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5、鬼謀のアイオナイト

クリスマス番外編1~祝祭はバードレターのお誘いから

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 ――クリスマス。
 それは、冬のシーズンを彩る祝祭だ。
 青国や空国では「いにしえの呪術王」、紅国では「神々」が、この祝祭文化を始めたと言われている。

 空国の王都サンドボックスでは、ふわふわと降る白い雪にまざり、赤やピンクの紙吹雪が舞っている。

「さあさあご覧ください、『バードレター』! この便箋は鳥のように羽ばたき、想い人のもとへ飛んでいく魔法のお手紙でございますぅ!」

 目元を仮面で覆ったハルシオン――『カントループ』が新商品の実演をしている。

「ままー、あのお兄さん王様……」
「しっ、陛下はお忍びなのよ」
「バレてないと思ってるんだ。気付いていないフリをして差し上げろ」
 
 母子のやり取りを背景に、魔法の手紙が飛び立って、ひとつまたひとつ、鳥のようにパタパタと旅に出る。

 * * *

『ハッピー・メリークリスマス!
 クリスマスは、神々が決めたと伝えられる、特別な祝祭の日です。
 特別な日は、ぜひ家族や恋人と楽しく過ごしていただきたい。
 われわれの国は兄弟のように親密な二国ですから、ばらばらに祝うのではなく、足並み揃えて一緒に仲良くお祝いしましょう。そう思った我々カントループ商会は、空国の王族のご支援のもと、友好国に特別なクリスマスイベントのご提案をいたします!』

 と、そんなメッセージが描かれた執務室で『バードレター』を手にして、青王アーサーは臣下たちを見た。

「ノーウィッチ外交官?」
「ハッ! このバードレターは我が家にも届き、妻が『なんだか生き物みたいで可愛いですね』と愛でていて、最高に可愛かったですッ! しかし張り切った妻はパーティクッキーを焼くと言い出し、気が気でなりませんッ!」
「惚気は求められていないと思いますよ、ノーウィッチ外交官。ご参考までに我が家にもバードレターが届き、ウィスカが優しく撫でていました。嫉妬してみせたら私の頭も撫でてくれましたよ。今日は帰ったあとに子どもの名前を考えるのです」

 ノーウィッチ外交官とモンテローザ公爵はひとしきり聞いてもいない惚気をしてから書類を提出してくる。アーサーは臣下たちの愛妻家ぶりを微笑ましく思いながら書類を受け取った。

「浮かれすぎではないか。先日シュネーから手紙をもらったが、シュネーの愛読書である恋愛物語にはフラグという概念があるらしい。例えば、『色ボケして仕事がおろそかになると読者からの評価を下げる』『帰ってから何かをする、という発言は死亡フラグ』……」

 書類に目を通したアーサーは、情報を頭の中でわかりやすく整理した。
 
 要するに――「空国からの誘いを受けて、空国と青国のそれぞれの王都で、二国合同主催のクリスマスバザールとパーティをする」ということだ。

「うむ。いいと思う。アルブレヒトには『可能なら空国に婚約者同伴でいらしてください』と手紙をもらっていたが、アレクシアは最近、体調が不安定だしな」
 
 アーサーの大切な『アレクシア・モンテローザ公爵令嬢』は病弱で有名だ。といっても、それは『アレクシア』が預言者ダーウッドと同一人物であり、公式行事に同時に出席するのが難しいのを誤魔化すための嘘だったのだが。
 ――だが……最近は、体質が変化して身体的に成長を再開した影響で、本当に病弱気味になっている。
 もともと彼女は無理をしがちな性格でもあり、「休んでいては怪しまれます」と言って預言者としての仕事を今まで通りにしようとするので、アーサーは気が気でないのだ。
 
 アルブレヒトは親しい友人だ。単に断るよりも、代替案を、と考えていた矢先であった。ありがたい。
 
「では、お受けする方向で」

 優雅に一礼してから、ちなみに、と切り出すのはモンテローザ公爵だ。

「ちなみに、空王はフィロシュネー姫殿下を王都に招待なさったようです」

「ん? 待て。俺は『クリスマスは青国で過ごしたらどうだ』と手紙を書いたが?」

「陛下と空王陛下、フィロシュネー姫殿下がどちらを選ばれるのか気になりますね」

 モンテローザ公爵は面白がるように言って退室していった。ノーウィッチ外交官がそれに続く。

「当然、俺を選ぶに決まっているだろう」
 
 執務を終えたアーサーは、その足で『婚約者』の部屋を訪ねた。
 公式的には別人となっている『預言者ダーウッド』の部屋だ。とはいえ、王の側近の間で預言者とモンテローザ公爵令嬢が同一人物なのは暗黙の了解、公然の秘密のように知られていたりするのだが。

 控えめにノックすると、内側からドアが開かれる。
 顔をのぞかせた『預言者ダーウッド』――アレクシアは、アーサーが贈った就寝用のローブに身を包んでいた。髪もゆるくひとつに結わえていて、毛先が乱れていたりする。
 
「ああ、寝ていたのか。……俺は休息を邪魔してしまったか」
「いえ」
  
 細い腰に手をまわし部屋の隅にあるベッドへと寝かせると、アレクシアは少し怠そうな火照った顔で先日贈った抱き枕を両手で抱きしめてアーサーを見上げてくる。これが、たいそう可愛らしい。

「アーサー様?」
「空国から提案があって、バザールとパーティをすることにした」
「もともと予定していた我が国の式典は……」
「それもやるぞ」

 ニカッと笑い、アーサーはアレクシアの隣に自分の身を横たえた。
 抱き枕を抱きしめるアレクシアを抱きしめるようにすると、「抱き枕ではなく俺の体に腕をまわして抱き着いてほしい」と言いたくなる。

「一緒に昼寝するか。俺も執務で疲れた」
「このあとの予定が……」
「俺の予定は余裕がある。知らなかったか、意外と俺は書類仕事が得意なのだ」

 アーサーの腕の中でもじもじしているアレクシアは、可愛い。アーサーはデレッとした。
  
 出会って婚約してすぐにアレクシアは亡くなってしまったから、今まで想い人へプレゼントをする、という経験ができなかった。
 ――今まであげられなかった分、この愛しい婚約者にプレゼントを山ほどあげよう。なにがいいだろう? ベッドを埋め尽くすくらいのぬいぐるみはどうだ? 宝飾品やドレスもいい。

「俺の腕の中にいてくれてありがとう、アレクシア」

 ――幸せが、ここにある。

 アーサーは愛しい彼女にやさしく口付けをして、心地よい眠りに落ちた。

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