【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第3章

#8

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「勝手でしょう?あなたのこと、認めたくない気持ちが正直あったの。でも、……いざ死んじゃったら、あなたに感謝せざるを得なくなっちゃったのよ」

 ミドリさんは困ったように笑いながら、目に溜まった涙がこぼれないように視線を彷徨わせていた。

「私たちね、オメガには何も思わないの。だって、私もオメガだから」

 ミドリさんは、自嘲気味に笑う。

 その時に一筋溢れてしまったらしい涙を、誤魔化すように手のひらで拭った。

「……でもね、同性愛にはあまり良いイメージがなかった。それは今も変わらないの……。お父さんの方がもっとすごいけどね」

 少し微笑む彼女の泣き顔を見つめながら、俺は無意識に両手を強く握った。

「昔の人間だから許してね、なんて言うにはあなたにとても失礼だと思って会いたくなったのが本音。だから、お父さんに内緒であなたを家に呼んだの」

 ミドリさんはいたずらっ子な顔がよく似合うな。

 俺は視線をミドリさんに向けたまま、全ての言葉を受け止める覚悟で背筋を伸ばした。

「同性愛ってやっぱり……孫が見たかった私たちにとっては、すごくネックだった……。オメガの男の子だとしても、オメガの男の子の不妊率は高いから、孫が見られないんじゃないか、後継がいなくなるんじゃないかって」

 たくさんお父さんと話したの。と、ミドリさんは俯く。

 俺は、正面にあるテレビの液晶画面に自分が反射していることに気づいた。

(……最後に病院に行った時より、また痩せてるな自分……)

 場違いなことを思う。

 ミドリさんの言葉は、俺の心を抉るには十分だった。

 だって、その言葉通り俺は妊娠がしにくい体だったから。

 オメガとアルファが打たなければならないワクチンのおかげで、オメガの妊娠率……特に男のオメガが顕著に数字を下げているのが政府の統計で発表されているのだ。

 国のお偉いさんは喜び、ベータが『普通』だと信じてやまない連中も手を上げて喜んでいた。

 ……万歳三唱なんてクソ喰らえだって、康祐さんに八つ当たりしてしまった記憶がある。

「……だから、あなたを受け入れられなかった。康祐の葬儀の時も、式場の外にいたのは知っていたわ。見えていた。でも、中に入ってって声をかけられなかった……どうしても」

 あの日の光景を思い出す。
 焼けた人肉の匂い。

 康祐さんだったはずの灰色の煙。
 細胞が燃やされて風で自然に還っていく。

「……正直な話ね、」

 ミドリさんは、ほんの少し鼻声のまま言葉を続けた。

 「恨んでいた時もあったの……。康祐が亡くなった後……。あなたと出会っていなければ、康祐は今頃奥さんと子供に恵まれていて、生き続けている道があったかもしれないって」

 孫だけでも遺ったかもしれないって。と言うミドリさん。

 何も言えるはずがない。

 だってそれは、俺自身だって思っていたことがある。

 俺と出会っていなければ、康祐さんはまだ生きていたかもしれない。

 だって、あの部屋に住みたいと言ったのは俺で、物件を率先して探したのも俺だった。

 康祐さんは、あの部屋からほんの少ししたところで轢かれた。

 俺があそこを選ばなければ。

 俺ではなく、別の人だったら。

 康祐さんじゃなくて、俺だったら。

 何度考えただろうか。

 考えたくなくても、頭の片隅でずっと思ってしまう。

 「……けど、そんな時にあの携帯を開いたらあなたの可愛い笑顔が目に映ってね」

 可愛い、だなんて本当に思うはずがない。

 だって、……恨まれて当然なのだから。

「遺された者は、何かを都合よく恨んで憎んで、後悔して、もっとどうにかしてやりたかったと、もがくけど……あの待ち受け見たら、全部……どうでもよくなっちゃったの……」

 
 ミドリさんは笑う。



 

「『本気で誰かを愛せた息子』の方が誇らしいなって思ったのよ。……相手の性別やバース性に拘らず、『人として』……人を愛するってことを知っていたんだなって」


 
 康祐さんの笑った顔。声。
 自分より少し高い背丈。

 俺は、女の子の隣に立てばちゃんとした男なんだ。

 でも、康祐さんの隣に立ったら『恋人』になれた。

 その瞬間が、本当の自分になれて好きだった。

 彼の隣にいれば、怖いものなんて何もなかったんだ。

 差別の目も、見下されることも、彼は俺にしないから。

 彼の作る世界の中で生きていくことだけが、生き甲斐であり幸せだったんだ……。


(会いたい……のに、ね)


 康祐さん。
 やっぱり、置いていかないでよ……。

 あなたの腕の中で眠らせてよ。


 滲む視界に、俺は強く目を瞑って俯いた。
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