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第1章
DAY7(#22)
しおりを挟む「うん!脈拍も異常なし!体重も増加してるし、吐き戻しはあったけど、自分で飲み物も飲めてますもんね!」
よし、と佐々木先生は頷いて言った。
「今日、退院して良いですよ」
「え、……えっ」
ベッドの上で固まる俺に、佐々木先生はニッコリ微笑んだ。
その後ろには、控えめに文月さんがバインダーを抱え立っていた。
俺は嬉しさに思わず、涙腺が緩む。
(ああ、やっと……っ、やっと、帰れる……)
「よく頑張ってくれましたね、美澄さん」
佐々木先生の言葉が、あまりにも胸に沁みて俺は手の甲で口元を隠す。
「……いえ、……たくさん、お世話になりました……」
その言葉に佐々木先生は微笑む。
しかし、「ただ……」と言葉を続けた。
「退院時は基本、付き添いがいないと手続きができなくなっちゃったんだよねぇ。今からでも周藤さんたちとかに頼めます?」
「あ」
そう言えば、周藤夫妻から「退院日に仕事休めなかった、ごめん!」と連絡をもらっていたのを思い出した。
(うわ、どうしよう……)
てっきり一人で帰れると思っていた。
俺の様子に気づいた佐々木先生は、パッと後ろを振り返って文月さんを見て言った。
「飛鳥、行ける?」
「はい」
二人の会話に「え?」と首を傾げる。
すると佐々木先生はニッコリ笑う。
「文月くんが送ってくれるから、特別に退院OKしちゃう~」
「え゛」
それってありなの?
俺は帰れるならなんだって良いけど……。
そう思いつつ文月さんをみると、文月さんはなんでか軽く会釈をしてくる。
それに対し、なぜかこちらも会釈を返してしまった。
「うちの病院は付き添いがいない人は、カウンセラーかケアマネがついていれば退院可能なんですよ~。今は色んな事情で付き添いに来られない人、多いですからねぇ」
佐々木先生のセリフに、「ほぇ」と頷く。
「なので、退院手続きは文月くんに全部任せて、美澄さんは自分の準備をして帰っちゃって!あ、でも、2週間後にはまた同じ検査しますからね。あと薬も念の為2週間分入院中と同じもの出しとくね~」
「今、予約入れちゃいましょうか~」とゆるく呟いた佐々木先生は持っていたタブレットを操作する。
いつの間にか佐々木先生の後ろに立っていたはずの文月さんはいなくなっていた。
……退院の手続きをしてくれているのだろうか。
「あ、2週間後の午後14時でいかがです?」
先生の言葉にあわててスマホのカレンダーを開くも、康祐さんが亡くなって仕事も辞めてしまった俺には、カレンダーを見ずともなんの予定もなかったことに気づいて、「大丈夫です」と返した。
「じゃあ、そこでまた会いましょう。文月くんにも会いたい?」
なぜかニヤッと聞かれ、俺はなんとなく焦って「い、いや⁉︎」と少し大きな声を出してしまった。
すると佐々木先生は、後ろに誰もいないことを確認して俺に耳打ちしてきた。
「……文月くん、報告書に美澄さんの頑張ってたところたくさん書きまくって出してくれたんだよ」
(え?)
「うちの甥っ子、不器用で可愛いでしょ?」
「う、え……⁉︎ 甥っ子⁉︎」
佐々木先生のサラッとした爆弾発言に俺は、思わず目を白黒させてしまった。
「そ。俺の姉貴の息子なんですよぉ~。だからね、実は……」
佐々木先生は白衣のポケットに手を突っ込みウィンクをした。
「文月くんは、初期臨床研修医でまだ精神科医の卵ちゃん」
え、……えぇ。
まあ別に知らなくても良かったけど、知らせてくれていても良かったのでは……。
一気に色々な情報が飛び込んできて、俺は「はへぇ」としか声を出せなかった。
「あ、でも美澄さんを実験台にしたわけじゃないからね?」
「はあ」
「美澄さんなら、勉強になると思ったのよ。飛鳥にとっても」
もう面倒なのか、飛鳥呼びになってるし……。
俺は佐々木先生に呆れた目を向ける。
佐々木先生は苦笑して言った。
「オメガ患者って言ってもさ、美澄さんは特殊だったんだよ飛鳥にとって。だから……なんて言うかなぁ。精神科医としても、オメガ専門診療としても、美澄さんは特別なの」
うん、それしか言えないね。と、楽しげに言う佐々木先生の言葉の意味はわからなかったが、文月さんが戻ってきたことによってその会話は終わった。
「じゃ、美澄さん。2週間後、またお待ちしてますね」
佐々木先生の笑顔と担当看護師の笑顔に見送られ、俺はなぜか主治医の甥っ子――……もとい、文月さんと病院を後にすることとなった。
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