【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第1章

DAY5(#19)

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 その晩、夕食には鶏むねと豆腐のつくねあんかけがメインのおかずとして出た。

 粥ほど柔らかくはないが、普通のご飯よりも柔らかいご飯もあって、小松菜とにんじんのやわらか煮浸し。
 
 サイコロ状の豆腐が入っているだけの味噌汁が添えられていた。

 デザートにはやっぱり、牛の絵が描かれたヨーグルト。

 (初めての、肉か……)

 今まではきっと消化優先の食事だったから、肉料理がでなかったんだろう。

(なんでこのタイミングで出るかなぁ……)

 心の中でぼやきながらも、箸を手に持ってみる。
 ひとまず、小松菜とにんじんの煮浸しは半分ほど食べられた。
 味噌汁もいつも通り飲める。

 ……しかし、メインのおかずにはなかなか手を伸ばすことができなかった。

 日が暮れるのも早くて、まだ17時台なのに外は暗い。

 一度、箸を置いて息を吐いた。
 背をベッドに預けて、鶏肉と睨めっこをしてみる。

(でも、食べなきゃ家に帰れないんだよなぁ)

 ふと、文月さんの言葉を思い出す。

 ――……『頑張っていますね』

 そうだ、俺は頑張らなきゃいけないんだ。
 ここから出るために、また今日も頑張らなくてはいけない。

 それが俺にできる精一杯のことなんだ。

 俺は箸を持ち直し、鶏と豆腐のつくねに箸を入れ、半分に割ってあんかけを少しつけ直してゆっくり口に運ぶ。

 口の中に、薄い醤油と生姜のような味が広がるも、一度噛めばゴロゴロと肉の形が分かる。

 一瞬、吐き出したくなってしまうが俯いて口を閉じる。

(ああいやだ、ここで吐き戻しちゃこの5日間の頑張りが無駄になる……)

 箸を置いて、必死に口を動かしてただ飲み込むだけに集中しようとする。

 ……しかし、一瞬にして全てを思い出してしまった。

 火葬場で嗅いだ遺体の焼ける匂い。
 俺を抱きしめてくれた大好きな康祐さんの体が、あんな煙になって最期に忘れられない匂いだけを置いて行った。

 鼻腔にこびりついた匂いは、きっともうなかった。
 なかったはずなのに――……。

「っお゛ぇ……っ」

 口を手で覆っていたが、ビシャっと胃袋の中身と共に吐き戻してしまった。

(ああ、……頑張ったねって言われたのに……頑張ったのに……っ)

 溢れる涙と、汚れた病院着。
 手元に残る肉片を見て、俺はだんだんと呼吸が浅くなるのを感じる。

「っひゅ、は、はっ、ヒューッ」

(あ、やばい……)

 嘔吐と涙で呼吸が乱れたせいで癖になっている過呼吸がぶり返した。

(か、看護師さん……呼ばなきゃ……)

 乱れた呼吸に胸を抑えながら、汚れた手もそのままにナースコールへ手を伸ばそうとしたが、手足の冷えと痺れと震えで上手く体が動かせない。

 そのまま、テーブルに乗っていたお盆の端を引っ掛けてしまいガシャンッと大きな音を立てて夕食は床に散らばってしまった。

 何故か整わない呼吸のまま、俺はそれを拾い上げなきゃ、片付けなきゃ、と思って床に手を伸ばしていた。

 (あ、)

 と、思った時には床に落ちて倒れ込む。

「ヒュッ、ヒュッ、はぁ、ふっ、ヒュ」

 息を吐けば良いのか吸えば良いのかわからない。
 額に汗が滲んでいるのが分かる。

(ああでも、このままなら……)



 
 

 

 





 そう思った時、意識の遠い場所で「美澄さん⁉︎」と焦る看護師の声が聞こえ、完全に意識を手放していた。









 
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