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18. 何?家出をした・・・だと?!
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ノアルファスは一人、ブツブツと呟きながら、自分の邸の前で馬車を降りた。
王族に連なる権力者であるバルモント公爵。そんな彼が、地面を見ながら俯き気味に何度も復唱しているのはフィリスに言おうとしている言葉だ。
『······フィリス、この間は本当にすまなかった。貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事を知りたいんだ』
『······フィリス、この間は本当にすまなかった。貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事を色々知りたいんだ』
『······フィリス、この間は本当にすまなかった。貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事をもっと知りたいんだ』
邸の扉が勢いよく開いて、女性が勢いよく飛び出してきたのを咄嗟に両手で受け止めてから、目を瞑って勢いよく頭を下げる。
「······フィリス、この間は本当にすまなかった!貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事を全て知りたいんだ!!!」
「あ······あの、ノアルファス様······申し訳ございません!!!」
あまりに一瞬の事で、その相手の顔も見れていなかったのだ。
フィリスのものではない、少し落ち着いた女性の声がして、ノアルファスは顔を上げた。
そして目の前にいる女性がフィリスではなく、ライラであることに気づき赤面する。
「っ、すまん、コレは······」
「ノア様、まずは私がフィリス様でなく申し訳ございません。ですが先にお伝えしなくてはならないことが······フィリス様が、家出なさいました」
”フィリスが家出をした”······フィリスが家出をした、フィリスが家出をした、フィリスが家出をした······。
その言葉が脳内でコダマする。
そしてその意味を理解し、ノアは邸の中に駆け込んだ。
「フィリス!」
そのまま階段を駆け上がってフィリスの部屋の扉を開けるが、いない。
「フィリス!!」
彼女の大好きなバルコニーにも、いない。
「フィリスッ!!!」
彼女はもう、この家に、いない。
その事実に、ノアは愕然とした。
「ライラ······先程、何故謝った?何かあったのか?彼女の行方は分かっているのか!?家出と言ったからには誘拐とかではないんだろうな?誘拐であれば······彼女の身に何かあれば!!!」
ガシガシと苛立ったように髪をかきむしるノアに、ライラは無言で頭を下げる。
直後、同じタイミングで後ろからボルマン医師も並び、頭を下げた。
「オイ!なんとか言え、ライラ!それにボルマン医師、何故お前まで頭を下げる?何かあったのか?······重大な病気?!お腹の子に何かあったとか······か?!」
「落ち着いて下さい、ノア様」
「こんなのが落ち着いていられるかッ!!!」
ライラはびくりと身体を震わせた。今までこの公爵家で彼のこんな慌てふためいた姿を見た事はない。
いつも冷静で、他人にはあまり興味がなく、特に女性関係は壊滅的。
女心が分かるなどというレベルに達しておらず、コミュ障のヘタレだ。
だが、これは······と目の前のノアをじっと見つめれば、ノアが罰の悪い顔をして顔を背けた。
「ノア様、一つお伺いしても?何故そんなに怒っているのですか?奥様とは契約結婚だから、子供を産む為の臨時妻だ、と散々仰っていたではありませんか」
「ライラ、ウルサイぞ······」
「いえ、大事な事です。大事な気持ちですよ、ノア様。今までずっとノア様が考えてこなかった気持ちですよね?有耶無耶にするのはもうやめませんか」
「ライラ!俺はお前の雇い主だぞ。立場を弁えろ」
「······分かりました。では、ご報告だけ致します。先日、ノア様が仕事が忙しいと言う理由から王城に立て籠もっていた時。エレイン様が来られました」
「継母上が······?」
ノアは、継母エレインを思い出して嫌な予感がした。
フィリスもとてもお転婆であまり貴族令嬢らしからぬ女性だが、エレインも違った意味で負けてはいない。
生粋の御姫様であり、天然ともいえる性格。だが、とても知的で行動力もあり、いつも心を見透かされているような気がして······ノアのあまり得意としない女性だった。
「はい。エレイン様です。奥様はエレイン様と共に、家を出られました」
「継母上と?どこに行った?今すぐ取り戻しにいく!」
「それは······分かりません」
「は?だが、フィリスは身籠っているんだぞ?悪阻で体調だって優れないはずだよな?馬車の振動だって良くないって聞いたんだ!」
ライラは目を丸くする。この主に、一体何があったのだろうか?と。
今までには考えられない位のフィリスへの執着。そして妊娠に関する知識と身体への気遣いスキルが格段に上がっている。
何か心変わりでもあったのだろうか······。
そんなライラの隣で、医師ボルマンが申し訳なさそうに口を開いた。
「公爵様、ですので僭越ながら、私の倅に奥様の臨時専属医として体調管理とチェックを指示しております。倅も今頃はフィリス様と共におりましょう」
「なるほど······何かあった時の為、ということか······まあ、継母上もレオンを産んでいるのだから知識はあるだろうが······」
『知識はあるのだろうか······なんて、全く知ろうともしなかったノア様が······?!なんて上から目線っ!!』
ライラはそのあまりの変貌にあんぐりと開いた口が塞がらなかった。
「はい。ですので、体調管理等妊娠中のサポートはご心配なさらずとも大丈夫かと思います」
「分かった。ボルマン医師、気遣い感謝する。······だが、やはり彼女には邸に居てもらわねばならない。公爵夫人として、この邸の女主人としても、誰もいないのは困るからな」
『奥様には公爵夫人として恥ずかしいから来客などが来ても彼女を誰にも会わせるな、と言っておきながら、この人は······』ライラは開いたままだった口を閉じると、内心で少し軽蔑の目を向けながらノアを見た。
そんなライラの前で、ノアは再び落ち着かない様子で右往左往し始める。
「そう考えると、継母上の家に向かった可能性が高そうだな。やはり、すぐに俺だけでも継母上の元に向かおう。早く連れ戻さなければ」
「でもノア様······それが、我々には分からないのですよ」
ライラが溜息まじりに呟けば、ノアがイライラしたように彼女を一瞥する。
「何故だ?」
「エレイン様は我々公爵家の人間に、情報を全て制限しております。誰も彼女に関する情報を持っておりません」
「なん······だって······?」
「もし分かるとすれば······ただ一人でしょう」
「······レオンか」
「はい。レオン様です」
ノアは顔を歪める。
今回の”フィリス拉致事件”、レオンが裏で噛んでいる事は確実。
彼はフィリスをとても気にかけており、彼女を蔑ろにしていた自分の態度に不満を持っていたのだから。
「待て······あいつの監視は?」
「学園の面接に行かれるという事で、着いて行かれていましたよ」
その時、そして彼の頭の中で、直ぐに点と点がつながった。
ダンッと音を立てて、壁を拳で叩く。
「そうか!アイツ、そのタイミングを狙ったのか······。本当に面倒な事をしてくれるッ!!」
ノアの心は、怒り、嫉妬、後悔、様々な感情で溢れていた。
そしてその感情を自分で分析し、収拾する能力など、高度なモノは彼には備わっていなかったのだ。
特にそれは、恋愛感情からくるものだったから······。
その夜、『魔法学園合格したよ~!』と清々しい顔で公爵家の扉を開けたレオンに、ノアは大股で近づくと彼の胸倉を掴んで見下ろした。
「話がある、来い」
そう言って突き飛ばされたレオンは、ダイニングへと入っていった兄ノアルファスを見つめて溜息をついた。
王族に連なる権力者であるバルモント公爵。そんな彼が、地面を見ながら俯き気味に何度も復唱しているのはフィリスに言おうとしている言葉だ。
『······フィリス、この間は本当にすまなかった。貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事を知りたいんだ』
『······フィリス、この間は本当にすまなかった。貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事を色々知りたいんだ』
『······フィリス、この間は本当にすまなかった。貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事をもっと知りたいんだ』
邸の扉が勢いよく開いて、女性が勢いよく飛び出してきたのを咄嗟に両手で受け止めてから、目を瞑って勢いよく頭を下げる。
「······フィリス、この間は本当にすまなかった!貴女の体調が優れている時、一緒に庭園でお茶でもどうだろうか?貴女の事を全て知りたいんだ!!!」
「あ······あの、ノアルファス様······申し訳ございません!!!」
あまりに一瞬の事で、その相手の顔も見れていなかったのだ。
フィリスのものではない、少し落ち着いた女性の声がして、ノアルファスは顔を上げた。
そして目の前にいる女性がフィリスではなく、ライラであることに気づき赤面する。
「っ、すまん、コレは······」
「ノア様、まずは私がフィリス様でなく申し訳ございません。ですが先にお伝えしなくてはならないことが······フィリス様が、家出なさいました」
”フィリスが家出をした”······フィリスが家出をした、フィリスが家出をした、フィリスが家出をした······。
その言葉が脳内でコダマする。
そしてその意味を理解し、ノアは邸の中に駆け込んだ。
「フィリス!」
そのまま階段を駆け上がってフィリスの部屋の扉を開けるが、いない。
「フィリス!!」
彼女の大好きなバルコニーにも、いない。
「フィリスッ!!!」
彼女はもう、この家に、いない。
その事実に、ノアは愕然とした。
「ライラ······先程、何故謝った?何かあったのか?彼女の行方は分かっているのか!?家出と言ったからには誘拐とかではないんだろうな?誘拐であれば······彼女の身に何かあれば!!!」
ガシガシと苛立ったように髪をかきむしるノアに、ライラは無言で頭を下げる。
直後、同じタイミングで後ろからボルマン医師も並び、頭を下げた。
「オイ!なんとか言え、ライラ!それにボルマン医師、何故お前まで頭を下げる?何かあったのか?······重大な病気?!お腹の子に何かあったとか······か?!」
「落ち着いて下さい、ノア様」
「こんなのが落ち着いていられるかッ!!!」
ライラはびくりと身体を震わせた。今までこの公爵家で彼のこんな慌てふためいた姿を見た事はない。
いつも冷静で、他人にはあまり興味がなく、特に女性関係は壊滅的。
女心が分かるなどというレベルに達しておらず、コミュ障のヘタレだ。
だが、これは······と目の前のノアをじっと見つめれば、ノアが罰の悪い顔をして顔を背けた。
「ノア様、一つお伺いしても?何故そんなに怒っているのですか?奥様とは契約結婚だから、子供を産む為の臨時妻だ、と散々仰っていたではありませんか」
「ライラ、ウルサイぞ······」
「いえ、大事な事です。大事な気持ちですよ、ノア様。今までずっとノア様が考えてこなかった気持ちですよね?有耶無耶にするのはもうやめませんか」
「ライラ!俺はお前の雇い主だぞ。立場を弁えろ」
「······分かりました。では、ご報告だけ致します。先日、ノア様が仕事が忙しいと言う理由から王城に立て籠もっていた時。エレイン様が来られました」
「継母上が······?」
ノアは、継母エレインを思い出して嫌な予感がした。
フィリスもとてもお転婆であまり貴族令嬢らしからぬ女性だが、エレインも違った意味で負けてはいない。
生粋の御姫様であり、天然ともいえる性格。だが、とても知的で行動力もあり、いつも心を見透かされているような気がして······ノアのあまり得意としない女性だった。
「はい。エレイン様です。奥様はエレイン様と共に、家を出られました」
「継母上と?どこに行った?今すぐ取り戻しにいく!」
「それは······分かりません」
「は?だが、フィリスは身籠っているんだぞ?悪阻で体調だって優れないはずだよな?馬車の振動だって良くないって聞いたんだ!」
ライラは目を丸くする。この主に、一体何があったのだろうか?と。
今までには考えられない位のフィリスへの執着。そして妊娠に関する知識と身体への気遣いスキルが格段に上がっている。
何か心変わりでもあったのだろうか······。
そんなライラの隣で、医師ボルマンが申し訳なさそうに口を開いた。
「公爵様、ですので僭越ながら、私の倅に奥様の臨時専属医として体調管理とチェックを指示しております。倅も今頃はフィリス様と共におりましょう」
「なるほど······何かあった時の為、ということか······まあ、継母上もレオンを産んでいるのだから知識はあるだろうが······」
『知識はあるのだろうか······なんて、全く知ろうともしなかったノア様が······?!なんて上から目線っ!!』
ライラはそのあまりの変貌にあんぐりと開いた口が塞がらなかった。
「はい。ですので、体調管理等妊娠中のサポートはご心配なさらずとも大丈夫かと思います」
「分かった。ボルマン医師、気遣い感謝する。······だが、やはり彼女には邸に居てもらわねばならない。公爵夫人として、この邸の女主人としても、誰もいないのは困るからな」
『奥様には公爵夫人として恥ずかしいから来客などが来ても彼女を誰にも会わせるな、と言っておきながら、この人は······』ライラは開いたままだった口を閉じると、内心で少し軽蔑の目を向けながらノアを見た。
そんなライラの前で、ノアは再び落ち着かない様子で右往左往し始める。
「そう考えると、継母上の家に向かった可能性が高そうだな。やはり、すぐに俺だけでも継母上の元に向かおう。早く連れ戻さなければ」
「でもノア様······それが、我々には分からないのですよ」
ライラが溜息まじりに呟けば、ノアがイライラしたように彼女を一瞥する。
「何故だ?」
「エレイン様は我々公爵家の人間に、情報を全て制限しております。誰も彼女に関する情報を持っておりません」
「なん······だって······?」
「もし分かるとすれば······ただ一人でしょう」
「······レオンか」
「はい。レオン様です」
ノアは顔を歪める。
今回の”フィリス拉致事件”、レオンが裏で噛んでいる事は確実。
彼はフィリスをとても気にかけており、彼女を蔑ろにしていた自分の態度に不満を持っていたのだから。
「待て······あいつの監視は?」
「学園の面接に行かれるという事で、着いて行かれていましたよ」
その時、そして彼の頭の中で、直ぐに点と点がつながった。
ダンッと音を立てて、壁を拳で叩く。
「そうか!アイツ、そのタイミングを狙ったのか······。本当に面倒な事をしてくれるッ!!」
ノアの心は、怒り、嫉妬、後悔、様々な感情で溢れていた。
そしてその感情を自分で分析し、収拾する能力など、高度なモノは彼には備わっていなかったのだ。
特にそれは、恋愛感情からくるものだったから······。
その夜、『魔法学園合格したよ~!』と清々しい顔で公爵家の扉を開けたレオンに、ノアは大股で近づくと彼の胸倉を掴んで見下ろした。
「話がある、来い」
そう言って突き飛ばされたレオンは、ダイニングへと入っていった兄ノアルファスを見つめて溜息をついた。
応援ありがとうございます!
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