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しおりを挟む孤児院を出て教会の方に戻りながら、聞いてみた。
「おじいさんは、どうして私に孤児たちを見せようと思ったのですか?」
「それはね、お嬢さんから覇気を感じないからだよ。
子供というのは見ているだけでも元気をもらえる。
おそらく君は、貴族令嬢だろう?手が綺麗だ。働いている手じゃない。
だけど、侍女が一緒ではなくて一人だ。保護者からあまり関心を向けられていないのではないか?」
「……そうですね。家族とは会話がありません。嫌われていますから。
こんなに喋ったのは久しぶりです。」
「暴力を振るわれたことは?」
「それはないです。……そんな気も起こらない存在ですかね。
勉強も礼儀作法も途中で終わりました。
学園に行く必要はないと言われました。
その後は話しかけられたことはありません。」
「それは……そのメガネのせいか?」
「そうです。恥ずかしい、みすぼらしいと言われてきました。
目が悪くなるたびに、両親は私を諦めました。」
「君を諦めたのはご両親だけでなく、君自身もじゃないのかい?」
「……はい。先ほど気づきました。
指示がないから、と何もしていない自分に。
勉強を教えてくれる人がいなくても、自分で方法を探せばよかったのですね。
使用人の中にも会話をしてくれる人を探せばよかったのですね。
こうして話しかけられるのを待つだけでは外に出ても会話があるはずもないです。
どんどん分厚くなるレンズに、自分も目を背けていました。」
「誰とも会話がないと、覚えることも気づくことも難しくなるんだろう。
私は毎日のようにここに来る。神父も子供たちもいるよ。
話したり覚えたり教えてもらったり。お嬢さんが望めば答えてくれる者は必ずいる。
自分にできることを探していくといい。」
「あと一年と少しの間に見つかるでしょうか……」
「それは何の期限なんだい?」
「16歳になるまでの……多分、その後はどこかに出されます。」
「縁談か?婚約者は?」
「いません。働きに出されるのだと思うのですが……」
「うん?よくわからないな。
侍女やメイドの仕事を学んでいるわけでもないんだろう?
そのつもりなら既に働かされていてもおかしくはない。
メイドなら16歳まで待つ必要もなく働けるし。
侍女としてなら貴族としての礼儀作法は必須だ。
失礼だが、肌や髪を特別に手入れされている風でもないし。
16歳とは結婚できる歳だが、ご両親は君に何の教育せずに嫁がせるつもりなのか?」
お互いに首を傾げて考えたが、やはりわからなかった。
「まだ時間はある。やりたいことが見つかれば、自分から家を出れるかもしれないし。
どうしても困ったことがあれば、その時はここに逃げて来るといい。
考えたくもないが、娼館に売られるとか借金のカタに誰かに売られるとか。
不穏に思ったら、早めに動くんだよ。連れて行かれては手遅れだからね。」
娼館という言葉にピンとこなかったミーシャは『しょうかん?』と首を傾げてしまった。
おじいさんは苦笑して、娼館で働く女性を娼婦といい、男性に体を差し出してお金を稼ぐ仕事だと教えてくれた。
貴族令嬢にとっては辛い仕事で、心身共に壊れやすいらしい。
具体的にはわからなかったが、娼婦という言葉は聞いたことがある。
あまり好まれない職業だということは当たっていたらしい。
『逃げる』選択があることもわかった。
「ありがとうございます。ここがあると思ったら前向きに頑張れる気がします。」
ミーシャは久しぶりに笑みをこぼし、おじいさんとまた会う約束をして帰った。
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