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しおりを挟む娘のカサンドラが婚家から逃げたと聞き、父であるパモ公爵は大笑いをした。
「そうか。とうとう逃げたか。いやぁ、よくやってくれたよ。」
「連絡はありませんでしたか?」
「ない。あの娘が戻ってくるはずはない。私の娘ではないのだから。」
パモ公爵は、ブラッドリーを驚かせようとニヤつきながらそう告げた。
しかし、ブラッドリーは動じなかった。
「公爵の娘ではないと知りながら、我が公爵家に嫁がせたということですね。」
「はっ!そうだよ。何が因縁の公爵家同士の和解だ。
この公爵家を平民の血が流れているラインハルトが継ぐのを見て笑うつもりだったんだ。」
パモ公爵夫人は、庭師と関係を持ってしまったという。
温室で一人きりのお茶の時間を楽しむことが日課で、そこで花の世話をする庭師と親しくなっていったらしい。
しかし、夫と庭師のどちらの子供を妊娠したのかがわからなかった。
産まれてきたカサンドラを見て、庭師の子だと判断したという。
夫人が産んだため、体裁のために公爵の子だということにした。
「知っていましたよ。カサンドラがあなたの企みを教えてくれましたから。
ですので、ラインハルトはカサンドラが産んだ子供ではありません。」
カサンドラは初夜でブラッドリーにパモ公爵の企みを告げた。
そのことにより、2人は閨を共にすることはなかった。
しかし跡継ぎが必要であるため、そして、パモ公爵を欺くためにカサンドラと同じ色目の貴族令嬢に子供を産ませるという手段を取ったのだ。
「カサンドラの産んだ子供ではないだと?」
「ええ。あなたの企みをバラすことやカサンドラと離婚することも考えました。
ですが、この結婚は陛下からの王命です。
私の相手はカサンドラの姉でも良かったのに、あなたはカサンドラを選んだ。
しっかりと悪意がありますよね。
陛下に告げ口されたくなければ、協力してください。」
パモ公爵は、カサンドラの父親が平民だとバレればブラッドリーは離婚するだろうと思っていた。
そして、ラインハルトを跡継ぎにするのではなく、ブラッドリーがいずれ再婚した妻との間にできた子供を跡継ぎにするだろうとも思っていた。
ラインハルトが継げば面白いとは思ったが、それは成人してもバレていなければの話。
バレても血のつながった我が子をブラッドリーは捨てられないし扱いに困るだろうと思って。
しかし、パモ公爵は王命での結婚だということをすっかり忘れていたのだ。
告げ口されれば、王家からの信用は落ちる。
お互いに弱みがある形だった。
「……協力とは?」
「実はある女性が私の子供を妊娠しています。
もちろん、カサンドラの子供とするつもりだったのですが、彼女は逃げた。
ですが、逃げていないことにしたいのです。
彼女は今でも屋敷にいて、2人目を出産して亡くなった。
そういうことにしたいのです。」
「バカな!その女と再婚すればいいだろう?」
「いえ、単に産むだけの契約をした貴族令嬢ですから。
それにすぐに再婚したとなれば、パモ公爵家も馬鹿にされたように見られますよ。」
血のつながらない娘のせいで、自分の公爵家が馬鹿にされるのは嫌だろう。
「それに、カサンドラはあらゆる宝石を持ち出して逃げました。
つまり、うちの家紋入りの物も。
いつかそれを売るでしょう。すると、確実に捕まる。
彼女は自分を公爵夫人だと言うかもしれない。あるいは離婚の慰謝料だと言うかもしれない。
しかし、家紋入りの物を慰謝料の対象にすることはない。
問い合わせが来るでしょう。私はそのカサンドラは偽者だと言いたい。連れ戻すのも恥だ。
あなたのところにも問い合わせが来るでしょう。
血が繋がっていなくてもパモ公爵令嬢として王命で嫁がせた女が窃盗して逃げている。
あなたは彼女を引き取りますか?」
「……いや、うちの娘だと認めることはない。」
「お互いの公爵家の名を守るためには、出産後の死亡。それがいいと思いませんか?
逃げた女はカサンドラによく似た偽者。捕まろうが野垂れ死のうが他人です。
先にそう通達します。」
「わかった。それでいこう。」
パモ公爵は提案を受け入れた。
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