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しおりを挟むサリーシャは今日、婚約者のベックと結婚する。
化粧をされて、髪を結われながらベックを選んだ日のことを思い返した。
サリーシャは、ベックの他にレイノルズという令息からも婚約を申し込まれていた。
ベックは真面目で頭が良く、将来有望と言われていた。
レイノルズは明るく社交的で、こちらも将来有望と言われていた。
爵位も同じで、両親はどちらを選んでも構わないとサリーシャに判断を任せた。
サリーシャの気持ちは、レイノルズに惹かれていた。
だが二人に返事をする日、サリーシャは見てしまった。
レイノルズが別の令嬢を抱きしめているところを………
「私、浮気をする人は嫌です。お二人は愛人を持ったりする気はあるでしょうか?」
ベックが答えた。
「あるわけないじゃないか。僕はサリーシャ嬢一筋だと約束するよ。」
レイノルズも答えた。
「もちろん俺も浮気なんてしないさ。」
当然そう答えるだろうとサリーシャは思っていた。だけど聞きたかったのだ。
「そうよね。浮気が嫌だと言われて、する気だって答える人はいないわよね。だけど、レイノルズ様。私、さっき見たの。あなたが令嬢を抱きしめているところを。」
「あぁ、あれは告白をされたんだ。だけど俺はサリーシャ嬢が好きだから断った。だけど思い出に抱きしめて欲しいと言われたから応えただけだよ。」
抱きしめて欲しいと言われたから応えた。その答えに落胆した。
「そうですか。ですが、私はそれを浮気に準ずる行為だと思います。ですのでベック様と婚約します。」
ベックは満面の笑みで言った。
「ありがとう、サリーシャ嬢。とても嬉しいよ。」
レイノルズは驚いた顔で言った。
「抱きしめるのも浮気なのか?相手の希望に応えた方が面倒事にならずに済むじゃないか。」
レイノルズの言い方では、今まで似たようなことがあったに違いない。
「レイノルズ様は婚約者がいてもいなくても、おそらく面倒事を嫌って同じような対応をされるのでしょうね。今まで抱きしめる以外にも何か希望に応えたことがあるのではないですか?」
「……額や頬にキスして欲しいという希望に応えたことはある。だが、君が嫌ならもうしない。だから考え直してもらえないか?」
「レイノルズ様はなぜ私が嫌だと思っているのか、理解されていないように思います。私に見られていなければ問題ないのではないかと同じ対応を繰り返しそうです。」
「それは……勇気を出して告白してくれたのに応えられないんだ。だからできることなら叶えようと思うのは間違っていることか?」
「それがわからないレイノルズ様と私が婚約しても幸せになれるとは思えません。私はあなたの告白を断ってもあなたの希望に応えたいと思っていませんので。レイノルズ様は自分を思って下さる令嬢の中から婚約者をお選びになってはどうでしょうか。」
告白して断られても、レイノルズ様は希望に応えてくれる。
令嬢たちの中ではそんな情報が回っているのだと思う。
だからこそ、告白してくる令嬢が後を絶たないということにも気づいていない。
そんなレイノルズ様と婚約した場合、『抱きしめてもらった』『キスしてもらった』と私に伝えて不仲にしようと企む令嬢も出てくるはず。
婚約前のことなのか、婚約後のことなのか。
私は常に悩むことになりそうだと思い、レイノルズを信じられないという結論に達したのだ。
「私はベック様を選びます。」
この日から結婚式の今日まで、ベックを選んだことを後悔したことはないと鏡に映るウエディングドレス姿の自分を見て微笑んだ。
…………この直後、ベックを選んだことを後悔することになるとはまだ知らなかった。
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