39 / 112
第3章
#7
しおりを挟むミドリさんは俺の謝罪に「ふふ」と笑った。
少し怪訝な顔をしてしまったのだろうか。
ミドリさんはハッとして「ごめんなさいね」と口を手で隠して困ったように笑った。
(別に、何も思っていないのに……)
むしろ、穏やかに接してくれてありがたいのにな。
俺は、ままならないこの感情をどうしたら良いか分からず「す、すみません……」とこっちも謝ってしまった。
ミドリさんは手を下ろして、また湯呑に口をつけた。
そしてゆっくり口を開く。
「……康祐とは、どのくらいお付き合いしてくださってたのかしら」
ミドリさんのセリフに俺は、少し唇を湿らせて口を開いた。
「4年と半年……ですね」
「そう……」
ミドリさんは頷いて何も言わずまたお茶を啜った。
(ああ……緊張と寝不足で頭痛がひどい)
コンディションはずっと最悪なのだ。
でも今日くらい、ちゃんとしていたい。
俺は、一瞬目を強く瞑って痛みを誤魔化した。
「ミドリさん……と呼んでもよろしいですか?」
俺の質問に、ミドリさんは「ええ」と頷く。
俺はお茶を一啜りして、口を開いた。
「どうして、俺に連絡を取ってくださったんですか?」
純粋に気になっていた質問をミドリさんに問いかける。
ミドリさんは少し俺の顔を見つめた後、また庭の方へ視線をやってしまった。
「……康祐のね、携帯を解約しようと思ったのよ」
どこか虚とも思えるミドリさんの瞳を見つめる。
光で透けると淡い茶色だ。
……康祐さんと同じ瞳。
「中身を見たら、あの子の携帯って面白みがなくってね」
クスクスと笑うミドリさん。
「ほら、男の子なら何かしらあるんじゃないかっていらずら心も持って見てやろうって」
にやっと笑ったミドリさんは本当にいたずらっ子みたいで、俺もつられて少し笑ってしまった。
しかしすぐに表情を戻して、彼女は言う。
「まあ……本当はSNSとか銀行口座とかパソコンのパスワードとか……解約に必要な情報とか、会社にしなきゃいけない連絡とかのために見たんだけどね」
(まあ、そうだろうな……)
康祐さんの携帯なんか見たことないな。
見る必要性もなかった。
ミドリさんは顔をあげて俺を見る。
「私たち……あ、私と康祐の父親ね。私たち、康祐がオメガの男の子と付き合ってるってことは知ってたんだけど、それ以上教えてくれなかったから、二人がどれだけの仲なのか分からなくて」
(そうだったのか……)
ミドリさんは湯呑を両手で包み込みながら、呟く。
「教えてくれなかった理由はわかってるの……。私とお父さんが、同性愛に良い印象を持っていなかったからね」
ミドリさんに真っ直ぐ見つめられ、俺は喉が詰まったような感覚になり、湯呑を傾けそうになり慌ててテーブルに置く。
せっかく落ち着いていた心臓がまたうるさく鳴り始める。
「……けどね、いざ死んじゃったら息子のことをなんでも知りたくなるもんでね。そんな時携帯を開いたら、待ち受けがあなただったのよ」
「え?」
康祐さんの待ち受けって一緒に植物園へ見に行った時の花の写真ではなかっただろうか。
(俺の、写真……?)
「あなたが、レンズじゃなくて康祐を見て笑ってる写真が真っ先に目に入ってきて。……私、思わず泣いてしまったのよねぇ」
ミドリさんは「なんでかわかる?」と照れくさそうに言う。
「え、い、いえ……」
息子の想い人が死ぬまで男だったから?
オメガだったから?
オメガに洗脳されてると思ったから?
一瞬にして頭の中で色々な思いが巡り、手のひらが汗でびっしょりになっているのがわかった。
ミドリさんは微笑みながらも、口を開いた。
「……息子が、……死ぬ最期まで、誰かを愛したまま死ねたんだなって思って、……親としてすごく嬉しかったの」
ほんのり赤くなったミドリさんの鼻の頭に、俺もなんだか鼻がツンとして痛くなった。
なんだろう……なんでだろう。
やっぱり、なんで、彼みたいな人が亡くなってしまったんだろう。
……俺ならよかった。
俺だったらもう、こんな風に悲しむ人はこの世に居なかったのに。
24
あなたにおすすめの小説
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
ノエルの結婚
仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。
お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。
生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。
無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ
過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。
J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。
詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。
王太子殿下は命の恩人を離したくない
まんまる
BL
セネシス王国の第一王子レイヴィンは、10歳になった時、父王から側近候補のエース公爵家のオリバー、スペット侯爵家の コルトン、そしてガナー伯爵家のサランを紹介される。
4人は親睦を深める中、自分達だけで街に遊びに行く計画を立て、実行した。
楽しい一日を過ごすうち、四人はかけがけのない親友になる。
しかし、王城へ帰ろうかという時、レイヴィンを狙った暴漢に襲われてしまう。
その時、レイヴィンを庇って犠牲になったのは、かけがえのない親友だった。
成長したレイヴィンは、事件の前と変わらない態度で接してくれる友への切ない気持ちが、罪の意識からなのか恋なのか分からず戸惑う。
二人が自分の気持ちに気付いた時、一度分かたれた人生がもう一度交わる。
受けに負い目がある王太子レイヴィン(α)×傷を負った伯爵令息サラン(Ω)
短いお話の予定です
オメガバースは話の流れで触れる程度です
Rは15程度ですが※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる