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4.変わらないもの

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「ちょっとくらい、よくなっ――」
「おい、ペタコ」
 私は窓の方へとむけかけていた目を、床下にうつした。そこにちょこんと座りこんでいたのは、銀色の毛並みの犬っころ。
 ルーをにらむように見おろしながら、私は小さく嘆息した。
「だから、ペタコじゃないってば」
「オレ様がペタコと決めたら、ペタコで良い。それよりも貴様、好きなやつはいるのか?」
「……は? はあ!? な、なんでルーにそんなこときかれないといけないの!?」
 突然の質問に私はビクッとなりながら、うしろにのけぞった。
 ぴょん、と私の空いた両ひざに飛び乗ってきたルーは、「いいから答えろ」とえらそうに続けてくる。
「オレ様には、そこそこ重要なことだ。もう一度問う。好きなやつはいるのか?」
 好き? 好きぃ!?
 なんで、そんなことが重要なわけ?
 わ、私が好きなのは……好き、なのは……!
「その態度は、あからさまだな」
 ぼそ、とルーがあきれたようにつぶやく。
 その見透かされたような態度に、私はバッと身体を起こして叫んだ。
「てか、いないし! むしろ、あんこが好きだし!」
「あんこ? だれだ、それは」
「あんこは、あんこだし! あんこは、私の世界を救ってくれるんだから!」
「世界を救う? なるほど……、そういうことか」
 一人で納得したらしいルーは、私の膝から軽やかにおりていく。トコトコと移動して窓辺のスペースに飛びあがると、伏せの格好で動かなくなってしまった。
 なんだったの……、いったい……。一気に、疲れたし……
 好き? 好きってなに? あんこが好きなのは、確かだけど。
 グルグルグルグル。さっきのルーの質問が、頭の中を何度も何度も駆けめぐっていく。答えは……、出てくるわけがない。
「もう寝よ……」
 脱力してベッドに横になると、私は目を閉じた。けど、すぐに見開く。
「って、眠れないしっ! ああもう、ルーの馬鹿っ!」
 ゴロン、と寝返りをうつ。そして、ゴロンゴロンゴロンゴロン――眠れないぃぃぃいい!
 なかなか訪れてくれない睡魔に、私は悶々としながらその夜を過ごすことになってしまった。
 次の日。前日までのいろいろな疲労がたまっていたせいか、すっかり寝過ごした私は、ぼうっとする頭をかかえながら部屋を出た。
 隣の部屋に、サリューはいなかった。どこに行ったんだろう、と疑問に思う前にだれかの叫び声がひびいてくる。サリューじゃない、昨日の執事とかいう人でもない。
 吹き抜けになっている階下をのぞきこんでみれば、奥に通じる両扉が開け放たれているのが見えた。
 もとの部屋に戻った私は、窓辺でまだ寝ていたルーを肩に乗せてから階段をおりて、扉の外側で中をうかがってみる。
 そこは、広間になっていた。壁一面が真っ白で、窓もカーテンもない。天井にはきらびやかなシャンデリアが輝いていて、左側には豪華なソファーとテーブルのセット。その隣でカーペットに座りこんだだれかと、その人を見おろしているエレナイの団服を着ただれか。深々と白いベレー帽をかぶった見覚えのないこの人が、もしかして地の騎士なのかな?
 入口近くの壁によりかかって腕を組んだサリューを見つけて、私はそちらに歩み寄った。
「サリュー」
「あん? 今頃、お目覚めかよ。随分、ごゆっくりな登場だな」
「ごめん。昨日、寝つけなくて。部屋にきて、叩き起こしてくれてもよかったのに」
「んなことできるか、阿呆。てめえも一応、…………な」
「は、はあ? まあ、いいや。えっと、今どうなって?」
「簡単に言えば、もめてるってやつだな」
 ひょい、と肩をすくめるサリュー。
 「違う!」と悲痛な叫びが飛びこんできて、私はそちらに目をやった。
「わたしは、そんなコロシアムやバトルロイヤルなんて、これっぽっちもきいたことがない!」
「ここにきてまで、嘘はつかないでよ。証拠はいろいろとあがってる系なんだから、さっさと認めてくれた方がこっちも楽なんだよね」
 ハスキーな声が、淡々と告げる。
「嘘もなにも、やっていないものはやっていない!」
 必死に否定する悲痛な声の持ち主に、ハスキーな声の人が一枚の板のようなものを差し出す。
「これ、なーに?」
「な、なんだ、それは」
「あれ、忘れちゃった系? 見た目どおりの頭足りない系かー。そちらさんがねえ、あの集落で作っていたバトルロイヤルの招待状の原本ってやつ。日時、場所、そしてかけ金の下限額。これを印刷して、懇意にしている権力者や豪族、闇の商人たちに送っていた系なんでしょ?」
「そ、そんなのでたらめだ!」
「これと一緒に、ダッサダサの黒装束も押収した系なんで。あのコロシアムの関係者は全員、ああいう黒装束を身に着けていた系みたいだし?」
「それは、あのお方にお仕えするための衣装だ! コロシアムとは、関係ない!」
「まったく、頑固すぎ。その頭はもしかして、考えるためには作られていない系? そちらさんがこの町の地下でバトルロイヤルを開催して、そこで莫大な利益を手にしていたことは明白系なの。いいかげん白状してくれないと、ボクも面倒なんだよね」
「知らないものは知らない!」
 さっきからずっと否定はしているようだけど、証拠とかいろいろ出ているんだ。なら、私の出番はなさそうかな?
 やり取りをぼんやりながめていると、横からサリューが声をかけてきた。
「……おまえ、どう思う?」
「どう思うって言われても、なんとか系って変わった口癖ですね」
「は?」
「いえ、こっちの話です。えっと、あの座りこんでいる人が例の主催者なんじゃないの?」
「そうらしいが、どうもさっきから引っかかる」
「引っかかる? なにがですか?」
「あいつ、そんな大それたことをしそうなタマか?」
 サリューがあごでクイ、と『あいつ』を示してくる。
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