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 一時はどうなるかと思ったが、まさかメルダがエリック王子と結婚するなんて。
 思わぬ良縁に、私はほくそ笑み。

「お父様! そろそろ王宮に行く時間ですよ!」

 部屋を開けたのは娘のマーサ。
 今日はメルダに呼ばれ、王宮に行く日なのだ。
 きっと私たちに感謝に気持ちを伝えて、何か金になるようなものをくれるのだろう。

「よく、行くか」

 ……馬車に乗り二時間程。
 王宮についた私とマーサは客間に通された。
 入ると、既にメルダとエリック王子がいて、二人は豪華そうなソファに座っていた。

「遅れましてすみません」

 私とマーサも二人の向かいの席に座ると、王子が口火を切った。

「今日はお越しいただきありがとうございます。単刀直入で申し訳ありませんが、お願いがあります。メルダと縁を切ってください」

「……は?」

 私は唖然とした。
 隣を見ると、マーサも口をぽかんと開けている。
 話とはこのことだったのだろうか?金目のプレゼントはないのだろうか?

「お父様、そしてマーサ」

 今度はメルダが口を開いた。
 久しぶりに見る娘の口調は、記憶にあるよりもしっかりしていて、その目には決意のようなものが籠っていた。

「私はあなたたちと離縁することにしました。もう関わらないでください」

「そ、そんな……」

 離縁なんてしたら王族の恩恵を受けられなくなる。
 それじゃあメルダの結婚を許した意味がないじゃないか。
 私は立ち上がり、声を荒げる。

「メルダ、考え直せ! 私たちは家族だろ! お前は家族を見捨てるというのか! お前の唯一の家族を!」

 しかしメルダは私を睨みつけると、冷静に言葉を返す。

「私の家族は亡くなった本当の両親だけです。あなたたちは私を虐げ、嘲笑ってきました。そんな人は家族ではありません」

「な……お前……自分の言っていることが分かっているのか……」

 どうしてこうなった?
 メルダはもっと大人しく、優柔不断で、私たちの言いなりだったではないか。
 何が彼女を変えた、こんなに生意気にさせた。
 そうだ、エリック王子だ。
 こいつのせいだ、こいつがメルダに何か吹き込んだんだ。

「エリック王子。私の娘に何をしたのです? メルダはこんな子じゃありません。もっと彼女は……」

「いじめがいのある娘でしたか?」

 王子の言葉に顔から血の気が引くのが分かる。
 
「実は全部聞いているのです。あなたたちがメルダに何をしたのか。そして、違法なことをやっているのも知っていますよ。そちらは証拠も押さえてあります」

「あ、ああ……いや、な、何を言って……」

 その時だった。
 今まで黙っていたマーサが立ち上がり、悲劇のヒロインのように口を開いた。

「わ、私は無関係です! 全部お父様に命令されてやりました! だから私だけは許してください! お姉様!」

「な……お前……私を裏切る気か!?」

「裏切る!? 何を言っているのお父様! 私を脅したくせに!」

 こいつこそ何を言っているんだ。
 自分だけ助けてもらおうと嘘までつくなんて。
 私たちの口論に終止符を打つように、王子が立ち上がった。
 その目は怒りに燃えていた。

「止めろ! 二人とも同罪だ! 同情の余地もなく罪の処す! 分かったな!」

 王子の剣幕に私たちは無言でその場に座り直した。
 助けを求めるようにメルダを見ると、彼女はただ無感情に私たちを見つめているだけだった。

 その後、私たちはメルダと離縁し、国外追放の刑に処された。
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