【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第3章

#7

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 ミドリさんは俺の謝罪に「ふふ」と笑った。

 少し怪訝な顔をしてしまったのだろうか。

 ミドリさんはハッとして「ごめんなさいね」と口を手で隠して困ったように笑った。

(別に、何も思っていないのに……)

 むしろ、穏やかに接してくれてありがたいのにな。

 俺は、ままならないこの感情をどうしたら良いか分からず「す、すみません……」とこっちも謝ってしまった。

 ミドリさんは手を下ろして、また湯呑に口をつけた。

 そしてゆっくり口を開く。

「……康祐とは、どのくらいお付き合いしてくださってたのかしら」

 ミドリさんのセリフに俺は、少し唇を湿らせて口を開いた。

「4年と半年……ですね」

「そう……」

 ミドリさんは頷いて何も言わずまたお茶を啜った。

(ああ……緊張と寝不足で頭痛がひどい)

 コンディションはずっと最悪なのだ。

 でも今日くらい、ちゃんとしていたい。

 俺は、一瞬目を強く瞑って痛みを誤魔化した。

「ミドリさん……と呼んでもよろしいですか?」

 俺の質問に、ミドリさんは「ええ」と頷く。

 俺はお茶を一啜りして、口を開いた。

「どうして、俺に連絡を取ってくださったんですか?」

 純粋に気になっていた質問をミドリさんに問いかける。

 ミドリさんは少し俺の顔を見つめた後、また庭の方へ視線をやってしまった。

「……康祐のね、携帯を解約しようと思ったのよ」

 どこか虚とも思えるミドリさんの瞳を見つめる。

 光で透けると淡い茶色だ。

 ……康祐さんと同じ瞳。

「中身を見たら、あの子の携帯って面白みがなくってね」

 クスクスと笑うミドリさん。

「ほら、男の子なら何かしらあるんじゃないかっていらずら心も持って見てやろうって」

 にやっと笑ったミドリさんは本当にいたずらっ子みたいで、俺もつられて少し笑ってしまった。

 しかしすぐに表情を戻して、彼女は言う。

「まあ……本当はSNSとか銀行口座とかパソコンのパスワードとか……解約に必要な情報とか、会社にしなきゃいけない連絡とかのために見たんだけどね」

(まあ、そうだろうな……)

 康祐さんの携帯なんか見たことないな。

 見る必要性もなかった。

 ミドリさんは顔をあげて俺を見る。

「私たち……あ、私と康祐の父親ね。私たち、康祐がオメガの男の子と付き合ってるってことは知ってたんだけど、それ以上教えてくれなかったから、二人がどれだけの仲なのか分からなくて」

(そうだったのか……)

 ミドリさんは湯呑を両手で包み込みながら、呟く。

「教えてくれなかった理由はわかってるの……。私とお父さんが、同性愛に良い印象を持っていなかったからね」

 ミドリさんに真っ直ぐ見つめられ、俺は喉が詰まったような感覚になり、湯呑を傾けそうになり慌ててテーブルに置く。


 せっかく落ち着いていた心臓がまたうるさく鳴り始める。

「……けどね、いざ死んじゃったら息子のことをなんでも知りたくなるもんでね。そんな時携帯を開いたら、待ち受けがあなただったのよ」
「え?」

 康祐さんの待ち受けって一緒に植物園へ見に行った時の花の写真ではなかっただろうか。

(俺の、写真……?)

「あなたが、レンズじゃなくて康祐を見て笑ってる写真が真っ先に目に入ってきて。……私、思わず泣いてしまったのよねぇ」

 ミドリさんは「なんでかわかる?」と照れくさそうに言う。

「え、い、いえ……」


 息子の想い人が死ぬまで男だったから?
 オメガだったから?
 オメガに洗脳されてると思ったから?


 一瞬にして頭の中で色々な思いが巡り、手のひらが汗でびっしょりになっているのがわかった。

 ミドリさんは微笑みながらも、口を開いた。


 

「……息子が、……死ぬ最期まで、って思って、……親としてすごく嬉しかったの」



 ほんのり赤くなったミドリさんの鼻の頭に、俺もなんだか鼻がツンとして痛くなった。

 なんだろう……なんでだろう。

 やっぱり、なんで、彼みたいな人が亡くなってしまったんだろう。

 ……俺ならよかった。

 俺だったらもう、こんな風に悲しむ人はこの世に居なかったのに。
 
 
 
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