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しおりを挟む今度は間違えないように、お互いの浮気の認識が違っていないかをサリーシャは確認したかった。
「必要最小限の接触以外で女性に触れること全部が浮気、かな。まぁ、少し大袈裟かもしれないけれど、つまり周りから疑われるような接触を浮気と思っていいんじゃないかと思う。もちろん、娼婦も浮気に入る。
以前の俺は、見た目に寄って来る令嬢をあしらうには少し満足させてやればいいと思うような傲慢さがあった。だけど、サリーシャ嬢に振られてから思ったんだ。自分が逆の立場であれば、他の女性に触れる男なんて信用できないって。女性の希望に応えることが誠実なんじゃない。愛しているのが自分だけだと信頼してもらえるような行動をとることが誠実なんだって。」
自分のことを俺って言っていたのに、私と言い始めた頃からレイノルズが女性の希望に応えるという噂はなくなっていった。自分を変えたかったのだろう。
「私、あなたを選ぼうと思っていたのよ?」
「……うん。そうだろうと自惚れていたから落ち込んだ。好きな人が自分以外の人に笑いかけて触れる姿を見ることがあんなに辛いとは思わなかったんだ。君はあの日、俺が他の女性を抱きしめていた姿を見た。こんなに辛い思いをさせたのなら選ばれなかったのもわかると実感したよ。君に告白しておきながら不誠実な行動だったと反省した。」
話を聞いてはいるが、黙ったままの父の様子をチラッと伺った。
「お前が決めればいい。自分で選んだ方が後悔しないだろう。」
以前も父は私に選ばせてくれた。
あの時、ベックを選んだことに後悔はなかった。
今、後悔しているのは、浮気の認識が違っていたことに気づかなかったことだ。
レイノルズは以前の自分を後悔して行動を改めた。浮気の認識にも自分との違いはない。
そして、今でも好きだと言ってくれたことが嬉しいと感じている。
私はどこかでレイノルズに対する気持ちを忘れていなかったのだろう。
「レイノルズ様、あなたを選ぶわ。私と結婚してください。」
「ありがとう!あぁ、泣きそうなくらい嬉しいよ。」
レイノルズの目は潤んでいた。私はこの選択を後悔しないだろう。
結婚式当日に浮気が発覚した哀れな女だと陰口を言われることよりも、簡単に心変わりする女だと周りから思われる方を選ぶ。体面を気にして自分の未来に光射す求婚を逃す後悔などしたくないから。
こうしてベックとの結婚が無くなった日にレイノルズとの結婚が決まり、我が家では祝杯をあげることになった。
ちなみにベックとベックの上司は取り調べを受けた後、外交官をクビになった。
どの国でもベックの上司は女性を伴う接待を受けるリストに載っており、毎回そういう待遇を受けていた。
その上司に連れられてそれが当然だと教えられたベックもまたリストに載ってしまったために同じ待遇を受けていたという。ちなみに我が国の他の外交官はリストには載っていなかったらしい。
女性を手配して貰っていたからと言って、あからさまな優遇をしていた形跡はなかったために二人はクビで済んだようだった。
そして、幸いにも妊娠していたのはあの女性だけだったらしく、ベックは責任を取らされてその女性と結婚しなければならなかった。跡継ぎでもなくなり、親からは領地から出ることを禁止されているという。
隣国では女性の夫だった伯爵が『妻が外交官と惹かれ合う姿を見てしまったので自分が身を引いた』と言っているっらしい。10歳も若い妻を実家への援助と引き換えに娶っておいて子供ができなかった原因が妻ではなく自分だとわかった伯爵は、妊娠している妻が国に帰って来られないような噂を広めたのだ。
隣国では浮気して夫を裏切った妻が男を追いかけていったと言われている。
そのため、女性を子供と一緒に国に送り返すこともできず、子供の父親がベックだとこの国では広まっているため、領地でひっそりと暮らすしかなくなったのだ。
そして妻となった女性の家にも援助をしなくてはならなくなった。
だが産まれた子供は母親似でベックの色を持っていなかったため、何年経ってもベックは自分の子供だと認めていないらしいと風のうわさに聞いたが、レイノルズと2人の子供と幸せに暮らしているサリーシャにはどうでもいいことだった。
<終わり>
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