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追想の八夜目

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 私は視線を逸らそうとするけれど、頬を押さえられる。
 唇を奪われそうになったので、顔を横にして逃げた。キリムド様は笑う。

「ウィリエールの姿ならば、構わないんじゃないか?他の者がミリアに手を出そうとすれば、一網打尽だ」

「あ、あれは、約束ではありません。ただ、野ネズミがケセラスルン国へ戻りたいと言っていたので、連れて帰っただけです。どなた様なのか、私には分かりませんでした」

「不可思議な要求を疑うこともなく受け入れる。ミリアは危険だよ。ケセラスルン国で近衛兵となると聞き、なおさら危険だと感じたのを覚えている」

 フロスティン国との停戦協定の際に、軍神の巫女の役割りを教わるために、末娘の私は後方に控えていたのだ。近衛兵を志す少し前で、私は身の振り方を決めなければいけなかった。

 近衛兵にならないならば、すぐに婚姻せよと言われていたのだ。

 前線で何が起こっているのか分からないまま、私は死にかけていた野ネズミに出会った。キリムド様の魂を宿した、野ネズミだったらしい。助けてくれないか?と頼んできた野ネズミを私は懐に入れて、自国に帰った。

 馬車に乗り自国への道中で野ネズミは見る見るうちに回復していく。
 帰国し馬車のドアが開いた瞬間に、「ありがとう!人の姿になったら、必ず君を幸せにする」と言って野ネズミは走り去って行ってしまう。

 夢物語のような出来事だったけれど、その後近衛兵の訓練に謀殺されているうちに、忘れてしまっていた。

 私が近衛兵を目指したのは、姉のように軍神の巫女として行軍するのは私には向いていないと思ったからだ。
 行軍に付き添ったとしても、巫女はひたすらに待ち続けて、何一つ手を出せない。そんな役割りはもどかしすぎて、耐えがたいと思ったのだ。
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