【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第1章

DAY6(#21)

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 大学病院の中庭は相変わらず人が多くて、中庭という空気をそれぞれが楽しんでいるように見えた。

 木々や花も元気に誇らしくそこで生きている。

 俺と文月さんは、たまたま空いていたこの間と同じベンチに腰掛けた。
 
 大きな木の下のベンチだから日差しを遮っているから、眩しくも暑くもなかった。
 
 木漏れ日が自分たちに模様をつけてくれている。

「はい、どうぞ」

 文月さんは丁寧に紙ナプキンまで持参していて、そのナプキンでサンドウィッチを包み、持ち手を作って差し出してくれた。

「無理に食べなくて大丈夫です。……美味しいかも、わかりませんし」

 簡素に言ったその言葉に俺は「え」と声を出す。

「これもしかして、文月さんの手作りですか?」

 そう問えば、文月さんは少し照れくさいのか俺から顔を逸らして、「……まあ」と小さく頷いた。

(まさか、そこまで気にさせてしまっていたなんて……)

 別に文月さんのせいで、ああなったわけじゃなかったのに。
 不器用な人だな、と俺は少し笑ってしまった。

 笑う俺を見て文月さんは不思議そうな顔を向けたが、特に何も言わず自分でサンドウィッチを頬張っていた。

 俺も食べようかな、と手元のサンドウィッチを見ると間に、どう見てもハムらしきものが挟まっていた。

(……ハム、か)

 昨日のよりも、肉感は薄いだろうし、他にも卵とかトマトとかあるから大丈夫……な、はず。
 
 にしても、肉で吐いたことわかってるくせに、ハムを挟めてくるとは、謝罪の気持ちと相反した行動では。

 ……と、思ったが、俺は勇気を出して一口頬張ってみた。

「……ん、んまい」

 至って普通のサンドウィッチ。
 卵も市販の白身よりも大きくゴロゴロした手作り感。トマトも少し分厚くて切るの苦労したのかな、なんて思った。
 シャキシャキのレタスときゅうりの噛みごたえも楽しくて、あっという間に1つ完食してしまった。

 ……朝食が食べられなかったのが嘘みたいだ。

 ぼんやり胃に消えている手元にあったサンドウィッチの面影を見つめた。

 「美味しいかも、……サンドウィッチ」

 ありがとう、と喉元まで出かかったけど、それを言うのはこちらもなんだか気恥ずかしくて顔を逸らして誤魔化した。

 すると、隣で、ふ、と空気の緩む気配がした。

「……お肉、食べられましたね」

「あ……」

 文月さんの静かな呟きに、ハッとする。
 
 そう言えば、ハムだったけど食べられたな。
 気持ち悪くもない。

 吐きたいとも思っていない。

 ふと、文月さんを見た。

「……っ」

 彼はどこか嬉しそうに目を細めて俺をみていた。

「……これで、報告書に”肉が食べられました”と書けますよ」
「え、あ……」

 え?だから、サンドウィッチを作ってくれたの?

 だから、わざわざ他の食材で誤魔化せるように手作りにしてくれたの?

 ……俺が明日、退院できるように?

 胸がザワザワとして、思わず胸に手を当ててしまった。

 それを見た文月さんは少し不安げに眉を寄せ「どうしました?」と聞いてくる。

 俺は、自分の胸が熱くなるのを自覚した。

 どうしてそこまでしてくれるんだろう。
 ただのカウンセラーのくせに。
 他にも患者を抱えていて、俺なんて何人かのうちの1人のくせに。

 どうして、そこまで寄り添ってくれるの?
 

「文月さんは……他の患者さんにも同じようにしているんですか……?」
 

 自分は何を、彼に聞いているのか。

 ザワザワと風で葉同士が擦れて音が鳴る。

 風に吹かれた文月さんの黒髪も、そよぐ。

 長いまつ毛に縁取られた黒い切長な瞳には、僅かに肩を上げた自分が小さく映り込む。

 文月さんは、ほんの少し微笑んで、しーっとでも言うように言った。





「……他の人には、内緒ですよ」




 ざあっと一瞬、強い風が俺たちの間の通り抜けた。
 
 どうしてか、彼の美しい微笑みだけが脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 
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