機械人形"妖精姫"、"氷の王子"に溺愛される

ノンルン

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第3話 バカ王子、再び

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「アル。褒め過ぎです」

 メリッサは自分への褒め言葉に耐えられなくなってアベルに赤い顔を向けた。

「いや、リサは素晴らしい。いくらでも褒められるさ」
「で、アル。その他の話はありませんの?」

 あまり興味のない話だったが仕方なくメリッサはアベルに尋ねた。
 その瞬間、目に見えて機嫌が悪くなるアベル。
 そんなアベルを見てメリッサは微笑んだ。

(こんなに感情を出すの、いつぶりかしら?)

 無表情ゆえの機械人形ことメリッサはコロコロ先程から表情を変えている。魔法学校でも、その前もここまで表情を出したことは無かった。

 ――地味姫!あなたなんか機械人形よ。

(どうかしらね。あの頃はそうするしか無かった)

「最初に聞く。どうした?リサ」
「―――!」
「どうして……言ってくれなかった」

 やっぱり、アベルは知っていた。
 開口一番、その事を聞かれなかっただけでもマシなのだろう。

「アルのせいではありませんから大丈夫です」
「――ふう。分かった。今はそれを信じるよ」

 アベルは悔しそうにしながらもその言葉に従った。
 メリッサは安堵した。
 だって、そう。言えるような話では無いのだから。

「まず、王子の独断ですべてが動いていた。王子がメリッサにその後要求したのは――家紋を捨てることだ。それは、陛下が許さなかったが」
「やはり、そうですか。後で、陛下に話してみないといけませんね」
「まずは変人王子に話を通りてみたらどうだ?」
「そうですね」

 きっと、王子ならそう言うだろうとメリッサは確信していた。
 そしてある意味それはメリッサが望んだ形でもあったのだ。
 そうしたら、メリッサに希望通りに……

(メリッサ。現実を見なさい!そんな事出来るはずが無いわ)

「予想通り、と言いたそうだな」
「そうですね。そんな気がしましたから」
「リサの場合、それを見越してなような気もするが」
「それは内緒、ですわ」

 メリッサはふふっ、笑った。

(いっそのこと、家紋を捨てられればいいのに)

 メリッサが切にそれを願っているのは人々の知らないことであって、アベルも想像が出来ていない。



 王宮の小さな講堂。
 メリッサは婚約破棄の同意書にサインするために講堂に行った。
 この辺は流石というべきか、クローディアは先に講堂に来ていた。

 講堂にいるのは神官とクローディアだけである。

「メリッサ・クラヴェルがお見えになりました」

 部屋の前に立っていた兵士がそう高らかに述べると講堂の空気が緊張感のあるものにかわる。
 メリッサは兵士に微笑むと講堂にあしを踏み入れ――足を止めた。

「やっと来たわけか」

 あのクローディアが開口一番、不機嫌な声で言いながら振り向き――何時間前かの誰かと同じように固まったからだ。

「だ、誰だ?」
「メリッサ・クラヴェルです。殿下、お久しぶりではないですけれど、お目通り叶えて嬉しゅうございます」

 メリッサは王子に向かって微笑んだ。
 メリッサからすると営業スマイルというもので。

「は?メリッサ?お前がメリッサなはずがない。あいつはもっと地味だった。大体、髪だって亜麻色だったし、瞳だって隠れて地味だったではないか!」
「あのう、殿下。そのメリッサですが……」

 そういった瞬間、王子はもの見事に固まった。
 大理石の象かとメリッサが心配になるほどである。

「で、殿下……?」

 いくら話しかけても、クローディアは固まったまま。

(どうしよう。わたしがこの姿だと、いけないのかしら。お父様の言ったことは……)

「殿下、どうかされましたか?」

 メリッサは慌てた。その表紙に無表情の仮面が外れて、焦ったように目をうろつかせた。
 翡翠色――エメラルドグリーンの瞳をキョロキョロさせ、助けを求めるようにアベルを見た。
 どうか、この思いが通じますように、と願いながら。

 しかし、その瞳を向けられたアベルも一瞬、もの見事に固まる。

(え、どうして……?魔法は使っていないわよね)

「アルもどうかいたしましたか?」

 メリッサが心配そうに瞳を揺らして言うと、アベルは笑っている。それも、肩を震わせて。

「ククッ、リサ。王子は婚約破棄の同意書にサインして婚約破棄したいんだ。さあ、王子。固まっている暇はありませんよ」

 その言葉で再び王子は瞬間解凍するとあの目の光を取り戻して――メリッサはバカ王子という故のあの顔になった。

「お、お前!僕との婚約を破棄したと思ったら他の男か?相変わらず最悪だな!」
「王子が婚約破棄されたのではありませんか。さあ、書いてくださいませ」

 メリッサは神官が見守っている中、何とも無いというようにさらっと同意書にサインした。
 その何とも無いという表情を見て、更に王子は唖然とする。

「王子。陛下にこってりと言われただろう」
「何故知っているのだ!」

 アベルの黒い笑みに王子は怒鳴った。

(う~ん。王子って可愛いのですけどね。もう少し、周りに恵まれれば良かったのですけど)

 これは、陛下や王妃様が頭を抱えているところだろう。きっと、バカ王子もこってり絞られているのだろうし、とメリッサは王子にワーワー言うのを諦めた。
 意外と、こういう事を考えている時のメリッサは頬が緩んでほんのりとしている。メリッサは全くもって自覚がないが。

「この秘書官を舐めないでいただきたい。陛下から相談があったのですよ」
「何故兄上の秘書官に……」

 クローディアはガックリとうなだれると、次の瞬間、メリッサの方にバッとむいた。

「メリッサ!君は何を考えているんだ!謹慎してろと言っただろう!」
「いえ。そうしたらサインできませんから婚約破棄も出来ません」

(もう少し考えてください、王子)

 メリッサは叫び出したい気分である。

「そ、そうだな。って、メリッサ!君が悪いのだ!メアリに散々意地悪をして……呼びつけて泣かせたのもお前だろう!」
「…………はぁ。よく考えてくださいませ、王子」

 王子はやっとメアリに言われたことを怒鳴った。
 メリッサだってこんなに穏やかでいられるような内容でもない。
 でも……

(お父様の言いつけで地味令嬢をやっていたのも……事実ですし、王子に面と向かって反論したことはありませんでしたね)

 しかし、バカバカしい。
 メリッサは心からそう思った。

「よく考えた!メリッサ、君が悪いのだ!だいたい……地味令嬢、無表情の機械人形。そんなお前と伴侶にならなければいけなかったのだぞ!い、今はお前はもうメリッサじゃ無いだろうが!」

 その王子の言葉にメリッサは溜息を一つ。どこまでバカなのと言う意味を込めて。

(それはこちらのセリフです。それに……王子はこのわたしをメリッサとは思っていないみたいね)

 "無表情の機械人形"または誰かの言いなりに動く"ぜんまい仕掛け人形"。言いたいことはメリッサは人では無いということ。そして、感情が無い、と。王子はそれが悪いと思っていたし、機械故に頭も機械だと思っていたのだろう。メリッサはそう考える。

「王子が婚約破棄をしたいのならば早くサインをしてくださいませ。そうしないと殿下が同意していなくなるのではありませんこと?」

 メリッサは王子のそれに助言して、ちょっと微笑む。メリッサの言葉と微笑みを見て、王子の顔は更に赤くなる。今度はトマトかと思うほどに。

「さ、サインすれば良いのだろうが!」

 乱暴に同意書にサインをすると、ドカドカと講堂を出ていってしまった。
「覚えていろ!メリッサ・クラヴェル!」というのを朱色に染まった顔で叫んで残していきながら。
 残されたもの――神官とメリッサはそれをぽ―っと見ていた。

(けっこうあっけない。だたサインするだけで良いなんて……)

 神官は同意書に見落としがないか確認すると、その決り文句を言う。

「クラヴェル公爵令嬢、気を落とされませぬように。わが神は貴女の人生が明るい未来と旅路であると願っております」
「ありがとう存じます」

 メリッサは神官に向かって微笑む。
 司祭もメリッサに微笑んで、優しい声を口から出した。

「令嬢、新しい出会いはすでにたくさんあります。我が神は、いつでもそれを見守っております」
「ご丁寧にありがとうございます」

 メリッサは心からお礼を言うと、アベルト一緒に講堂を出ていった。

「アル。着いてきてくれてありがとう存じますわ」
「いいや。面白い王子が見られたからね」

 アベルはメリッサに向かって微笑む。

(相変わらずの美貌ですわね……)

 メリッサは思わず見とれた。そこでメリッサはハッとした。

(ど、どうしよう……)

「アル。王子、誤解して行きましたけど、大丈夫なのでしょうか?」
「うん?何が?」
「アルは他の男だって。あのまま誤解させて良いのです?」
「いやぁ、王子もちょっと調べれば分かるでしょう」

 メリッサとアベルは王子が思うような関係ではない。少なくともメリッサにとっては……。

「そうです、アル。これからどうします?」

 メリッサがアベルに問いかけるとアベルは意地の悪い笑みを浮かべた。
 
「さあ、我が主、変人王子が待っているさ」

 という事で、メリッサは東宮に連れて行かれた。
 途中、出会う人がびっくりしたように固まって、慌てて走っていくのが恒例になっており、メリッサは首をかしげた。

(なんでだろう。おかしいところは無いはずなのに……)
 
「さあ、王子が待っているよ?殿下、メリッサがお見えになりました」

 アベルは扉を開けるとメリッサを中へ導いた。

 メリッサはそこにいる人に、微笑んで完璧な淑女の礼をする。

「クロヴィス殿下」

 ――クロヴィス・ティラス。それが彼の名前である。 
 


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