42 / 112
第3章
#10
しおりを挟む俺は顔を上げる。
視界に捉えたミドリさんも、ぼたぼたと涙を流していて、目が合って二人で少し笑った。
ティッシュで涙を拭いて鼻をかむ。
ズビーっていう鼻の音に空気が混じってしまって、変な音になってしまい顔を赤くする俺に、ケラケラ笑うミドリさん。
お互いに泣き腫らした後の顔をして、冷たくなったお茶に気づいたミドリさんが「淹れ直すね」と席を立ってくれた。
腫れぼったくなった顔を冷やすように揺れるレースカーテンを見ていると、ミドリさんは言う。
「康祐はね自然妊娠だったけど、下の子は今年で十七歳になるけど不妊治療をして授かった子なのよ」
「そうなんですか……」
ミドリさんはお茶を淹れ直しながら言う。
「康祐は、両家の初孫だったからものすっごい可愛がられてねぇ」
愛おしそうに思い出を語るミドリさん。
「要くんも、不妊治療していたの?今はお金が大変じゃない?昔みたいにオメガ用の助成金とかもないでしょう?」
「ん?」
ミドリさんは湯呑をまた俺の前に持ってきてくれる。
湯気が立つその湯呑を横目に、ミドリさんの台詞に引っ掛かりを覚えて首を傾げた。
(不妊、治療……?)
「あ、私たちしかいないしと思って話しちゃったけど……ごめんなさい、今日会ったばかりでセクハラよね」
ミドリさんは申し訳なさそうに肩をすくめて言うが、いやそこではない、と俺は身を乗り出してミドリさんに言った。
「……ど、どうして俺が不妊治療してるって思ったんですか……?」
少し声が震えてしまった気がする。
そりゃそうだ。
だって体が震えているんだ。
体の芯が震えているから、手足の指先が冷えていく感覚になる。
俺の顔が強張っていたのか、ミドリさんは少し困ったように眉根を寄せて言った。
「……前に、康祐が言ったのよ。『俺らの子供は諦めてくれ』って」
「……へ」
どうして?
どうしてそんなことを……?
脳みそがぐらりと揺らぐような感覚に思わず、手で体を支える。
ミドリさんは「要くん?大丈夫?」と顔を覗き込む。
「あらやだ、顔が真っ青だわ」
泣きそうになってしまった彼女に、俺は「大丈夫です、それより……」と口を開いた。
「こ、康祐さんはなんでそんなことを?」
ミドリさんはパタパタと水道水を汲みに行き、俺にコップを差し出した。
少し気泡がある透明なコップを渋々受け取る。
手のひらがひんやりと冷えたおかげか、元々冷え切ってはいたけれど、なんだか落ち着くような気がした。
ミドリさんは先ほどよりも俺の近くに座り、俺と目を合わせた。
「どうして……子供の話、したんですか?」
もう一度、俺は静かに問うた。
ミドリさんは少し視線を彷徨わせた後、俺を見つめ息を吐いた。
「康祐ね、あなたと付き合い始めてから何度かうちに寄ってご飯食べるついでに、私とお父さんに説得しに来てたのよ……」
「え?」
(説得……?何を……)
「要くんとの交際と……結婚を」
「……!」
ドクンっと心臓が激しく鳴った。
バクバクと、激しい音がミドリさんの声をかき消してしまいそうで、慌てて胸を押さえる。
「……要くん?」
顔を覗き込んでくるミドリさんに俺は、「そ、それで……?」と促した。
聞いても、いいよね……?康祐さん……。
ミドリさんは、少し間を置いて言った。
「その時、康祐が言ったの……」
俺は生唾を飲み込み、手のひらに滲んだ汗と背中にかいた嫌な汗が嫌だった。
……いや、本当に嫌なのはミドリさんから聞く、真実だった。
「……『要は子供が産めないから、もし会っても言わないでやってくれ』って」
墓まで持って行けたと思っていたのは、俺だけだった。
ねえ康祐さん……あなたはどこまで、『俺』を知っていたの?
深く息を吐いて、両手で顔を覆うしかなかった。
(今は少し、アンタが恨めしいよ……)
ちょっとくらい、一人で背負わせてよ。
カッコつけないでさ。
揺れる白いレースカーテンが、康祐さんの代わりに笑っているように思えた。
14
あなたにおすすめの小説
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
ノエルの結婚
仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。
お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。
生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。
無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ
過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。
J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。
詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。
王太子殿下は命の恩人を離したくない
まんまる
BL
セネシス王国の第一王子レイヴィンは、10歳になった時、父王から側近候補のエース公爵家のオリバー、スペット侯爵家の コルトン、そしてガナー伯爵家のサランを紹介される。
4人は親睦を深める中、自分達だけで街に遊びに行く計画を立て、実行した。
楽しい一日を過ごすうち、四人はかけがけのない親友になる。
しかし、王城へ帰ろうかという時、レイヴィンを狙った暴漢に襲われてしまう。
その時、レイヴィンを庇って犠牲になったのは、かけがえのない親友だった。
成長したレイヴィンは、事件の前と変わらない態度で接してくれる友への切ない気持ちが、罪の意識からなのか恋なのか分からず戸惑う。
二人が自分の気持ちに気付いた時、一度分かたれた人生がもう一度交わる。
受けに負い目がある王太子レイヴィン(α)×傷を負った伯爵令息サラン(Ω)
短いお話の予定です
オメガバースは話の流れで触れる程度です
Rは15程度ですが※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる