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第1章
DAY4(#14)
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今日の昼ご飯は、七分粥と白身魚のあんかけ――タラらしい――、ほうれん草のおひたしが少しと、かきたまスープ。
デザートは、牛の絵が描かれたヨーグルトだった。
昨晩、豆腐を食べられたことを看護師に気づかれてから、朝食も固形物に近いものが出されるようになった。
献立表となっている小さな用紙を手に取り、ため息を吐く。
(少し食べられるようになっただけで、いきなりこんな量食えるわけないだろ……)
時代はSDGsなんだから。俺の胃袋を見せてやりたい。
……まあどんなもんか自分でもわかんないけど。
と、俺は責任を病院側に押し付けてみるも、食べられない自分が悪い以外他にないので、ただの八つ当たりなのだ。
どこかに責任の所在を求めたがるのは自分の悪い癖で、自分が生きづらい理由の1つなんだろうな。
もう一度ため息を吐いて、ひとまず七分粥にスプーンを入れ、そのまま口に運ぶ。
(……うん、味はない)
病院食とはこんなもんだよな、という味だ。
一度スプーンを置いて、どさっと背中をベッドに預ける。
ベッド本体を上半身だけ起き上がらせているため、寄りかかっても寝てしまうことはない。
ぼんやり食事を眺めていると、コンコンコンと丁寧なノックが3回聞こえた。
「は、はい……!」
まだ口の中と喉に粥の面影が残り、思わず声が上擦ってしまった。
返事をしてから二、三度咳払いをする。
引き戸を開けて顔を出したのは、今朝は顔を出さなかった人物――……佐々木先生だった。
「おはようございます、美澄さん。ごめんね、朝はちょっとバタバタして出てこれなくて」
「あ、いえ……」
謝られるようなことは何もないのに、佐々木先生は相変わらず穏やかに俺と距離を縮めてくる。
入院してから、佐々木先生は文月さんと対照的で、やたらフランクな医者だということが分かった。
「今日は気分どう?昨晩は夕飯を少し食べられたらしいって聞いたけど」
さすが大学病院。
報連相がしっかりされてらっしゃる。
俺は、「まあ昨日は……」とだけ返す。
佐々木先生は「おっこらせ」と顔に似合わずジジくさい声を漏らしながら、いつも文月さんが座っている丸椅子に腰掛けた。
「文月くんとはどう?仲良くしてる?」
ニコニコ、と言う効果音が聞こえてきそうなほど人懐っこい笑みで聞いてくる佐々木先生は、相変わらず文月さんとは違う。
「仲良く……まあ、そうですね。カウンセリング、してもらってます」
佐々木先生は、一瞬キョトンした顔をしたがすぐに何事もなかったかのように「そっかぁ~仲良くやってるかぁ~」と都合よく解釈していた。
(まあそう解釈してくれるのはありがたいけどね……)
だってそうしなければ、俺は康祐さんと過ごしたあの家に帰れない。
ふと俯いてかけ布団を握ると、そのわずかな挙動に気づいたのか佐々木先生は「そういえば、」と口を開く。
「文月くんからの報告書にさ、美澄さんが少しだけ意地悪を言うようになったって書いてあったけど、なんて言ったの?」
ニヤニヤといたずらっ子のような顔で聞いてくる佐々木先生に、俺は一瞬何のことかと考えたが、すぐにAIのことか、と思い当たった。
「……ああ多分、文月さんにAIみたいって言ったこと、かな」
「あれま。そんなこと言ったの?」
佐々木先生は、呆れたような顔をしつつも腹を抱えて笑った。
俺は、言い訳するかのように少し身を乗り出して「だ、だって!」と言った。
「文月さんって、無感情な声だったり、無表情でなんかロボットみたいだなって思ってて。でも。……昨日は、それが少し居心地よく感じたんです」
俺の言葉を聞く佐々木先生は笑わずに「居心地よく?」と聞いてきた。
俺は頷いて佐々木先生を見つめ返す。
「えっと、今ってAIが流行ってて人生相談して安心できるみたいな話よく聞くでしょってところから始めた話で、それって文月さんぽいなって思って」
「ふーん?」
佐々木先生は少し不思議そうに首を傾げながら言う。
「でもさ美澄さん。普通って逆じゃない?」
「え?」
佐々木先生は俺の瞳を見つめながら、言葉を続けた。
「『普通』は、相手が何を思っているのかわかる方が安心しない?」
「……」
佐々木先生の言葉は俺の心に少し引っ掛かりを覚えさせた。
そう言われれば、そうかもしれない。
「感情が分かれば相手の顔色を窺わなくてもやりやすいでしょう?色々と。でも、あの子――……いや、文月くんはそういった機微が、ぱっと見1つもないよね?どうして安心できるって思ったの?」
どうして?
どうしてって――……。
「……じゃあ先生こそ、なんでそんな人を俺のカウンセラーにしたんですか」
ムスッと言えば、佐々木先生は不意を突かれたようにキョトンとしたのちに、また腹を抱えて笑った。
「確かに!」と、パシパシ自分の太ももを叩きつつ笑う姿を見て、同じ場所なのに、文月さんがいる時と温度が違うなと思った。
デザートは、牛の絵が描かれたヨーグルトだった。
昨晩、豆腐を食べられたことを看護師に気づかれてから、朝食も固形物に近いものが出されるようになった。
献立表となっている小さな用紙を手に取り、ため息を吐く。
(少し食べられるようになっただけで、いきなりこんな量食えるわけないだろ……)
時代はSDGsなんだから。俺の胃袋を見せてやりたい。
……まあどんなもんか自分でもわかんないけど。
と、俺は責任を病院側に押し付けてみるも、食べられない自分が悪い以外他にないので、ただの八つ当たりなのだ。
どこかに責任の所在を求めたがるのは自分の悪い癖で、自分が生きづらい理由の1つなんだろうな。
もう一度ため息を吐いて、ひとまず七分粥にスプーンを入れ、そのまま口に運ぶ。
(……うん、味はない)
病院食とはこんなもんだよな、という味だ。
一度スプーンを置いて、どさっと背中をベッドに預ける。
ベッド本体を上半身だけ起き上がらせているため、寄りかかっても寝てしまうことはない。
ぼんやり食事を眺めていると、コンコンコンと丁寧なノックが3回聞こえた。
「は、はい……!」
まだ口の中と喉に粥の面影が残り、思わず声が上擦ってしまった。
返事をしてから二、三度咳払いをする。
引き戸を開けて顔を出したのは、今朝は顔を出さなかった人物――……佐々木先生だった。
「おはようございます、美澄さん。ごめんね、朝はちょっとバタバタして出てこれなくて」
「あ、いえ……」
謝られるようなことは何もないのに、佐々木先生は相変わらず穏やかに俺と距離を縮めてくる。
入院してから、佐々木先生は文月さんと対照的で、やたらフランクな医者だということが分かった。
「今日は気分どう?昨晩は夕飯を少し食べられたらしいって聞いたけど」
さすが大学病院。
報連相がしっかりされてらっしゃる。
俺は、「まあ昨日は……」とだけ返す。
佐々木先生は「おっこらせ」と顔に似合わずジジくさい声を漏らしながら、いつも文月さんが座っている丸椅子に腰掛けた。
「文月くんとはどう?仲良くしてる?」
ニコニコ、と言う効果音が聞こえてきそうなほど人懐っこい笑みで聞いてくる佐々木先生は、相変わらず文月さんとは違う。
「仲良く……まあ、そうですね。カウンセリング、してもらってます」
佐々木先生は、一瞬キョトンした顔をしたがすぐに何事もなかったかのように「そっかぁ~仲良くやってるかぁ~」と都合よく解釈していた。
(まあそう解釈してくれるのはありがたいけどね……)
だってそうしなければ、俺は康祐さんと過ごしたあの家に帰れない。
ふと俯いてかけ布団を握ると、そのわずかな挙動に気づいたのか佐々木先生は「そういえば、」と口を開く。
「文月くんからの報告書にさ、美澄さんが少しだけ意地悪を言うようになったって書いてあったけど、なんて言ったの?」
ニヤニヤといたずらっ子のような顔で聞いてくる佐々木先生に、俺は一瞬何のことかと考えたが、すぐにAIのことか、と思い当たった。
「……ああ多分、文月さんにAIみたいって言ったこと、かな」
「あれま。そんなこと言ったの?」
佐々木先生は、呆れたような顔をしつつも腹を抱えて笑った。
俺は、言い訳するかのように少し身を乗り出して「だ、だって!」と言った。
「文月さんって、無感情な声だったり、無表情でなんかロボットみたいだなって思ってて。でも。……昨日は、それが少し居心地よく感じたんです」
俺の言葉を聞く佐々木先生は笑わずに「居心地よく?」と聞いてきた。
俺は頷いて佐々木先生を見つめ返す。
「えっと、今ってAIが流行ってて人生相談して安心できるみたいな話よく聞くでしょってところから始めた話で、それって文月さんぽいなって思って」
「ふーん?」
佐々木先生は少し不思議そうに首を傾げながら言う。
「でもさ美澄さん。普通って逆じゃない?」
「え?」
佐々木先生は俺の瞳を見つめながら、言葉を続けた。
「『普通』は、相手が何を思っているのかわかる方が安心しない?」
「……」
佐々木先生の言葉は俺の心に少し引っ掛かりを覚えさせた。
そう言われれば、そうかもしれない。
「感情が分かれば相手の顔色を窺わなくてもやりやすいでしょう?色々と。でも、あの子――……いや、文月くんはそういった機微が、ぱっと見1つもないよね?どうして安心できるって思ったの?」
どうして?
どうしてって――……。
「……じゃあ先生こそ、なんでそんな人を俺のカウンセラーにしたんですか」
ムスッと言えば、佐々木先生は不意を突かれたようにキョトンとしたのちに、また腹を抱えて笑った。
「確かに!」と、パシパシ自分の太ももを叩きつつ笑う姿を見て、同じ場所なのに、文月さんがいる時と温度が違うなと思った。
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