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第2章
#7
しおりを挟むふ、と力を抜いたのか文月さんは俯いていた顔をあげて、空を見た。
「……というのは、冗談です。これからも美澄さんと私の関係値……いや、名前は変わりません」
文月さんは「ふふ」と微笑んで、栄養ドリンクの小瓶をコンビニの袋にしまい、胸ポケットの万年筆に少し触れた。
(癖、なんだろうか……)
やっぱり、誰かからの贈り物だろうか。
俺はそんな文月さんをやけに冷静に観察しながら、少し唇を尖らせる。
「冗談……ですか」
なんだよ、ちょっとドキッとして馬鹿みたいじゃんか。
俺はむすっとして文月さんに向けていた体を前に戻した。
「病院なんて、用事がなければないほど良いんですよ」
文月さんの声が耳に届く。
(それは、そうだけどさ……)
「……でも俺は、文月さんや佐々木先生と出会えて……まあ、悪くなかったと、思ってるんですよ……」
自分の手を遊ばせながら、シマトネリコの花をむしろうとする子供を看護師が必死に止めているのを見ていた。
「自分の人生は、康祐さんや周藤たちだったけど……。そこに、いっときでも、文月さんや佐々木先生たちが入ってくれた……」
俺は、文月さんを見て微笑む。
今、木によじ登ろうとする子供を見て「シマトネリコ」と呼べたのも文月さんが教えてくれたから。
康祐さんが苦しんだであろう七日間……あの一週間も、苦しくなかったと思わせてくれたのも文月さん。
――……『……エンドロールがいい。自分が死んだ時はエンドロールがいいから、自分の大切な人も時間をかけてゆっくりみんなを見つめて、静かに眠ってほしいと思ってます』
頭に流れる文月さんの声に心を預ける。
走馬灯は嫌だと言える彼は、心根が優しいのだと俺は知っている。
それはカウンセラーとしては、弱点になりうるのかもしれない。
でも、人としては……俺は「正解」だと思うんだ。
「俺のエンドロールには絶対、文月さんと佐々木先生が流れると思うんですよね」
今のままじゃきっと『友情出演』程度になってしまうだろうな。
でも紛れもなく俺を救ってくれたのは、彼らであり文月さんでもある。
康祐さんはきっと大きく名前を映し出されるだろうし、きっとたくさんの写真が映し出されるんだと思う。
でもさ、それって人生で一人にしなくたって良いと思うんだ。
「だからさ、もう俺の人生にレギュラー出演しちゃいません?役名を変えてさ」
文月さんはこぼれ落ちてしまうのではないかと思えるほど、目を見開いてその瞳に俺と光を一緒に写し込む。
深い黒色の彼の瞳に光が差し込んで、――……純粋に美しいと思った。
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