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マリエッタがフレージュに声をかけてきた次の日、今度はウィリアムが話しかけてきた。
「久しぶりだな、フレージュ。」
「……お久しぶりです。何か?」
「何かって……、あのさ、明日、久しぶりにあの場所に行くからさ、よろしくなっ!」
ウィリアムはフレージュの愛想のない返事に少し顔を引きつらせてそう言い、フレージュの返事を聞かないまま去って行った。
「どうするの?」
「行かないわ。ふふ。あの場所に行っても困るでしょうにね。」
実は、フレージュとウィリアムが婚約者の日に過ごしていたあの場所は、もう違う婚約者たちが過ごす場所になっていた。
別にフレージュたちの指定席ではないのだから。
そして翌日の昼食時、フレージュはいつものようにフランチェスカと個室に向かい、マリエッタはフレージュたちを気にしながらもウィリアムを捕まえるためか、バタバタと走って行った。
「……あの子、どんどんガサツになってる気がするんだけど。」
フランチェスカの呟きに、フレージュも同意した。
マリエッタは子爵令嬢。
貴族の令嬢は、非常時以外で走ることなど滅多にない。
周りの令息令嬢たちも、さらには平民たちも、マリエッタにぶつからないように脇に逃げていた。
「必死になると、周りが見えないのでしょうね。」
彼女は鬼気迫る顔をしていそうだ。
ウィリアムを無事に見つけられるのか、ウィリアムはマリエッタを振り切ってあの場所に向かうのか。
あるいはマリエッタも連れてあの場所へ?
どうなったかは、見ていた誰かが教えてくれるかもしれない。
フレージュは結果だけを聞いて笑いたかった。
その日の帰り、ウィリアムがフレージュを待ち伏せしていた。
「フレージュ、どうして来なかったんだ?というか、違う男女があの場所にいたぞ?お前、あそこで食べていたんじゃないのか?
せっかく今日は美味い昼食が食べられると思ったのに。
マリエッタの昼食はもう飽きた。だから、また侯爵家の料理人の昼食を食べさせてくれ。俺の好きなのも入れるように頼んでおいてくれよ?」
マリエッタはウィリアムに恋してもらおうと、毎日毎日ウィリアムに持参した昼食を食べてもらっていた。
フレージュは友人たちと昼食をとる日は、食堂で食べている。
ウィリアムもマリエッタに誘われるまではそうだった。
しかし、食堂には人が多く、婚約していないマリエッタとウィリアムが二人でいるところを見られるのはまずい。
ウィリアムを確実に振り向かせるまではマリエッタも人目を気にする。
となると、毎日マリエッタの昼食になるため、似たものばかりで飽きるのは当然である。
よく三か月もウィリアムは我慢したものだ、とフレージュは思った。
「私たちの婚約は解消されています。なので、もうあなたと昼食をともにすることはありません。」
フレージュはようやく、ウィリアムに知らせることができた。
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