【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第3章

#10

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 俺は顔を上げる。

 視界に捉えたミドリさんも、ぼたぼたと涙を流していて、目が合って二人で少し笑った。

 ティッシュで涙を拭いて鼻をかむ。

 ズビーっていう鼻の音に空気が混じってしまって、変な音になってしまい顔を赤くする俺に、ケラケラ笑うミドリさん。

 お互いに泣き腫らした後の顔をして、冷たくなったお茶に気づいたミドリさんが「淹れ直すね」と席を立ってくれた。

 腫れぼったくなった顔を冷やすように揺れるレースカーテンを見ていると、ミドリさんは言う。
 
「康祐はね自然妊娠だったけど、下の子は今年で十七歳になるけど不妊治療をして授かった子なのよ」

「そうなんですか……」

 ミドリさんはお茶を淹れ直しながら言う。

「康祐は、両家の初孫だったからものすっごい可愛がられてねぇ」

 愛おしそうに思い出を語るミドリさん。
 
「要くんも、不妊治療していたの?今はお金が大変じゃない?昔みたいにオメガ用の助成金とかもないでしょう?」
「ん?」

 ミドリさんは湯呑をまた俺の前に持ってきてくれる。

 湯気が立つその湯呑を横目に、ミドリさんの台詞に引っ掛かりを覚えて首を傾げた。

(不妊、治療……?)

「あ、私たちしかいないしと思って話しちゃったけど……ごめんなさい、今日会ったばかりでセクハラよね」

 ミドリさんは申し訳なさそうに肩をすくめて言うが、いやそこではない、と俺は身を乗り出してミドリさんに言った。

「……ど、どうして俺が不妊治療してるって思ったんですか……?」

 少し声が震えてしまった気がする。

 そりゃそうだ。
 だって体が震えているんだ。

 体の芯が震えているから、手足の指先が冷えていく感覚になる。

 俺の顔が強張っていたのか、ミドリさんは少し困ったように眉根を寄せて言った。


「……前に、康祐が言ったのよ。『俺らの子供は諦めてくれ』って」

「……へ」

 どうして?
 どうしてそんなことを……?

 脳みそがぐらりと揺らぐような感覚に思わず、手で体を支える。

 ミドリさんは「要くん?大丈夫?」と顔を覗き込む。

「あらやだ、顔が真っ青だわ」

 泣きそうになってしまった彼女に、俺は「大丈夫です、それより……」と口を開いた。

「こ、康祐さんはなんでそんなことを?」

 ミドリさんはパタパタと水道水を汲みに行き、俺にコップを差し出した。

 少し気泡がある透明なコップを渋々受け取る。
 
 手のひらがひんやりと冷えたおかげか、元々冷え切ってはいたけれど、なんだか落ち着くような気がした。

 ミドリさんは先ほどよりも俺の近くに座り、俺と目を合わせた。

「どうして……子供の話、したんですか?」

 もう一度、俺は静かに問うた。

 ミドリさんは少し視線を彷徨わせた後、俺を見つめ息を吐いた。

「康祐ね、あなたと付き合い始めてから何度かうちに寄ってご飯食べるついでに、私とお父さんに説得しに来てたのよ……」

「え?」

(説得……?何を……)


「要くんとの交際と……結婚を」

「……!」


 ドクンっと心臓が激しく鳴った。

 バクバクと、激しい音がミドリさんの声をかき消してしまいそうで、慌てて胸を押さえる。

「……要くん?」

 顔を覗き込んでくるミドリさんに俺は、「そ、それで……?」と促した。


 聞いても、いいよね……?康祐さん……。


 ミドリさんは、少し間を置いて言った。

「その時、康祐が言ったの……」



 俺は生唾を飲み込み、手のひらに滲んだ汗と背中にかいた嫌な汗が嫌だった。

 ……いや、本当に嫌なのはミドリさんから聞く、真実だった。




 

「……『要は子供が産めないから、もし会っても言わないでやってくれ』って」




 
 墓まで持って行けたと思っていたのは、俺だけだった。
 

 ねえ康祐さん……あなたはどこまで、『俺』を知っていたの?


 深く息を吐いて、両手で顔を覆うしかなかった。


 
(今は少し、アンタが恨めしいよ……)


 ちょっとくらい、一人で背負わせてよ。
 カッコつけないでさ。
 
 揺れる白いレースカーテンが、康祐さんの代わりに笑っているように思えた。

 
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