【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第1章

DAY3(#13)

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 ふ、と肩の力を抜くように息を吐いた。
 
 「俺は、バース性があってもなくても……上手くは生きられなかったかな」

 自嘲気味に笑えば、文月さんは黙って俺を見つめるだけ。
 
 まるで続きは自分から話せと言われているような圧を感じ、それがまた、面白い気がしてくる――……文月さんにそんな意図はないだろうけど。

 俺は右手のシルバーリングをいじりながら言葉を続けた。

「バース性があっても同性同士の恋愛には厳しい目で見られがちでしょう?運命の番だったら、番になった後、血液検査すれば証明書が発行できるからそれで周りに認めてもらえますけど……」

 俺と康祐さんは違かった。
 
 血液検査もしたけど、高額な検査費用を取られるだけで家に届いた検査結果は無情にも、ということを思い知らされただけだった。

 ホルモンバランスが崩れた時には、その無慈悲な検査結果を破り捨ててしまったけど、康祐さんは強く抱きしめてくれた。

『大丈夫』だと何度も言い聞かせてくれた。

「……だから分かってたんです。運命の番じゃないこと。でも、”それが逆にロマンチックだろ”って二人で話して、納得して付き合ってました。……康祐さんのご家族にはどうやって認めてもらおうか、考えているところでした……」

 子供をこさえてしまおうかと思った時もあった。
 いわゆる既成事実というものを作ってしまえば――……。
 
 幸いと言うべきか、康祐さんは長男で下はまだ高校生の弟だった。
 
 その時、妊娠してしまえば、康祐さんの家に対して「初孫」という地位を手に入れることができる。
 
 それを堕ろせとは、相手も世間体を考えて言わないだろうと、俺は図々しいことを勝手に考えた。

 同性婚に対する差別がほんの少し蔓延るだけの今の世の中ならば、既成事実さえ作ってしまえば簡単に乗り越えられると思っていた。

 だから、なけなしの貯金をはたいてより精度の高い大学病院――……奇しくも今俺が入院しているこの病院でブライダルチェックなるものを受けたのだ。
 

 しかし、検査結果は俺がだと教えてくれた。

 
 ……その事実だけはどうしても、最期まで康祐さんに言えなかった。
 子供だけが、俺たちの最後の希望だと思っていたから。

 ……そんでさ、”俺の子供ができたら”なんて、やたら楽しそうに、彼が語るもんだから。

「出来損ないなのは、多分、バース性があってもなくても変わらないので。どっちでも、自分として生きていくしかない……」

 でもそれは、『康祐さんがいれば』の話だった。
 いないのなら――……いないのなら、意味はないのだ。

「……やっぱ、依存してますよね、俺」

 文月さんから目を逸らして、笑って言えば、文月さんは表情を変えないまま口を開いた。

「……番とは、そういうものです」

「ま、そう言われたらそうですけど……」

 文月さんの感情の見えない声が、今はどうしてか少し心地よい気がする。
 感情が見えないからだろうか。

 俺はふと、顔を上げる。

「今の話をしてもいいですか?」

 俺の言葉に文月さんは少し首を傾げたが、すぐに「どうぞ」と言った。

 俺は、表情の変わらない文月さんを見つめる。

「今って、AIが盛んでしょう?中には、AIに人生相談して元気になったりする人もいるじゃないですか」

 以前、周藤が言っていて時代の流れに目を丸くしたのが記憶に新しい。

「はあ、まあそういう話を聞くことが増えましたね」

 文月さんは急な話題転換についていけていないのか、不思議そうな声を出しつつ俺を見ている。
 俺は少し体を文月さんに向けて笑った。

「なんかふと、文月さんの無感情な声って安心するなって思って。だからみんなAIに相談したくなるのかなぁ?ほら、AIって無感情だし、自分の都合の良い答えを出してくれるでしょう?」

 ふへ、と笑うと、文月さんはわずかに眉根を寄せて、口をムッとさせた。

「……俺は、AIじゃないし、感情もありますけど」

 不満そうな文月さんが面白くて、俺はふへへ、と笑ってしまう。

「だから、俺はすごく最適なカウンセラーに当たっているのかもしれませんね。無責任な画面上での都合のいい答えではないけど、無感情な声のちゃんとした人間がそばにいてくれてるわけだから」

「……なんだか、あまり嬉しくはないですね」

 ぶすっと完全に拗ねてしまった様子の文月さん。
 おかしくて笑ってしまう。

 ふと、文月さんを見つめる。
 端正な顔は少し不満げな色を滲ませている。

 俺から顔を背けてバインダーに目を落とし、何かを書いていた。

 その様子を眺めながら、もう1つ頭によぎったことを口に出した。

「……まあでも同時に、AIが楽になりましょうと言ったら、死んでしまう人もいるそうですね」

 パッと顔を上げた文月さん。
 その表情はもう拗ねてなどおらず、いつも通りの彼だった。
 

「……俺は人間ですから」
 

 短く、そう呟いた。
 
 俺は何も返すことはなく、ただ外のシマトネリコの葉が揺らいでいるのを見つめた。
 
 
 ……この日の夜、ほんの少しだけ豆腐が食べられたのは、処方された薬のおかげだろうか。
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