【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第3章

#2

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 とある土曜の昼間。
 
「要くん、不眠症なんだって?」

 両手に大量の買い出し袋を下げたカオリさんが満面の笑みで、唐突にやってきた。

「え、か、カオリさん?」

 俺は急に来たカオリさんに面食らいながらも部屋へとあげる。

 彼女はうちの部屋の構造を知り尽くしているので、我が物顔でどしどしと荷物を置き「手洗うねー!」と言って洗面所へと消えていった。

 (ど、どうしたんだ?)

 急な来訪に戸惑いながらも、カオリさんなら悪い気は勿論しないし、なんなら俺の数少ないオメガ仲間だ。

 来てくれて嬉しいとまで思う。

 手を洗ったらしきカオリさんがソファに座ったので、俺は慌てて「コーヒーと紅茶……あと、ほうじ茶ありますけど」と言うと、カオリさんは「じゃあ、ほうじ茶がいいかな!」と軽快に言う。

「ありがとねー!急に押しかけたのに」
「いえ。俺もカオリさんに会いたかったから嬉しいです」

 彼女にはどうしてか素直な気持ちを話せる。

 やっぱり、女性でありオメガである以前に、彼女の性格が自分よりも逞しいからだろうか。

「いやー!ヒロくんから、要くんがまた体調ぶり返してるっぽいって聞いたから様子見にきたんだけど、なんか違いそうだねぇ?」

 カオリさんはなんだか嬉しそうな様子でそんなことを言ってくる。

 そう言えば、周藤と電話した時に声の様子で一発でバレたんだった。

(毎回、様子見にきてくれるの……優しいな)

 純粋な善意であり、好意でやってくれるからこそ嬉しさがじんわりと胸に沁みてゆく。
 
 俺は温かいほうじ茶をマグカップに注ぎ、自分の分と合わせて二つ持ってカオリさんに差し出した。

「ありがとねぇ」
「いえ。ねえカオリさん、この大量の食材が入った袋って……」

 俺が恐る恐る聞けば、カオリさんはニヤッとイタズラな笑みを浮かべる。

「勿論、君のご飯だよ」
「え⁉︎ こんなに⁉︎」

 カオリさんは「バカねぇ、全部なわけないでしょう」と笑った。

「あーびっくりした」
「これ、作り置きも含めてだから」
「えっ」

(それはイコール、結局全部俺の分ってことでは?)

「冷凍しときゃ食べられるし、他人が作った料理なら嫌でも『食べなきゃ申し訳ない』って気になるでしょ?」

 その考えは正しいけれども。

「要くん、目離すとすぐ食べなくなるから無理やり作っておこうってヒロくんと話して勝手に押しかけました!」

 イエイ、とピースしたカオリさんに俺は笑う。

「なんかすみません」

 そう言うと、カオリさんは「あ、そうだった!」と慌てて立ち上がり、康祐さんの写真の前に行く。

 手を合わせてくれる。

 自分以外の人間が手を合わせてくれる景色を見るのは、どうしてこんなにも胸が暖かくなるのだろうか。

 不思議と頬が緩む。

 カオリさんは康祐さんへの挨拶を済ませて、またソファに戻り俺の隣に座った。

「そんでもって本題よ、要くん」
「……びょ、病院は3ヶ月後に行きますんで……っ」

 被せるように言うと、カオリさんは一瞬キョトンしたのち「やあねぇ!違うわよ~!」と太ももをバシバシ叩いて豪快に笑った。

 その様子は佐々木先生とリンクして、なんだか面白い。

(また無理やり病院に連れてかれるのかと思ってた……)

 俺は内心ほっと胸を撫で下ろす。

 その様子を見たカオリさんは、とんでもないことを言い出した。

「要くんさ、好きな人できた?」

「……はい?」

 カオリさんの言葉がうまく飲み込めず、俺は首を傾げて彼女の顔を見る。

 少しふっくらしただろうか。

 快活な彼女は、前に会った時はバリバリのキャリアウーマンといった風貌だったが、今はどこか落ち着いた様子でそこに居る。

「いやね、要くんの様子が変って聞いて、オメガなりに色々考えたのよ。勿論、ただの風邪とか流行病も含めて素人的にね?」

 俺が布団で蹲っている間、カオリさんはそこまで考えてくれてたなんて。

 ……という感動もあるが。

 だとしたらなぜ、先ほどの「好きな人」の質問につながるのだろうか。

 カオリさんは言葉を続ける。

「流石にさ2~3ヶ月風邪が長引くなんてあり得ないし、熱もないし、でも症状は倦怠感と、食欲不振、あと不眠症か?」

「そう、ですね」

 カオリさんは、うんうんと腕を組んで頷く。

「まあこれはあくまでも個人的予測と……女の勘ってやつだから話半分で聞いて!」

 ちゃんと前置きをしてくれるのは、彼女の優しさだなと思いつつ俺は素直に「はい」と彼女の言葉の続きを待った。

 

「要くんの症状ってさ、『運命の番』に会ったオメガの慢性不調みたいなもんだと私は思うわけ」


 
(ん?)


 
「カオリさん、もう一度」

 

 カオリさんは困ったように笑って、俺にわかるようにもう一度優しく言い直してくれた。



 

「だからね要くん。君はこの3ヶ月で……というか、この不調が出始める前に、どこかで『運命の番』に出会ってしまってない?」




カオリさんの言葉を、俺は静かに頭で反芻させた。


(……運命の番に出会ってる……?)

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