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第2話 記憶喪失
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以前の私。
愛する旦那さんと2人で、子供たちを育てあげた。
旦那さんに先立たれた後は、田舎の一軒家に一人暮らし。
一人暮らしは寂しくて…
ずっと心が沈んでいた。
そんな中、ふと立ち寄ったパン屋で、パート募集の貼り紙が目に止まった。
思いきって応募したところ、なんと採用。
パン屋のパートを始めた。
朝早くからの仕事は大変ではあったが、パン屋のご夫婦は私と同年代で、優しく友人のように接してくれた。
だんだん気持ちが上向きになると、自分から友人へ連絡をとるようになった。
友人と時々 食事に行ったり、旅行へ出かけたり…楽しい時を過ごしていた。
それが…
今の姿はおそらく10代後半。
服装はシンプルなワンピースだが、肌や髪はよく手入れされている。
手足に傷跡がひとつもない。
もしかして、これは転生ってやつ?
私は誰なんだろう。
何か手がかりはないかと見回すが、バッグも見当たらない。
私は何も持たずに外に?
手ぶらで外を歩くかな?
何か事件に巻き込まれて倒れていた?
でもそれだと無傷で済むのかな~。
うーん、考えてもわからない。
私には、今の私の記憶がないんだ。
家もわからないんじゃ、帰れないじゃない。
どうしようーー
不安に包まれる中、無意識に首にかかっていた華奢なネックレスのペンダントトップをギュッと握りしめていた。
トントン
「おまたせ。
パン粥なら食べやすいかと思うよ。
さぁどうぞ。」
イケメンさんがパン粥とオレンジジュースを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
お言葉に甘えて、バクッ
クリーム系のスープに浸ったパンは柔らかでとびっきり美味しくて。
お腹が温まり、ほっこりする。
少しだけ不安な気持ちが軽くなった気がする。
人ってお腹が満たされると落ち着くんだな。
あー美味しい。
パクパク食べる私をじーっと見つめるイケメンさん。
食べづらいんですけど、彼が持ってきてくれたんだし、文句は言えないな。
「あの~、あなたの名前を教えていただけますか?」
「あー、自己紹介もまだだったね。
俺はリュカ。リュカと呼んでくれ。
このパン屋の看板息子。
君は?」
ここはパン屋さん?
看板息子って…自分で言う?
確かにイケメンからパンやおつりを手渡されると、嬉しいかも。
あーでも、ドキドキして恥ずかしいかな。
「私はーー、私は誰でしょう?」
「いやいや、それは俺が質問したんだからね。
俺って名前も教えたくないほど、怪しい?」
「いえ、そうではなくて…
本当にわからないんです。」
「えっ」
口元を手で押さえ、絶句してしまった彼。
「記憶喪失ってこと?」
「はい、おそらく。
どうしましょう?」
「どうしましょうって。
おいおい、困ったな。」
「あのー、ここパン屋なんですよね?
私を雇ってもらえませんか?
私、パン屋で働いた経験ならあります!」
「えっ?君が? 嘘だろ?」
頭の先から爪先まで観察されて、
「ないない。君のようなお嬢さんがパン屋っで働いたことがあるわけないだろ?
もし君が働いてたら噂になってるはずだ。
それに、ついさっき記憶喪失って。
ちょっと手を見せて。」
「はい。」
手を広げ、彼の方へと差し出す。
「こんな細くてキレイな手、本当は働いたことなどないんだろう?
親御さんか旦那さんが心配で探してるんじゃないか?
とりあえず届出を出しに行こう。」
えっ? 旦那さん?
私は既婚者の可能性があるってこと?
私はなぜ道端に倒れていたの?
「お願いします。このまましばらくここに置いてもらえませんか?
なぜ記憶がないのか…
もし忘れたいほど怖いものから逃げているのだとしたら、捕まってしまいます。
それに捨てられたのかも。
できれば状況がはっきりしてから動きたいんです。」
「う~ん、確かに何か事情があるのかもしれないな。
思い出してから動いたほうがいいかもしれないけれど…
わかった。
オヤジとオフクロに聞いてみる。
うちもタダで置いとけるほど余裕はないから働いてもらうことになると思うけど、本当に大丈夫?」
「はい、ここに置いていただけるのなら一生懸命働きます。
働かせてください!
よろしくお願いします。」
「ところで、君の名前はどうしようか…
今、大切そうに握りしめてるのはネックレス?」
「はい。ユリのネックレスをつけていて…
私の持ち物はこれだけなんでしょうか?」
「そうだね。俺がみつけた時は何も持ってなかったよ。
君は道端に生えた木に、もたれかかるように座りこんだ状態で、意識を失っていたんだ。
ユリのネックレス、手がかりはそれだけか。
そうだ!!
君のことはこれから『リリー』と呼んでいい?」
「『リリー』キレイな呼び名。
リュカさん、ありがとうございます。」
「あー、ここは下町だから、その言葉じゃ浮いてしまうな。
もっと崩したほうがいい。
敬語なんか使う必要ないから。
俺のことも『リュカ』と呼び捨てで。」
「はい、わかりまし……
うん、わかった。リュ…、リュカ。」
「そうそう、そんな感じで頼むよ。
じゃあ俺は仕事に戻るね。
オヤジとオフクロには話しておくから。
また後で。」
「うん、ありがとう。
ご飯、美味しかった。
ごちそうさま。」
ニッコリ笑ってお礼を伝える。
「うん。その笑顔、客商売に向いてるよ。
うちのパンはあっという間に完売間違いなしだ。」
リュカは鼻歌を歌いながら、食器を片付けると、部屋から出ていった。
愛する旦那さんと2人で、子供たちを育てあげた。
旦那さんに先立たれた後は、田舎の一軒家に一人暮らし。
一人暮らしは寂しくて…
ずっと心が沈んでいた。
そんな中、ふと立ち寄ったパン屋で、パート募集の貼り紙が目に止まった。
思いきって応募したところ、なんと採用。
パン屋のパートを始めた。
朝早くからの仕事は大変ではあったが、パン屋のご夫婦は私と同年代で、優しく友人のように接してくれた。
だんだん気持ちが上向きになると、自分から友人へ連絡をとるようになった。
友人と時々 食事に行ったり、旅行へ出かけたり…楽しい時を過ごしていた。
それが…
今の姿はおそらく10代後半。
服装はシンプルなワンピースだが、肌や髪はよく手入れされている。
手足に傷跡がひとつもない。
もしかして、これは転生ってやつ?
私は誰なんだろう。
何か手がかりはないかと見回すが、バッグも見当たらない。
私は何も持たずに外に?
手ぶらで外を歩くかな?
何か事件に巻き込まれて倒れていた?
でもそれだと無傷で済むのかな~。
うーん、考えてもわからない。
私には、今の私の記憶がないんだ。
家もわからないんじゃ、帰れないじゃない。
どうしようーー
不安に包まれる中、無意識に首にかかっていた華奢なネックレスのペンダントトップをギュッと握りしめていた。
トントン
「おまたせ。
パン粥なら食べやすいかと思うよ。
さぁどうぞ。」
イケメンさんがパン粥とオレンジジュースを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
お言葉に甘えて、バクッ
クリーム系のスープに浸ったパンは柔らかでとびっきり美味しくて。
お腹が温まり、ほっこりする。
少しだけ不安な気持ちが軽くなった気がする。
人ってお腹が満たされると落ち着くんだな。
あー美味しい。
パクパク食べる私をじーっと見つめるイケメンさん。
食べづらいんですけど、彼が持ってきてくれたんだし、文句は言えないな。
「あの~、あなたの名前を教えていただけますか?」
「あー、自己紹介もまだだったね。
俺はリュカ。リュカと呼んでくれ。
このパン屋の看板息子。
君は?」
ここはパン屋さん?
看板息子って…自分で言う?
確かにイケメンからパンやおつりを手渡されると、嬉しいかも。
あーでも、ドキドキして恥ずかしいかな。
「私はーー、私は誰でしょう?」
「いやいや、それは俺が質問したんだからね。
俺って名前も教えたくないほど、怪しい?」
「いえ、そうではなくて…
本当にわからないんです。」
「えっ」
口元を手で押さえ、絶句してしまった彼。
「記憶喪失ってこと?」
「はい、おそらく。
どうしましょう?」
「どうしましょうって。
おいおい、困ったな。」
「あのー、ここパン屋なんですよね?
私を雇ってもらえませんか?
私、パン屋で働いた経験ならあります!」
「えっ?君が? 嘘だろ?」
頭の先から爪先まで観察されて、
「ないない。君のようなお嬢さんがパン屋っで働いたことがあるわけないだろ?
もし君が働いてたら噂になってるはずだ。
それに、ついさっき記憶喪失って。
ちょっと手を見せて。」
「はい。」
手を広げ、彼の方へと差し出す。
「こんな細くてキレイな手、本当は働いたことなどないんだろう?
親御さんか旦那さんが心配で探してるんじゃないか?
とりあえず届出を出しに行こう。」
えっ? 旦那さん?
私は既婚者の可能性があるってこと?
私はなぜ道端に倒れていたの?
「お願いします。このまましばらくここに置いてもらえませんか?
なぜ記憶がないのか…
もし忘れたいほど怖いものから逃げているのだとしたら、捕まってしまいます。
それに捨てられたのかも。
できれば状況がはっきりしてから動きたいんです。」
「う~ん、確かに何か事情があるのかもしれないな。
思い出してから動いたほうがいいかもしれないけれど…
わかった。
オヤジとオフクロに聞いてみる。
うちもタダで置いとけるほど余裕はないから働いてもらうことになると思うけど、本当に大丈夫?」
「はい、ここに置いていただけるのなら一生懸命働きます。
働かせてください!
よろしくお願いします。」
「ところで、君の名前はどうしようか…
今、大切そうに握りしめてるのはネックレス?」
「はい。ユリのネックレスをつけていて…
私の持ち物はこれだけなんでしょうか?」
「そうだね。俺がみつけた時は何も持ってなかったよ。
君は道端に生えた木に、もたれかかるように座りこんだ状態で、意識を失っていたんだ。
ユリのネックレス、手がかりはそれだけか。
そうだ!!
君のことはこれから『リリー』と呼んでいい?」
「『リリー』キレイな呼び名。
リュカさん、ありがとうございます。」
「あー、ここは下町だから、その言葉じゃ浮いてしまうな。
もっと崩したほうがいい。
敬語なんか使う必要ないから。
俺のことも『リュカ』と呼び捨てで。」
「はい、わかりまし……
うん、わかった。リュ…、リュカ。」
「そうそう、そんな感じで頼むよ。
じゃあ俺は仕事に戻るね。
オヤジとオフクロには話しておくから。
また後で。」
「うん、ありがとう。
ご飯、美味しかった。
ごちそうさま。」
ニッコリ笑ってお礼を伝える。
「うん。その笑顔、客商売に向いてるよ。
うちのパンはあっという間に完売間違いなしだ。」
リュカは鼻歌を歌いながら、食器を片付けると、部屋から出ていった。
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