせろくな人生を歩まないだろう。
 
 使用人たちは幸いなことに家に留まった。
 皆渋々といった感じだったが、仕事はいつも通りこなしていたので、お咎めは無しにしてやった。

「レイクさん。やっと邪魔な二人が消えましたね。これで私たちは堂々と愛し合えますね!」

 ララは相変わらず僕を愛してくれている。
 そんな彼女が妊娠するのも時間の問題だろう。

 ティアラと離婚して三か月後。 
 ララが妊娠した。
 妊娠の事実を聞いた僕は、思わずその場に膝をついてしまった。

「ララ……本当か? 本当に妊娠したんだな?」

 僕の問いにララは笑顔で頷いた。

「はい! 私とレイクさんの愛の結晶です……私たち、親になれますね」

「ああ……そうだな……ははっ……」

 全ては上手くいっていた。
 親も熱望する妊娠を果たし、ついに僕の子が生まれるのだ。 
 ララは健康体そのものだし、何か事故でも起こらない限り、この幸せは崩れない。

「ララ……愛しているよ」

「私もです。レイクさん」

 しかし、それは僕の浅はかな考えだった。
 妊娠を告げられて数日後、馬車で街を移動していた僕は見てしまった。
 
「え……」

 老舗の宝石店から出てきたララは、年若い青年に手を引かれていた。
 彼の手はララのお腹に当てられて、二人はまるで恋人のように微笑んでいた。
 窓からその様子を見ていた僕は、馬車を停めることも忘れ、ただ唖然としていた。
 
 いつの間にか視界の隅からも二人は消えて、もう遥か後方にいた。
 そこでやっと僕は声を出すことができた。

「あいつ……浮気していたな……」

 その夜、家に帰ってきたララを僕は問い詰めた。

「ララ。お前、今日の昼何をしていた?」

 かまをかけるように言ってみると、彼女はいつもの笑顔で告げる。

「お友達の家でパーティーをしていましたよ? 皆、私の妊娠を祝福してくれて……」

「その友達っていうのは男か?」

「え……」

 ララは困惑したように目を瞬かせると苦笑する。

「違いますよぉ……皆女性です!」

「そうか……残念だ」

 僕はララを冷たい目で睨みつけた。

「今日の昼、お前が男と宝石店から出てくるのを見た……一体何をしていた?」

「え……なんでそれを……あ、今のは違くて……」

 どうやら僕が見たのはララで、想像した通りの仲だったみたいだ。
 彼女はそれを裏付けるように俯いていた。
 途端に怒りが湧いてきて、僕は自分を抑えられなかった。

「このクソ女が!!!」

 気づいた時には遅かった。
 ララをドンと押していて、彼女は大勢を崩し、壁にぶつかった。
 自分でも驚くほどに、彼女は大袈裟に床に倒れた。

「は……? な、何やっているんだ? すこし大袈裟じゃないか?」

 ララが演技でもしていると思った。
 横になって動かない彼女は目を瞑り、呼吸を荒くしていた。
 それを見ていた僕も同じように呼吸を乱していく。

「そんな……え……嘘だ……嘘だ……」

 なぜか床に血が染みていた。
 恐怖が全身に広がり、僕はその場から逃走した。
 
 その後、ララは流産をした。
 ララはそのショックで僕の元を去り、僕は両親から激しく責め立てられた。
 そして勘当され、辺境の修道院へと送られた。

 *

 レイクと離婚して一年が経っていた。
 春風が気持ちの良い朝、私は中庭で静かに紅茶を飲んでいた。
 隣にはアレンの姿があった。

「アレン。もうあれから一年が経つのね」

 今では良い思い出とまではいかなくても、少しだけマシな思い出になった。
 あの時の悲しみや怒りが消えたわけではないが、もっと素晴らしいものを私は手に入れたのだ。

「そうだね……もしあの一件がなかったら、僕は君と出会えてなかった……ある意味レイク様に感謝しないとね」

 今は私の夫となったアレンはどこか遠くを見つめているようだった……

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