振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん

文字の大きさ
21 / 21

21.

しおりを挟む
 
 
学園内でも婚約したことが認識されて、ヴィッテとディートは公認の仲になった。

だけど、今まで通りお互いに友人といることが多くあまり2人きりの姿は見られないが、クラスメイトだけは2人の会話に聞き耳を立てて密かに悶えている。 

あのディートが、クールなディートが、無表情だったディートが、無口だったディートがヴィッテの前でだけは変わるから。

多くの会話はしない。
だけど、サラッとした会話の中で2人の親密度が上がっていくのがわかり、物語を見ている気分で楽しんでいた。

そんなことを知らない2人は、週末に行く場所を話すこともある。
コッソリと2人のデートを覗いたり先回りしたりしてまで見られているとは気づくまい。



そんな遠目に見られている植物園デートの最中に、ヴィッテは前から確認したかったことを聞いた。

「ディート様、私の告白の前に私の視線って感じていました?」

「視線?……見られていることはよくあるから。
 殺気とかじゃない限り視線の元を辿ったりはしてなかった。」

「そっか。ならよかった。」

「……あぁ、ヴィッテは私の視線に気づいていたな。」

「ええ。見張られてるなーって思ってました。
 あの時に、視線ってこんなに気づくものなんだって思って。
 こっそりディート様を見ていたつもりでも煩わしい視線だったんだろうなぁって。」

すると、ディート様はいきなり私の頬にキスをした。
遠くでなぜか『きゃあ』って聞こえた。 

「聞こえた通り、2人きりに思えても外では誰か見てるもんなんだ。 
 ただ見られてるだけじゃ煩わしいと思う時期も過ぎた。
 邪な視線は嫌でも気づく。慣れ過ぎもどうかと思うけど、ヴィッテも慣れるさ。」

というか、気づいていなかったのに。
ディート様といるということは、誰かに見られてるということなのね。びっくり。

さすがにもう、ディート様は所有欲じゃなくて私を好きになってくれているとわかっている。
こうして人が見ていてもキスできる独占欲があるってことも。



しかし、『きゃあ』の声の主たちがクラスメイトであったとは2人は知らない。

仲睦まじい様子が他のクラスメイトにまで伝わって幸せのデートコースとして人気になることも。

頬にキスをした場所で婚約者にキスをされると幸せになれると密かなブームになることも。

別のデートコースでも同様に人気が出て、そのうち本になることも。

それを見たヴィッテとディートが行ったことがあるところばっかりだと笑うことも。
 



もし、振られるためのあの告白がなければ、ヴィッテとディートが将来を共にするということはなかったかもしれない。

ヴィッテは今でも不思議に思う。何で告白したのだろうと。

諦めるための区切りだと思ったことは間違いないけど、クラスメイトなのに!

まだ1年半は学園に通うのに!

振られてすぐに会ったギガルドが強烈なダメ男で、振られた羞恥さえ忘れてたけど……

ディートは今まで振ってきた令嬢を覚えているのだろうか?

確認してみたら、ほとんど覚えていないって。だよね。
じゃあ、私も笑顔さえなければ忘れられていたかな?

「ヴィッテはクラスメイトだし、笑顔以前に階段で落ちそうになったことも覚えていたから。」

忘れなかっただろう。そう言って、階段で支えてくれたように私の体に腕を巻き付けてきた。

「こういう感じだったろ?腕にヴィッテの胸の柔らかさと大きさ、腰の細さを感じる。
 だから忘れようがない。あー結婚して初夜に見るのが楽しみだ。」

え?胸を?腰を?忘れなかったってソコ?

未だに腕を巻き付かれたまま抱きしめられて、そのまま深く口づけられた。




<終わり>
 

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

一番でなくとも

Rj
恋愛
婚約者が恋に落ちたのは親友だった。一番大切な存在になれない私。それでも私は幸せになる。 全九話。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。

ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。 いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。 そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

この恋は幻だから

豆狸
恋愛
婚約を解消された侯爵令嬢の元へ、魅了から解放された王太子が訪れる。

処理中です...