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しおりを挟む貧乏伯爵令嬢ソレーユは、現在、伯父であるタフレット公爵の温情により公爵家に住まわせてもらい、学園に通っている。
今から1年半ほど前、まだソレーユが16歳で学園に通い始めて1年が経とうとする頃、伯爵領が大雨による災害で大きな被害を受けた。
両親は、領地へ向かう途中で土砂崩れに巻き込まれて亡くなり、卒業間近だった兄が伯爵を継ぐことになった。
領地の被害は、伯爵家を一気に貧乏に落とし、兄の婚約もソレーユの婚約も無くなった。
兄は卒業後、王都の屋敷も売り払って領地に戻り、復興に力を注ぐ。
ソレーユは、学園の寮に入って王宮の侍女になるためにあと2年通うつもりだった。
しかし、母の兄であるタフレット公爵が『公爵家から通えばいい』と言って下さり、寮の方が気楽で良かったけれど伯爵領に援助をしてくれていた手前、断り辛くお世話になることにした。
が、これは大きな失敗だった。
その原因は、同い年の従姉、ローザリンデにあった。
ローザリンデは、さすが公爵令嬢と言われるほど教養も人望も美貌も兼ね備えた令嬢である。
1歳上のレジャード公爵令息ベネディクトが婚約者で仲も良い。
しかし、完璧であろうとするのは素のローザリンデではなく、作られた令嬢。
表と裏がある令嬢はそこそこいるだろう。
そのストレスの捌け口を、ソレーユに嫌がらせすることで楽しむような性格だった。
「ソレーユ、来るのが遅いわ。呼んだらすぐに来ないと王宮侍女にはなれないわよ。
そんなんじゃ、すぐに首になるわ。
私は優しいから、簡単には首にしない。公爵家に嫁ぐ時に連れて行ってあげるから。」
「すいません。図書館に寄っていて帰ったばかりだったのです。」
「あぁ、あの課題ね。私の分もやらせてあげるわ。
ちゃんと、字も私に似せるのよ。
あなたの分と内容が被りすぎないように、ちゃんと考えてね。」
ローザリンデは公爵令嬢で、幼い頃から家庭教師が教えていたので勉強はできる。
だけど、面倒なことはしたくないので、ソレーユに押し付けるようになっていたのだ。
一度、試験でソレーユがローザリンデを抜かした時、立場を弁えろと怒られた。
それ以来、ソレーユはローザリンデよりも上にならないように調整している。
あまりにも悪い成績だと、王宮侍女にはなれないためだ。
「わかりました。」
課題の他は、専属侍女と同じようなことをやらされることもある。
髪を洗ったり、マッサージをしたり、着替えを手伝ったり、買い物に行かされたり。
だけど、これらは侍女になるために必要なことだと思い、言われたことに従っている。
困るのは、勘違いしているローザリンデの他の侍女たちだった。
ローザリンデから言われた侍女の仕事をソレーユに押し付けようとする。
可能なことであれば対応することもあったが、最近は頻度が高い。
ソレーユと違って、給金を貰っている侍女として仕事はするべきである。
「だから、明日の朝一番に必要なのに予約を忘れたの。頼んできて。」
「それは私の仕事ではありません。あなたが責任を持って対応するべきでしょう?」
「ローザリンデ様に侍女扱いされているんだから、あなたがしてもいいじゃない。」
「勘違いしないでください。私はローザリンデ様の侍女ではありません。」
「だったら何なの?侍女じゃないなら奴隷?笑えるわね。」
「奴隷?この公爵家に?聞き捨てならないな。」
ソレーユとローザリンデの侍女との会話に入り込んできたのは、ローザリンデの婚約者であるベネディクトだった。
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