離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

15.

　
　
オラン伯爵家に起きた様々な出来事は、悪女アビゲイルが原因ということで社交界では周知されていた。

事実そうであると言えるのだが。

亡くなったボルトは、前妻を大切にせず離婚し、遊び相手だったアビゲイルに自分の子を妊娠していると思い込まされて再婚した愚か者という評価と、それでも我が子じゃない子供を身を挺して守ったという美談が囁かれるために、一時は社交界で話題にはなったが、それだけのことだった。


悪女アビゲイルの数々の真偽の怪しい噂話の方が長く語られたためだ。

婚約破棄に追い込んだ○○家と△△家と□□家との男は平民になった。
子供デールの実父はボルトを殺した犯人で、アビゲイルとよりを戻したかった。子供を狙ったというのは勘違いだ。
アビゲイルはオラン伯爵夫妻を殺害しようと毒を盛っていた。
義娘リディアを虐待したのは、加虐趣味のある男に売るためだった。
過去に関係を持った男たちを脅すつもりだった。
アビゲイルが結婚後も不貞をしていたのを知っている。相手は既婚者の………
罪を償ったら、また男を誘惑するのではないか。


伯爵夫妻に毒を盛ったとは言え、軽いもの。今は回復しているし殺害する気はなかった。
リディアへの虐待も、悪質ではあるが命にかかわるほどのものではなかった。
托卵や不貞はそもそも個人的に処理される罪なので、刑罰には含まれない。

アビゲイルは重犯罪人というほどではない。
殺人を起こしたワーレル・ネイビルの方が重犯罪人なのだから。
　
アビゲイルに与える罰をどうするかはいろいろ意見が出た。
オラン伯爵家からはアビゲイルもデールも籍を抜かれて男爵家に入っていた。
しかし実家の男爵家からも籍を抜かれたので、平民になった。
貴族でいるより平民になった方が罪は重くなる。
数年で刑を終えてしまうと、また男を惑わせるのではないかと危惧されたが平民なら重くできる。

30歳になろうが、あの顔と体を欲しがる者はいるはず。
娼館にでも入れば喜んで通う男たちが増えそうで、そんな罰は罰じゃないと頭を悩ませる。　

最終的に少なくとも10年は拘束できる場所に入れるべきだということになった。

過酷な環境にある修道院で、内職及び薬草を育てながら15年過ごす。
あるいは、
鉱山で働く罪人の男たちの慰み者として10年過ごす。
　
これのどちらかをアビゲイル本人に選ばせることになった。

アビゲイルが選んだのは………やはり慰み者になることだった。

男に抱かれないと我慢できないのだろう。
アビゲイルらしい選択だった。
だが、彼女は鉱山で男の相手をする女性が10年後に生きていられる確率を知らない。
生きていられたとしても、穴という穴、正しい穴も後ろの穴も口の中も正常な状態で出てこられることはないのだから。
だけど、そちらを選んだのはアビゲイル本人。文句は言わせない。

まぁ、うまく場を纏めることができれば、ひょっとすると快適に過ごせるかもしれないが。

実際、アビゲイルは自分の体を壊されないように男たちを上手くあしらいながら相手をし始めた。
だがアビゲイルの体を気に入った男たちは、自分たちのエリア専属にしようと拉致をする。
執拗に抱かれては別の男たちが暴力で奪い返し、また違うエリアで貪られれば別の男たち。
アビゲイルの思い通りにはならず、秩序がなくなり、結局わずか半年でボロボロの体になった。

男を弄んできたアビゲイルは、結局男によって人生を終えた。


リディアは、アディールの学園時代の友人である侯爵の次男ローグと婚約を結ぶことになった。
２歳年上のローグはとても優しくてリディアを大切にしてくれる。
年老いたオラン伯爵の仕事を覚え、リディアが伯爵位を早く継げるように協力してくれた。
リディアも15歳からはオラン伯爵家に戻って勉強し、卒業後はローグと結婚してオラン伯爵夫妻を安心させた。

『ひ孫が生まれるまでは頑張るぞ！』とオラン伯爵は孫夫婦の新婚生活を見守り、ひ孫である男の子が生まれた年にリディアに爵位を譲った。
伯爵自身も若い時に爵位を継承していたため、近年では珍しいほど長くその地位にいた者となった。

リディアにとって、父はアディール、母はユーフィリア。だが、祖父母は３組６人だった。

ローグと結婚して、義両親もできた。

４歳～８歳の生活を忘れることはない。だけど、その後の生活はとても楽しくて幸せだった。

そんな幸せな家庭をローグと作りたい。

弟妹がリディアを姉として慕ってくれたので早く家族になれた。
だから子供は２人以上は欲しかった。兄弟の大切さが身に染みたから。

それから、リディアは子供を３人産み、誰も寂しい思いをすることのない温かな家庭を築いた。


＜終わり＞