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しおりを挟む学園内でも婚約したことが認識されて、ヴィッテとディートは公認の仲になった。
だけど、今まで通りお互いに友人といることが多くあまり2人きりの姿は見られないが、クラスメイトだけは2人の会話に聞き耳を立てて密かに悶えている。
あのディートが、クールなディートが、無表情だったディートが、無口だったディートがヴィッテの前でだけは変わるから。
多くの会話はしない。
だけど、サラッとした会話の中で2人の親密度が上がっていくのがわかり、物語を見ている気分で楽しんでいた。
そんなことを知らない2人は、週末に行く場所を話すこともある。
コッソリと2人のデートを覗いたり先回りしたりしてまで見られているとは気づくまい。
そんな遠目に見られている植物園デートの最中に、ヴィッテは前から確認したかったことを聞いた。
「ディート様、私の告白の前に私の視線って感じていました?」
「視線?……見られていることはよくあるから。
殺気とかじゃない限り視線の元を辿ったりはしてなかった。」
「そっか。ならよかった。」
「……あぁ、ヴィッテは私の視線に気づいていたな。」
「ええ。見張られてるなーって思ってました。
あの時に、視線ってこんなに気づくものなんだって思って。
こっそりディート様を見ていたつもりでも煩わしい視線だったんだろうなぁって。」
すると、ディート様はいきなり私の頬にキスをした。
遠くでなぜか『きゃあ』って聞こえた。
「聞こえた通り、2人きりに思えても外では誰か見てるもんなんだ。
ただ見られてるだけじゃ煩わしいと思う時期も過ぎた。
邪な視線は嫌でも気づく。慣れ過ぎもどうかと思うけど、ヴィッテも慣れるさ。」
というか、気づいていなかったのに。
ディート様といるということは、誰かに見られてるということなのね。びっくり。
さすがにもう、ディート様は所有欲じゃなくて私を好きになってくれているとわかっている。
こうして人が見ていてもキスできる独占欲があるってことも。
しかし、『きゃあ』の声の主たちがクラスメイトであったとは2人は知らない。
仲睦まじい様子が他のクラスメイトにまで伝わって幸せのデートコースとして人気になることも。
頬にキスをした場所で婚約者にキスをされると幸せになれると密かなブームになることも。
別のデートコースでも同様に人気が出て、そのうち本になることも。
それを見たヴィッテとディートが行ったことがあるところばっかりだと笑うことも。
もし、振られるためのあの告白がなければ、ヴィッテとディートが将来を共にするということはなかったかもしれない。
ヴィッテは今でも不思議に思う。何で告白したのだろうと。
諦めるための区切りだと思ったことは間違いないけど、クラスメイトなのに!
まだ1年半は学園に通うのに!
振られてすぐに会ったギガルドが強烈なダメ男で、振られた羞恥さえ忘れてたけど……
ディートは今まで振ってきた令嬢を覚えているのだろうか?
確認してみたら、ほとんど覚えていないって。だよね。
じゃあ、私も笑顔さえなければ忘れられていたかな?
「ヴィッテはクラスメイトだし、笑顔以前に階段で落ちそうになったことも覚えていたから。」
忘れなかっただろう。そう言って、階段で支えてくれたように私の体に腕を巻き付けてきた。
「こういう感じだったろ?腕にヴィッテの胸の柔らかさと大きさ、腰の細さを感じる。
だから忘れようがない。あー結婚して初夜に見るのが楽しみだ。」
え?胸を?腰を?忘れなかったってソコ?
未だに腕を巻き付かれたまま抱きしめられて、そのまま深く口づけられた。
<終わり>
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