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10 夜の道中

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 夜の移動はモンスターも出て危険だけど、朝まで待つわけにはいかない。
 身支度を済ませて横穴から出た私達は、呼び寄せた魔馬に乗って移動を開始した。
 身体が辛いだろうって、手綱はバルファルドに任せてその足の上に横乗りする形になっている。
 体格差があるから邪魔にはならないけど、スピードは出せないな。
 
「どこに行く?」
「決めてない。とにかくここから離れて……ある程度人の多い町に行った方がいいと思う」
 
 木を隠すなら森の中、と言うもの。とにかくどこかに落ち着いて、情報を集めたい。
 学園が今どうなっているかとか、これからのこととか。ちゃんと話したい。
 …………私達のことも。
 なし崩しにここまで来てしまったけれど、まだ何一つ解決していない。むしろ問題が増えただけ。
 どうしたらいいのか分からないことばっかりだ。
 


 
 魔馬を駆けらせてしばらく、大きく崩れて空洞ができている崖を見つけた。
 ちょっとやそっとで崩れそうにないのを確認し、ここで夜を明かすことになった。の、だけども。
 
「…………なに、この状態」
「身体、が辛いか、と思っ、て」
 
 状況=後ろから抱えられて足の上に座らされてる。
 移動も含めて身体が辛いことは事実なんだけど、やった張本人が言うのはどうなの。
 今は何かしてくる感じはないけど……自我がはっきりしているから?
 って、そうだ。

「あんた、最初から自我が残ってたの」
 
 いつまでも眼を背けていないで、いい加減にちゃんと話を聞かないと。
 この体勢には不満しかないけれど、話を進めなければ。
 
「最初の時点で、は、7割ほど抜け落ちてい、た。自我がはっ、きりした、のは、最中」
「…………喋りづらい?」
「少し」
 
 そこは普通のアンデッドと変わらない、のか。
 アンデッドは知性が残っている者が稀にいて会話ができる場合があるけれど、それでも上手く話せない場合が殆どだ。
 例えば上位種のアンデッドだったら、そんなことはないんだけどね。
 リヴィングデッドは下位だから、仕方のないことなんだと思う。
 
「頭にあった、のは、まず逃げなけ、れば、だ。次に、帰る約束。だか、ら、学園に向かっ、ていた。川の、あそこで、は目の前に、居たの、が、アマリエだって、分かったから。邪魔がな、いし、俺のものにして、しまおうと」
「うん……、…………ん??」

 ちょっっ、と、待った。
 その時点では普通のアンデッドみたいに自我は失いかけていて……で、自我がはっきりしたのは、最中。でも最初から私だと分かってたってことは……ええと、つまり。
 
「アマリエだ、と理解してい、て押し倒した。それに弁解はしな、い」
「っ!」
 
 ぎゅう、と強く抱き締められる。
 逃がさない、とでも言うように。
 
 やっぱり、そういうことなの。
 自我のない状態で、目の前にいたから、じゃなくて。私だったから……。
 
 いやそれはそれでどうなのかって話なんだけどね?!
 何、『俺のものにしてしまおう』って!
 私だって気付いてすぐその思考になるのも……!
 
[ アンデッドらしく理性の箍が外れていたわけね ]
「ぁ、ルージュ、」
[ またワタシのことを忘れていたわね?まあ番ったばかりじゃ仕方ないとは思うけど。三度は許さないわよ ]
 
 ふわりと顔の前にルージュが飛んできた。
 不機嫌そうな顔で、腕を組んでいる。
 うん、連続で存在を忘れてたからそれは当然の反応だわ。
 でも、番った・・・って、なに?? 
 
「ええと、ごめんなさい。あの、ルージュ?どういうこと?」
[ アンデッドは基本的に生前の未練や執着に一直線でしょう。余程の事がない限り理性がぶっ飛んでるのよ。そいつは人間だった時に理性で抑え込んでいた感情を抑える気が無くなったんでしょう ]
「ああうん……いやっそっちじゃなくて」
[ わざとよ。アナタ達、でしょう? ]
「番?!」
 
 それってモンスターとか亜人の一部種族にある特別な繋がり・・・・・・のこと、よね?運命の相手・・・・・とも言われてる。
 私とバルファルドがその、番?
 どちらも人間なのに?・・・・・・・・・・
 
「俺はアマリ、エが番だ、と、気付いて、いたよ。ただ身分と、か人の眼、とか。あったから期をうかがっていた」
「な、なにそれ……」
 
 私は、全然分からなかったのに。バルファルドは分かっていて行動していたってこと?
 ならつまり、ずっと前からバルファルドは――――

「好きだよ」
「っ、!」
「アマリエが、好きだ。愛してる」
「ひゃっ……?!」

 抱き締める腕に力を込めて、耳元で吹き込むように、言う。
 
 す、あ、あいっ?!
 いや、え?は、え?!??
 
[ イチャつくのはあとにしなさい ]
「った、」
 
 突然の告白に混乱する私を余所に、またもルージュの蹴りがバルファルドに飛ぶ。
 それで抱き締める力が緩んだ隙に、腕の中から抜け出した。
 だってあのままだとまともに話ができる気がしないんだもの……。



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