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5.『10年』よりも『1日』
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「あ」
「フフッ。これで、通算十三回目。リセット後だと、三回目だね」
ニコッと告げられ、私はうっとつまる。
な、なにげに回数を重ねてしまっている。
集中、集中……
「ちょうどナイツに必須な技術の一つだったっていうのもあって、こっちの世界の踊りを頑張って覚えたんだ。いつか美結さんと踊れたらいいな、て。だから今――、すごく嬉しい。おれにとっては、十分なご褒美だよ」
「……っ」
足元ばかり見ていたはずなのに、上からのささやき攻撃をまともにくらったせいで、私は両肩をはねあげてしまう。
ヤ、ヤバイ!
くずれた態勢を懸命に戻そうとするけど――ブミッ。
「四回目。リーチだね、美結さん」
「ぐっ……!」
ま、まさか、狙っているんじゃないでしょうね?
疑ってみるけど、目が合ったとたん曇りのない藍色の眼差しにぶつかって、そらすにそらせなくなってしまう。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。やって、しまった……!
まるで、ロボットのようなぎこちなさMAXの動きになってしまう私。
間を置かずに、ブミッとやるのは当然だった。
デスヨネェ、と私はあきらめムードで息をついた。
次は、どんなペナルティを――
「美結さん」
静かな声で名前を呼ばれて、私は思わず足をとめた。
「は、はい」
「さっきの約束、早速つかわせてもらうね?」
「へ? ……あっ」
つかまれた左手の指の間に秋斗くんの指がからんできて、強くにぎってくる。
熱い、手のひら。私が硬直していると、さらに彼は私の手の甲に口づけを――ってひいいいい!?
反射的に手を引っこめそうになった私を、かすかに頬を赤くそめた秋斗くんが不安げな表情でのぞきこんできた。
「やっぱり、嫌? 嫌ならやめる。前にいろいろと教えてもらってきたんだけど、おれは美結さんにこれ以上嫌われたくない」
「えっ! あ、えっと、ええっ!?」
ど、どこでそんなこと覚えてきたんですか……!? 教えてもらったって、だれに!? その割に、すごく自然にやっていませんか!?
混乱する私の右手が、自分の頬に伸びていく。
それが、やんわりとはばまれた。
「嘘はつかない約束だよ?」
「あ……っ」
そう、だった。
右の頬をなでられて、気づく。自覚のない癖って、こういうとき不便だ……
真っすぐな藍色の瞳から、逃げられそうにない。困ったな……、逃げ道がふさがれてしまってる。
私は短い嘆息と一緒に、うつむいた。
「……嫌じゃ、ないよ」
ようやくしぼり出せた声は、自分でも驚くほど小さなものだった。
そもそも、誰がきみのことを嫌いになったっていうのよ。前にもそんなことを言われたけど、むしろ指輪を返して欲しいと言われた私の方が、嫌われたと思う方が普通でしょうが……
「よかった」
ホッ、と秋斗くんの顔が少しだけほころぶ。
左手をにぎられたまま、彼が片膝をついた。流れるような動作に意識を奪われていたけれど、よくよく考えたらこれって……!
息をのむ私に、藍色の真摯な瞳が下からジッとそそがれてくる。
「時や場所、ムードはさすがに自信ないけど……、おれなりに考えてみたんだ」
そこで、秋斗くんはいったん言葉を区切った。
秋斗くんの指先、少しだけどふるえてる。
「ごめん。ちょっと、あらためると緊張しちゃって……」
自嘲気味に笑う彼に、私は小さくうなずいた。
「うん、伝わってる。だから、ちゃんと待ってる」
「ありがとう」
ふう、と秋斗くんが深く息をついだ。
「……おれは、これからもずっときみと一緒にいたい。きみを、守り続けていたい。だから、美結さん。おれと、――――さい」
「フハハハハハハハ!!」
秋斗くんの言葉が、どこからかはさまれた高笑いにかき消される。
って、この声は……!
「ついに! ついにこの時が、きた! ついに、完全なるオレ様のターン!!」
きき覚えのある、そのハイトーンな声。
それを途中から完全になかったことにして、私は秋斗くんを真っすぐに見つめ返した。
「……ねえ、秋斗くん。きいてもいい?」
「も、もちろん。でも、えっと……」
秋斗くんの視線が、困ったように横へむけられる。
そちらの方から、ハイテンションな念仏のようなものがずっと流れ続けてくるけど、スルースルー!
私はてっきり、もうその意志はなくなったんだと思っていた。
でも、さっきの言葉。きき間違えじゃなかったのなら――
「きみは、どうして――」
「おい、ペタコ! オレ様のありがたすぎる演説、ちゃんときいているんだろうな!? 貴様の耳が高貴すぎるオレ様の声音をききとれないのは当然かもしれんが、今この時はしっかりその耳をかっぽじってよくよく拝聴するがいい。貴様は、ペタコの分際でいつもいつもいつも……」
「ああ、もう! ペタコじゃない!」
私は声のする方にむかって、叫んだ。
「フフッ。これで、通算十三回目。リセット後だと、三回目だね」
ニコッと告げられ、私はうっとつまる。
な、なにげに回数を重ねてしまっている。
集中、集中……
「ちょうどナイツに必須な技術の一つだったっていうのもあって、こっちの世界の踊りを頑張って覚えたんだ。いつか美結さんと踊れたらいいな、て。だから今――、すごく嬉しい。おれにとっては、十分なご褒美だよ」
「……っ」
足元ばかり見ていたはずなのに、上からのささやき攻撃をまともにくらったせいで、私は両肩をはねあげてしまう。
ヤ、ヤバイ!
くずれた態勢を懸命に戻そうとするけど――ブミッ。
「四回目。リーチだね、美結さん」
「ぐっ……!」
ま、まさか、狙っているんじゃないでしょうね?
疑ってみるけど、目が合ったとたん曇りのない藍色の眼差しにぶつかって、そらすにそらせなくなってしまう。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。やって、しまった……!
まるで、ロボットのようなぎこちなさMAXの動きになってしまう私。
間を置かずに、ブミッとやるのは当然だった。
デスヨネェ、と私はあきらめムードで息をついた。
次は、どんなペナルティを――
「美結さん」
静かな声で名前を呼ばれて、私は思わず足をとめた。
「は、はい」
「さっきの約束、早速つかわせてもらうね?」
「へ? ……あっ」
つかまれた左手の指の間に秋斗くんの指がからんできて、強くにぎってくる。
熱い、手のひら。私が硬直していると、さらに彼は私の手の甲に口づけを――ってひいいいい!?
反射的に手を引っこめそうになった私を、かすかに頬を赤くそめた秋斗くんが不安げな表情でのぞきこんできた。
「やっぱり、嫌? 嫌ならやめる。前にいろいろと教えてもらってきたんだけど、おれは美結さんにこれ以上嫌われたくない」
「えっ! あ、えっと、ええっ!?」
ど、どこでそんなこと覚えてきたんですか……!? 教えてもらったって、だれに!? その割に、すごく自然にやっていませんか!?
混乱する私の右手が、自分の頬に伸びていく。
それが、やんわりとはばまれた。
「嘘はつかない約束だよ?」
「あ……っ」
そう、だった。
右の頬をなでられて、気づく。自覚のない癖って、こういうとき不便だ……
真っすぐな藍色の瞳から、逃げられそうにない。困ったな……、逃げ道がふさがれてしまってる。
私は短い嘆息と一緒に、うつむいた。
「……嫌じゃ、ないよ」
ようやくしぼり出せた声は、自分でも驚くほど小さなものだった。
そもそも、誰がきみのことを嫌いになったっていうのよ。前にもそんなことを言われたけど、むしろ指輪を返して欲しいと言われた私の方が、嫌われたと思う方が普通でしょうが……
「よかった」
ホッ、と秋斗くんの顔が少しだけほころぶ。
左手をにぎられたまま、彼が片膝をついた。流れるような動作に意識を奪われていたけれど、よくよく考えたらこれって……!
息をのむ私に、藍色の真摯な瞳が下からジッとそそがれてくる。
「時や場所、ムードはさすがに自信ないけど……、おれなりに考えてみたんだ」
そこで、秋斗くんはいったん言葉を区切った。
秋斗くんの指先、少しだけどふるえてる。
「ごめん。ちょっと、あらためると緊張しちゃって……」
自嘲気味に笑う彼に、私は小さくうなずいた。
「うん、伝わってる。だから、ちゃんと待ってる」
「ありがとう」
ふう、と秋斗くんが深く息をついだ。
「……おれは、これからもずっときみと一緒にいたい。きみを、守り続けていたい。だから、美結さん。おれと、――――さい」
「フハハハハハハハ!!」
秋斗くんの言葉が、どこからかはさまれた高笑いにかき消される。
って、この声は……!
「ついに! ついにこの時が、きた! ついに、完全なるオレ様のターン!!」
きき覚えのある、そのハイトーンな声。
それを途中から完全になかったことにして、私は秋斗くんを真っすぐに見つめ返した。
「……ねえ、秋斗くん。きいてもいい?」
「も、もちろん。でも、えっと……」
秋斗くんの視線が、困ったように横へむけられる。
そちらの方から、ハイテンションな念仏のようなものがずっと流れ続けてくるけど、スルースルー!
私はてっきり、もうその意志はなくなったんだと思っていた。
でも、さっきの言葉。きき間違えじゃなかったのなら――
「きみは、どうして――」
「おい、ペタコ! オレ様のありがたすぎる演説、ちゃんときいているんだろうな!? 貴様の耳が高貴すぎるオレ様の声音をききとれないのは当然かもしれんが、今この時はしっかりその耳をかっぽじってよくよく拝聴するがいい。貴様は、ペタコの分際でいつもいつもいつも……」
「ああ、もう! ペタコじゃない!」
私は声のする方にむかって、叫んだ。
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