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 朝食のサラダを食べることもなく、じっと私が見ていたので、公爵と夫人は不審に思ったのだろう。

「ウェンディ。どうかしたのかい?」
「何か嫌いなものでも入ってた?」

「いえ、毒が盛られていないか確認しているのです。以前、姉に食事に毒を盛られたことがあるので」

「え……」

 顔は見ていないけれど、二人の絶句した様子が手に取るように分かった。
 私は十分にサラダを精査すると、やっと食べ始める。
 新鮮な野菜の触感が心地よく、こんなに美味しい食事を初めて食べた気がした。

「口に合うかな?」

 公爵の言葉に私は頷いた。

「ええ、とても」

 どうやらこの家には使用人の類は誰もいないらしい。
 まあ、それもそうか……没落寸前なのだから。
 私の家族よりは少しだけ頭が良いみたい……少しだけね。

「ウェンディ。あなたの部屋はね、嫁いでいった娘が使っていたものなの。あなたみたいに賢い子で本をよく読んでいたわ。本は部屋の本棚にそのままにしてあるから、どんどん読んで頂戴ね」

「分かりました」

 なるほど、あの絵の女の子は二人の娘だったのか。
 念のため私は口を開く。

「しかし、私ではあなたたちの娘にはなれませんよ。顔は全然似ていないので、代わりが欲しければ他を当たってください」

「いや、別に私たちは代わりが欲しいというわけじゃなくて……」

「そうよ。確かにあの子が家を離れて寂しいけど、あなたを引き取りたくて引き取ったのよ。娘の代わりなんて微塵も思っていないわ」

 私はサラダから顔を上げると、品定めをするように二人を見た。
 私の冷たい視線に怯えたように、二人は神妙な顔つきになる。

 人間、口では何とでも言える。
 まさに私の父がそうだった。
 散々私のためだと嘯いて私を教育漬けにして、家を動かす道具にした。
 そして最後には呆気なく捨てるのだ。

 この二人とはまだ会って一時間程。
 信用する理由もなければ、信用したい理由もない。

「分かりました」

 私は淡々とそう言うと、食事に戻った。

 ……食事を終えると来客があった。
 近所に住む伯爵子息のジャンという男の子で、歳は私と同じ十六歳らしい。
 彼は私を見ると、訝し気に言う。

「へえ、どことなく彼女に雰囲気が似ている……僕たち仲良くなれそうだね」

 ジャンが言う彼女とは、この家の嫁いだ娘のことで、二人は仲が良かったのだという。
 彼女が嫁いだ後も、ジャンは時折この家に来ては、ベルマーレ夫妻と話をしているらしい。

「そうかしら? 私は別にあなたと仲良くなるつもりはないわ。未来永劫、永遠にね」

 私はそう吐き捨てると、自室に向かう。
 信じられるのは結局自分自身だ。
 他人の心は変えられないのだから。
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